本物に勝てるわけないですよ?
私の役目。
そう聞きながら私は何処かぼんやりとしてしまう。
「大丈夫ですか? リズ様」
「大丈夫よ。色々と考えてしまって」
「……リズ様は本物です。そしてコミヤは偽物。コミヤという偽物が、本物に勝てるわけないですよ?」
「頼もしいわ、ヘレン。……私もがんばらないとね。迷っていてはそれが足を引っ張るでしょうし」
私はそう呟いて、唇を引き締めた。
そこでヘレンが私に、
「他に何か悩み事でも?」
「いえ、その“リザール国”の私の婚約者である王子様は、シルフという名前だそうよ」
「……存じております」
ヘレンはすでに知っていたらしい。
知らなかったのは私だけかしら、と思って、そこで元の場所に帰るらしいトレドが、
「ではまた何かありましたら、お尋ねします。リズ様」
「ええ、よろしく」
そう答えながらも私は次に何があるのだろうと考えてしまう。
起こりそうなことは一体なんだろう?
「都市とは離れているから、グド王子たちには情報は入らない。こんなに離れた場所に追いやったのも計算の内かしら」
「そうでしょうね。即座に連絡する魔道具……一応はそういったものは高価で、ある一定条件が必要といった話を聞いた事があります」
「そうなの。でもそんなに簡単に、都市のこちらの情報が流れてたまるか、とは思うけれど」
「油断は禁物です」
そう言われて私はそうね、と答える。
けれどその日は何事もなく、それから数日はいたって平穏。
今頃最中調整を都市の方でしているのだろうかと私は思う。
そして今日はチョコレートケーキを焼きにこの家にやって来た。
ココアパウダーとチョコレート、砂糖少なめの濃厚なお味にして、甘いクリームを添えていただいた物は好評だった。
着々と色々なお菓子の種類が増えていっている気がする。
そう思いながら嬉しそうに食べているシルフを見て、
「美味しい?」
「美味しい」
「よかった」
そう私は返しながら、お菓子に手を出す。
そして食べながら、くすぶっている気持ちに蹴りをつけようと私は思う。
だからケーキを食べたあと私は知り負と二人で外を散歩しないかと誘った。
心地よい風が私の頬を撫でる。と、
「リズ、楽しそうだね」
「うん、ちょっと、決めたことがあって」
「なんだい?」
「私ね、シルフが好きなの」
様子を見てから、冗談だと言い出そうと思ったけれどシルフはとても驚いたような顔をして、次に微笑み、
「……駆け落ちは出来ないな」
「冗談、冗談だから」
「嘘だね。本気だった」
「そう、見えた?」
「見えた」
「そう」
ウソがばれてしまったなと私が思っているとそこで、シルフが、
「迎えに行くから」
「どうやって?」
「そのとき考える」
「適当すぎるよ」
「まあ、その時にはリズに驚いてもらおう」
冗談めかして笑う。
私の気持ちにシルフは答えることはできないけれど、こんな小さな嘘で、気持ちを表現してくれたように思う。
好意的に考え過ぎだろうか?
でもシルフが嬉しそうだから、そう思ってもいいのではないかと思う。
その日は私は幸せな気持ちになりながら、別荘に戻ったのだった。
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