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転生魔女と天才聖女 ~居場所をなくした私たち二人が、最強の相棒となって幸せを見つけにいく物語  作者: 汐柳伊織


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28.巨大串焼き肉vs野菜スープ ~秘めたる老夫婦の想い

 あのお肉、わたしの顔と同じくらいの大きさがあるんじゃない?


 わたしの目と胃袋は正直である。


 これまで生きてきた五年間で、見たこともないような大きさの串焼き肉を目の当たりにして、思わず目が釘付けとなってしまった。


 しかし、隣のリアが服を引っ張ってきたため、すぐさま正気に返る。


 彼女はぽけ~としながらも、何か言いたげだった。


 わかってるから、安心して。


 ここに来たばかりのときもそうだったけれど、気さくに話しかけてきたあの人たちが、妙にわたしたちに興味を示しているような気がしたので、気にはなっていたのだ。


 ふたりは笑顔を崩すことなく、焚き火を挟んだ向こう側で、腰を曲げるようにしながらこちらを見つめている。


 けれど、わたしたちが少し警戒していることに気がついたみたい。


 おじいさんの方が「かっかっか」と豪快に笑った。


「まぁそうだな。よいよい。身構えるのも無理はなかろう。どれどれ」


 彼はそこまで言うと、地べたにどっかと腰を下ろした。


 そして、おばあさんが持っていた木のお皿に串焼き肉をひとつずつ載せると、それをわたしたちの前に差し出すようにしながら地べたに置いた。


「え、えっと……?」


 いまいち状況の推移についていけなくて戸惑っていると、


「この肉はエーシェンで仕入れた(ピガー)の肉でな。お互い旅人同士、ほんの挨拶代わりというわけだ。毒など入っておらんから、た~んと食え」


 おじいさんはそう言って、もう一度笑った。


 その笑顔からは邪気は感じられず、逆に、本当にいい人にしか見えない。わたしは、


「そ、そうですか。なんだかすみません。ありがとうございます」


 相手に合わせるように、そう素直に頭を下げつつも、


 ――豚肉!?


 内心では狂喜していた。


 この五年間で食べたお肉といえば、なんの動物のお肉かわからないような、富裕層などが捨ててしまう切れ端ばかり。


 神殿では一応鳥肉を食べさせてもらえたけれど、なんの鳥かもわからないし。


 けれど、目の前にあるのは違う。正真正銘の豚よ、豚。


 こんがりと焼け目がついていて、適度に塩が振られているのもわかる。


 じゅわっとした油も浮かび上がっている。


 あぁ、なんていい匂い。


 こんがり焼けた豚肉特有の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。


 ごくり。


 食べたい。だけれど罠かもしれない。


 わたしにはリアを守るという究極の使命がある。


 どうしたらいいの、女神様。


 老夫婦への警戒心が解けないようにと、ひたすらお肉の誘惑と戦い続けるわたし。しかし、


「はむはむ。んん~~! おいしいのですっ。やっぱりお肉、最高なのです!」


「え……?」


 わたしの右横で、口周りも手も肉の脂でギトギトにしたリアが、幸せそうに串焼き肉にかぶりついていた。


「ちょ、ちょっとぉっ、リアぁぁぁっ」


 わたしは思わず、人目もはばからずに悲鳴を上げてしまった。


 そんなわたしたちを見て、老夫婦はふたりして豪快に笑う。


 あぁ、もうっ。毒入ってたらどうするのよっ。


(大丈夫よ、そんな気配はないから安心しなさい)


 どうやら心の叫びを読んだらしい。クロニャンが優しく教えてくれた。


(ほ、ホントでしょうね?)


