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滅ぼしの醸成  作者: 藤野彩月
第六部
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告白⑦ 敵か味方か

 寺西の訪問からひと月した後、俺は一旦帰京した。ただ、実家に帰る勇気は全く出ず、しばらくは()()()()は忘れようとした。あくまで外見上は。再び都内で自分の住処を探し、医療業界ではない職につき、夏季休暇はアメリカに渡って瞳に会いに行った。そこであいつが現地の大学に通ってるのをいいことにいっその事移住しようかとも思ったが、却下された。結局は逃れられないさだめだった。


 事が動いたのは帰国して間もない頃だった。


 空港からタクシーで自宅へ帰る途中で、とある病院に人だかりができ、建物の傍にはパトカーが止まっていた。警察官、そこの病院の関係者と様々な制服を着た人間がいたが辺りをブルーシートで隠していたため、具体的に何があったのかはわからなかった。もっとも、その時の俺は時差ボケと長いフライトで疲弊してたこともあり、(物騒だなぁ、病院側はシャレになんないだろな。)と、傍観者の立場にいたのだが。


 この騒動を目撃した次の日の昼頃、警察の刑事二人が俺の家を訪ねて来た。


 これが天谷さんとの出会いだった。正直第一印象は良くなかった。

 

 俺個人は後ろめたいことはないとしても、やはり警察による突然の訪問は気持ちの良いものではない。黒霧会の例の不祥事の当事者である理事長の、成人した息子が何かを隠していると睨んでいたにしても、引っ越したばかりだったので、なぜここにガサ入れしに来たのか訳が分からなかった。

 嫌でも忘れようとしていた事を思い出させたものだ。朝霧家と言う血を持ってる限りどうしようもないことだが。


 彼の後ろには後藤という大きな体をした若い刑事が戸惑った様子だったため、俺の家への訪問は天谷さんの一存だったことを後で知った。


 「君は朝霧秀一君だね?」玄関に入るなり天谷さんは尋ねた。

 「は、はぁ。そうですが。」

 「そうか。やっと会えたな。一昨日まで不在だったものだから。」

 刑事と言うこともあるが、独特の張りつめたオーラがあった。でも言うべきことは言っておいた。

 「れ、例の黒霧会の改ざん問題なら僕は何も知りませんよ。僕は昨日アメリカから帰ったばかりなんです。彼女に会いに。確かに僕は朝霧秀臣の息子ですが、学生時代に家を出てそれきりなんで。」

 そう言うと、天谷さんはほんの一瞬だが(やっぱりな)と言うような笑みを漏らし、後藤さんは(えぇっ!?)と目を丸くした。しかし、天谷さんは0コンマ何秒後かにはまた真顔に戻った。


 「いや、今日はその話をしに来たんじゃないんだ。」


 俺の話に無関心なふりをした天谷さんに遮られた。俺は訳が分からずイライラしてきた。京都であの婆さんに押しかけられた時と同じ状況だったからかもしれない。でも、今回は相手が相手なので(何しに来た!)とも言えない。


 「では、何のご用件で?」

 

 追い出したい気持ちを抑えて、冷静に聞いた。


 「君は昨日アメリカから帰国したと言ったな?N空港から自宅(ここ)までどうやって帰ったのか教えてくれないか?」

 「タクシーです。」

 「そうか。何時ごろにN空港からタクシーに乗った?」

 「午前11時ごろでした。」

 「なるほど。では途中でタクシーの中からN市民病院が見えただろう。後藤!」

 天谷さんが後藤さんに声をかけ、タブレット端末の画面を俺に差し出させた。それは昨日俺が見た何かしらの騒動があった病院の画像だった。

 「えぇ、はい。確かに見えました。周りがブルーシートに覆われていて、パトカーなどが止まっていたのを覚えています。あの、言っておきますがこれ市民病院なんですよね?ウチとは何の関係も…。」

 「あぁ、全くない。実は昨日の早朝にここに入院していた女性が飛び降り自殺を図ったんだ。幸い植え込みに落ちたので命に別状はなかったがな。次にこの画像の人物を見てくれ。言っておくが昨日自殺未遂をした人とは別の女だ。」


 なぜわざわざ俺に関係のない自殺騒動の事で聞き込みに来たのか。心の中で(勘弁してくれ!)と思いながら仕方なく次の画像に目をやると…。


 「…!?」


 あの時は端末の中の画像を確認するのに夢中だったので気にも留めなかったが、天谷さん達は俺の反応を観察していたに違いない。この画像の人物を見てこの黒霧会の跡取りはどんな顔をするのか、会ったことがあるのかないのか、この人物とどういう関係があるのかを知っているのかどうかも。

何せその画像は遥さんの顔写真だったからだ。


 「君はこの女を見たことがあるか?」

 

 いくら相手が威厳のあるベテラン刑事だと言え素直に即答できなかった。正直に「ある。」と言ってしまえば、何らかの形で寺西の耳に入るだろう。それは朝霧家の最大の隠し事を嫡男の俺が認めたことになり、あの不祥事がいつかは忘れ去られたとしても、あの人が生きてる限りはずっと言われ続けることになるのだ。


 「ありません。」気が付くと答えていた。見せられてから答えるまで実際は3秒くらいだったと思うが、俺にはそれより長く感じた。

 「そうか。分かった。」

 思いの外あっさりと天谷さんは端末を下げた。そして俺に捜査協力の礼を簡単に言うと、さっさと出て行った。俺はもっと他に聞きたいことがあったのに。

 

 二人が出て行った直後に、俺はキッチンにあるインターホンのモニターをONにした。彼らはまだそこにいた。こちらに背を向けて何かを話し合った後、揃って俺の家のドアを振り返り、意味ありげな表情でドアを眺め、再び背を向けて立ち去って行った。


 自殺騒動、遥さんの写真、二人の警察官…。


 その夜、寺西から怒りの電話がかかってきた。


 「今日そこに天谷とかいうオッサンが乗り込んできたやろ!あいつには気ぃ付けなはれや!!何や私の知らん間に勝手に秀一さんの勤務先を探り当てて住所聞き出したらしいわ!遥の事聞いたんか!?…そんならええわ。もしまた接触しに来たら私に言わなあきまへんで!?」

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