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社会人向けの無料公開講座

「お~い、そこのお主、ずっとそこでぼけーっと何を考え込んどるんじゃ?」

「うわぁぁぁ?!!」


 耳元で突如囁かれたしわがれ声に、俺の意識は現実に戻ってきた。


「ん? 脳力判定装置ってことは、転入生かい。ふむ、どれどれ」


 勢い余ってベッドに倒れこむ俺を尻目に、いつこの部屋に入ってきたのか、ヒゲの豊かな老人は杖をベッドの脇に立てかけ、パソコンのディスプレイを見やった。

 その光景が、何だか珍しく思える。いや、珍しいというのは違う。だって、22世紀でも老人は普通にパソコンを使っていたんだから。


「ふむ、マズロー・アスモダイ君と言うのか。こりゃまた珍しいくらいに悪い点数じゃが、お主、脳内知識の電気情報を全く購入しとらんようじゃな?」

「……ええ」

「訳有りのように見えるが、親御さんとの仲はうまくいっていないのかのぉ?」


 知識の電気情報を買うとなると、それなりの金額がいるっていうのは見当がつく。普通なら親御さんが子どもにそれを買い与えてやるんだろうが……俺の点数があんまりにも悪いもんだからこの爺さん、俺が親と仲が悪くて、知識の電気情報を与えられていないって思ったらしい。


「いえ、俺は22世紀の人間で……つい先日、冷凍保存から解凍されたばかりで」


 返答に爺さんは意外そうに目を丸くし、どこか呆然とした面持ちを俺に向けたまま、さっきまで試験官がふんぞり返っていた椅子に腰を下ろした。


「まさか、この老いぼれより前の時代の人間が、こんな一介の高校の試験を受けにくるとは」

「おじいさんはいつの時代の出身で?」

「28世紀の生まれじゃよ。脳内の情報を電気情報化させる事に成功した、最初の世代じゃ」


 今が42世紀だから、ざっと1400年前。つまり、目の前の人は冷凍冬眠とかしていなければ1400歳以上ってことか。それならこの老人姿も納得……


 ? あれ?


 そう言えば俺、解凍されてから、今まで老人に会ったことがなかったな。

 みんな若くて、働き盛りの人達ばかり。年齢は高くても、四十台前半くらいか? という人達を数人見た程度。

 爺さんみたいに、いかにも『お年寄りです』っていうのは、この時代でははじめて見た。


「じゃが、なんでここの高校の試験なんぞ受けようと? ここより良い高校は数こそ少ないがあるし、何より、ここはカグラ家の息がかかった場所じゃ。お主、カグラ家がこの街、この国でどういう存在であるかは、知っておるのかの?」

「一応知ってますよ。あの自殺バカ……じゃねえや、カグラさんにケンカ売っちゃいまして。まぁ、誤解だったんですけどね。色々すったもんだあって、ここの高校以外、入れそうな所がなかったんで」


 今思い返しても、俺、バカなことしたなぁ……


「自殺バカ……もしかして、アカリにケンカ売ったのか、お主?」


 アカリ? どっかで聞いたような名前だが……誰だっけ?


「この呼び名は好かんが、自殺令嬢と言えばわかるかの? カグラ・アカリ。カグラ財閥の人間じゃよ」


 自殺令嬢。あぁ、アイツのことか。ファーストネーム、そういえば覚えてなかった。

 爺さんは立派な白いその顎ヒゲをなでながら、ひょひょひょ、と笑っているのか、しゃっくりをしているのか、今ひとつよくわからない声をあげている。


「なるほど、なるほど。うんうん」


 何度も大きく頷くその様はまるで、俺がテストで27点だったのが『合点がいった』と言外に言われているようで……そう思うのは、被害妄想か?


「出直してきます」


 あのヘンテコなパーマテストは、間違いなくおかしいと俺は思う。

 でも、ああやって点数が出た以上、恥ずかしいことに変わりは無い。クソ!

 頭にセットされていたヘンテコパーマもどきを取り外し、ベッドの上に置き、


「まあ待ちんしゃい。お主、高校に入学したいと思ったのはどうしてかの?」


 ああもぅ、同じ事を二度も言わせないでくれよ。


「あの自殺バカにケンカ売ったせいで」

「それは、ここの高校に入らざるを得なかった理由じゃろ? そうじゃなくてお主が、そもそも『高校に入りたい』と思った動機じゃよ」


 む……


「察するに、この時代の常識がわからんから、学校にいけば、この時代の事が手っ取り早く学べると思ったんじゃないのかのぉ?」


 爺さんは相変わらず、ひょひょひょ、とちょっとばかし気味の悪い声をあげている。


「そうですけど……」

「ふむ。なら、お主に一つ、いい事を教えよう」


 爺さんは真面目腐った表情で俺の眼前に一枚のパンフレットを差し出した。

 ここ、バリーヒルズ高校の入学案内書だ。


「それをスミからスミまで、よ~く見てみんしゃい。ここの生徒にならずとも、ここで学べる方法について、書いてあるはずじゃよ」


 爺さんは杖をつき、どっこらせと声をあげて、足のついた椅子からようやく立ち上がった。


「それじゃまたの、マズロー君。再会する事を楽しみにしとるぞ」


 腰に手をあて、ひどく頼りない足取りで試験室を出て行くその背を見て、思う。

 入学せずに、どうやって高校で学べと言うのだろうか?

 何の気なしにパンフレットをめくり流し読みをしていると、一つの単語が目に付いた。


「社会人向けの無料公開講座、有料公開講座の募集について?」


 これだ!

 俺は無我夢中でその詳細を読み始めた。

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