(疑り深い子ね。わたしたちは魔力回路(パス)を通じて契約者の健康状態とかもなんとなくわかるのよ。ヴィーが無反応なんだから、大丈夫でしょ)


 彼女はそれだけ告げると、再び奥の方へと引っ込んでいってしまう。


 わたしはひとり、心の中で溜息をつくしかなかった。






 ――はぁ……さて、どうしようかな。


 しばらくの間、本当においしそうに食べているリアを恨めしげに眺めていたのだけれど、このまま食べないというのもなんかもったいない気がした。


 それに、あまり警戒心剥き出しにしすぎて、おじいさんたちとの関係がおかしくなるのも嫌だし。


 わたしはさんざか迷ったあげく、結局、意を決して恐る恐るお肉にかぶりついてみることにした――が、


「んんん~~!」


 何これ! めちゃくちゃおいしいんですけど!?


 噛んだ瞬間、見た目以上に脂がのっていた豚串から、じゅわ~っと肉汁があふれ出してきた。


 そのおいしさたるや。


 見た目のインパクトだけでなく、味付けまで豪快だった。


 この世界の食べ物はみんな薄味なので、それがここにも現れていたけれど、でも、間違いなくこれまで食べたお肉の中で一番おいしい。


「おいひぃっ」


 思わずほっぺたが落ちそうになり、リア同様夢中でかぶりついてしまった。


 それを見ていたおじいさんたちが、満足そうに声を上げて笑った。


「がはは。喜んでくれたようで何よりだ。やっぱり子供はそうでなくてはな」


 おじいさんは好々爺然とした優しげな笑みを崩さず、ひとしきり笑ったあと、


「――実はな。わしらにも昔、お前さんたちとよく似た愛らしい孫娘たちがおったのだ。年の頃も同じくらいで、ホンにいつも笑顔で一生懸命だったのを、今でもよく覚えておる。息子夫婦ともども、流行病に倒れて亡くなってしまったがな」


 微笑みながらも、どこか遠くを見るような目つきで、そんなことを話し始めた。


「おまごしゃん?」


 リアが口をもごもごさせなら、不思議そうにしている。


 焚き火を見つめていたおじいさんが、わたしたちを交互に見るようにしながら頷いた。


「あぁ、そうだ。本当にかわいい子供たちだった。よく、じいじ、じいじとにっこり笑いながら甘えてきたものだ。だからついついな。お前さんたちくらいの年の子供を見かけると、構ってしまいたくなるのだよ。いや、本当に悪い癖だ。すまんかったな。怖かっただろう?」


「そうだったんですか」


 おじいさんはにこにこしていたけれど、どこか寂しげでもあった。


 その表情に嘘はまったく感じられない。


 ごめんなさい、疑ったりして。


 どうやらこの人たちは、見たまんまの、本当にいい人たちみたいだった。


「大丈夫です。謝らないでください。わたしたち、ちっとも怖くありませんでしたから」


 謝罪も込めて、おじいさんを安心させてあげようと思ったのだけれど、


「いや、無理せんでいい。本来なら、お前さん方は親に守られているのが当たり前な頃だのに、こうやって旅をしておるのだ。さぞやいろいろ、気を揉まねばならんかっただろう? 気が休まることもないし、だが警戒は怠ってはならん。ほんに不憫でならん」


 わたしたちはまだ旅を始めて半日しか経っていないから、おじいさんが言うほど、気が張り詰めていたわけではない。


 けれど、この人が心配してくれている旅の気苦労なんかは、痛いほどよく理解できた。


 だって、旅を始めると覚悟したとき、一番に感じたことだったから。


 わたしは、出会ったばかりの赤の他人をここまで親身になって(いたわ)ってくれるこのふたりに、心の底から感謝した。


 すでにちょっとしたアクシデントには巻き込まれてしまっていたけれど、それでもこうやって、旅を始めて早々、いい人たちに巡り会えた。ホント、感謝しないとね。


 そんなことを思いながら、胸が温かくなる感覚にしんみりしていると、 


「――ところでだ」


「はい?」


 なんだかおじいさんと隣のおばあさんが不思議そうな顔をして、焚き火の上に設置してあった小鍋を覗き込んでいた。


「これはいったい何の料理だ?」


「え……? ただの野菜煮込みスープですが……」


「確かに見た目はそうなのだが、どうも知っている匂いとは全然違ってな」


「えぇ、本当に。こんな匂いの食べ物、あったかしら?」


 ふたりして小首を傾げながらも興味津々といった感じで、視線を外そうとしない。


 ……もしかしなくてもこれ、食べたがってるよね?


