第3話 アイドルグループの名前はユメルサ(2)
ジョーは、加世以外の2人がどんな名前なのか聞いてみた。テレビやラジオへはまだ出演し始めたばかりなので、新人アナウンサーの名前を知っておくにはちょうどいい機会です。
「ところで、あなたたちの名前は? 加世さんは、よくここへくるから知っているけど」
「私は夢宮和実というの。ジョーさん、よろしく!」
「私の名前は湯沢さゆ子。これからもよろしくね」
私とさゆ子は、ジョーに自分の名前をそれぞれ伝えました。これを聞いたジョーは、やさしそうな顔つきで3人を見つめていた。
すると、私はジョーの名刺で気になるところを見つけた。
「ジョーさん、名刺の郵便番号が3ケタなんだけど……」
ジョーの名刺に記されている郵便番号は3ケタであることから、少なくとも郵便番号が7ケタ化される以前の1998年1月以前の名刺であることは確かである。
「そうか、よく気づいたね。わしは、人気アイドルのマネージャーだったことは先ほど言った通りだが…」
「ジョーさん、話している途中で口ごもっているけど、どうしたの?」
ジョーは、担当していたアイドルのことについて話している途中で急に言い出さなくなった。これを聞いた私たちは、ジョーが急に沈黙したのは何か理由があるのではと感じた。
そのとき、ジョーは目から涙を流しながら再び口を開いた。それは、私たちが聞いてもとてもつらい内容といえるものである。
「わしが担当していたアイドルだった住本はつみは、自ら命を絶ってしまったんじゃ……。ううううっ……」
それは、ジョーが担当したアイドルの自殺というショッキングな発言である。温厚な顔つきのジョーが涙を流す姿に、私たちがいるテーブル席の周りは重苦しい雰囲気に包まれた。
それは、今から30年ちょっと前の1985年のことである。
今と違って、当時は歌番組の全盛期であり、そこには男女問わず数多くのアイドル歌手がステージで熱唱を繰り広げていた。親衛隊と呼ばれる熱烈なファンによる追っかけも、アイドル歌手の人気のバロメーターといえるものであった。
そんな中、女性アイドル歌手を数多く輩出しているスクイードプロダクションで新人アイドル歌手のデビューが正式に決まった。
「えっ? ぼくがこのアイドルのマネージャーに?」
「今度デビューする住本はつみは、わが事務所にとっても期待が大きいからちゃんと頼むよ」
「はい、分かりました!」
ジョーこと川瀬城司は、事務所内で第一営業部長から住本はつみの担当を任されると、すぐにこの先のスケジュールについて確認を行うところである。
事務所に入社してまだ2年目のジョーにとっても、これからデビューするアイドルを全力でサポートしようと分刻みのスケジュールと格闘しながら仕事をこなしている。