第6話 アイドルデビューに向けてのレッスン(2)
そのとき、加世が何か思い出したように私へ声をかけました。
「明日カラオケボックスへさゆ子ちゃんと2人で行くんだけど、和実ちゃんもよかったらいっしょに行かない?」
「それだったら、カラオケボックスで3人が歌の練習をしたらどうかな? みんなで何度も練習すれば、うまく歌うことができると思うよ」
「和実ちゃんは歌もうまいから、私たちにも上手な歌い方を教えてほしいな」
こうして、私たち3人はカラオケボックスへ集まる約束をすると、それぞれの家路へ戻って行った。
翌日、加世とさゆ子の2人はカラオケボックス『M-Starプラザ』の前で待っていた。
「約束していた時間まで残り10分足らずだけど、和実ちゃんはまだこないなあ」
「和実ちゃんは月曜日に藤本副部長とコンビでラジオに出るから、その準備で忙しいかもしれないけど……」
加世は腕時計の表示している時間を見ると、午前9時50分を指していた。3人が集まる約束をした午前10時まで、あと少ししかありません。2人は、和実がまだこないのでそわそわしている様子である。
そこへ、和実が急ぎ足で走り駆けるようにして、2人が待っているカラオケボックスへやってきた。
「遅くなってごめん! 月曜日のラジオ番組の準備と発声練習をしていたのでつい……」
「もうっ、和実ちゃんはせっかちなんだから!」
「まあまあ、ちゃんと約束の時間に間に合ったんだし」
私たちはすぐにカラオケボックスの受付を済ませると、店員が案内した部屋へ入ることにした。その部屋へ入ると、先客がいないことに私たちはホッと一安心した。部屋の中に先客がいると、カラオケを使っての歌の練習がしづらくなるからである。
「それじゃあ、最初は私が歌ってみるわ」
私は、受付で手渡されたカラオケの端末から曲を選ぶことにした。私が選んだ曲は、ドリームマジカルズの新曲である『Let’s go say春』である。自分が最終候補メンバーまで残りながらも、最後に選考から漏れてしまったあのアイドルグループである。
ドリームマジカルズはしばらくの間伸び悩んだ時期があったが、数年前にブレイクを果たしてからは年末恒例の音楽祭出場の常連となるほどの人気グループとなった。それ故に、最終候補から唯一メンバーに選ばれなかったことに、私は複雑な思いを抱いている。
それでも、私はあえてドリームマジカルズの新曲をカラオケで歌う決心を固めた。これからユメルサとしてアイドルデビューを目指すためにも、まずは自分がお手本を示すことが必要だからである。