 ずっと火にかけたままだったから、だいぶぐつぐつ煮えちゃってて、あまりもう残ってない。


 本当は二杯分ずつ食べて今日の夕飯は終わりって感じにしようかと思っていたのだけれど。


 ……ま、まぁいっか。


 あんなごちそうもらっちゃったしね。


「あの、もしよろしければ、食べてみますか?」


「お? ええのか?」


「もちろんですよ。わたしたちも、こんな豪華なお肉いただいちゃってますし」


「そ、そうか。では遠慮なく」


 わたしは残ってたスープを器に入れて、おじいさんたちに差し出した。


 ふたりは熱々で火傷しそうな野菜煮込みをフウフウしながら恐る恐る口に運び――そして、目を剥いて固まった。


「なんだこれはっ……。嬢ちゃん、これは本当に野菜スープか!?」


「え? あ、はい。そうですが……」


 なんか今にもショックで倒れてしまいそうな、そんな顔してる。


 もしかして、口に合わなかったのかな?


 そんなことを考えていたら、いきなりおじいさんが泣き出した――え? なんで?


「ぅおぉぃっ。なぜこんなにもまろやかなのに、くどさがないのだっ。塩もそれほど入っていない気がするのに、なんと味の濃いことか! この香りはなんだ? 胡椒でもないし、遙か北の町で作られる魚醤(ぎょしょう)とも違う。なんだこの異様に懐かしい心地の良さは!」


 おじいさんは天を仰ぐようにしていたけれど、いきなりわたしを凝視した。


「うまい!」


 そう叫んだあとは、ただひたすらにスープを飲み続けるのだった。






「いや、失礼。少々取り乱してしまった」


 あっという間に食べ終えたおじいさんたちは、ふたりして顔を赤くしながら取り繕っている。


「いやぁ、あんなうまいもん食ったのは、生まれて初めてだ。嬢ちゃん、あれはいったい何を入れておるのだ?」


「え、えっと、それはですね……」


 もしここで、「その辺の雑草と塩を混ぜたものです!」なんて言ったら、この人たち、どんな顔するんだろう?


「えっと――それは内緒です」


 わたしは最上級のにっこり笑顔を浮かべた。


 反応が怖くて言えなかった。


 おじいさんとおばあさんは、そんなわたしの受け答えに、お互い顔を見合わせていたけれど、すぐさま笑い声を上げた。


「いや、まぁ、そうだろうな。あっはっは。これまた失礼。これほどの一流の味、うまくやれば店も開けるからな。そうそう人に教えて、商売敵を増やしたくもないだろう」


「ですね」


 どうやら違う方向に納得してくれたみたい。


 まぁいっか。


 ほっと安堵の吐息を吐き出していると、


「さてと。すっかり邪魔してしまったな。嬢ちゃんたちも明日、早く発たねばならんだろう?」


「そうですね。わたしたちはエーシェン村に向かっている途中ですので」


「なるほど。てことはザルツークから来たのか」


 おじいさんはそう言って、どこか渋い顔を浮かべたけれど、


「まぁよい。だったらなおのこと、今日は早めに休んだ方がよいな。早朝から出発せねば、日没までに辿り着けなくなってしまうからな」


「そうですね」


 立ち上がって手を振ってくるおじいさんたち。


「今日は本当にうまい飯を食わせてもらった。ありがとな嬢ちゃんたち。いい夢を」


「はい。おやすみなさい」


 わたしとリアも、相変わらず食べきれないお肉を手に持ったまま、手を振ったのだけれど、そんなときだった。


「たくっ、なんなんだよ、これ。この井戸水腐ってんじゃねぇかっ」


 突然、夜の闇を切り裂くように、野営地の奥から男の人の叫び声が聞こえてきた。

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