077_帝国進軍
神帝歴621年8月3日。
すでにフォルド砦は陥落し、ヘルネス砦は2万の帝国軍に包囲されて外部との連絡は絶たれてしまっている。
この時、帝国軍はバレッド州のほぼ全域とシュテイン州の東部全域、北部の七割、南部の五割を支配下に置き、ヘルネス砦を囲んだ帝国軍とは別の帝国軍がシュテイン州とその南のアルガス州へ攻勢を強めていた。
その帝国軍の中には、帝国軍に降った元王国貴族の軍もあって、帝国軍の総兵力は7万以上になっている。
へルネス砦にこもっている王国軍幹部と諸侯は、今後の方針について話し合っていた。
なぜならへルネス砦は完全に孤立無援と言ってよい状態だからだ。
隣のバレッド州は完全に帝国の支配下に置かれ、このへルネス砦のあるシュテイン州も帝国の勢力圏が広がっているため、補給が受けられないのである。
いくら堅牢なへルネス砦でも食料や医薬品類の補給がなければ、長くは戦えないのである。
薬は魔術で代用できるが、食料はそうはいかない。また、魔術も万能というわけではなく、魔術士の数も多くないので医薬品は減る一方だ。
「このまま補給を受けることができなければ、半月後には食料も医薬品も底をつきます」
副官のオルトマス少佐が物資の状況を説明すると、会議室は重苦しい空気に包まれた。
「つまり、半月後までに帝国を打ち破るか、包囲網を突破するか、降伏するかを判断しなければならない」
バルマー司令官が三つ目の降伏という言葉を口にすると、会議室内は騒然となる。
「降伏などあり得ぬ! 降伏などするのであれば、打って出ましょうぞ!」
アイゼンクルド・イニシャラント十等勲民が立ち上がって吠えるような声を出した。
「イニシャラント殿、落ち着かれよ。司令官殿は選択肢を提示したにすぎぬ」
ヘルケル・アドレス参謀長がやれやれといった表情でイニシャラント十等勲民を諫める。
「そんなことは分かっているのだ。だが、諸侯が降伏すると言うのであれば、某は1人でも打って出る所存」
イニシャラント十等勲民は6年前に家督を継いで以来、手柄らしい手柄を挙げていないことで逸っているのだとその場にいた諸侯は見ている。そのため、イニシャラント十等勲民の言葉を真剣に受け止めるものはこの場にいない。
「期限が半月というのであれば、時間的猶予はないと考えるのが正しいでしょう」
口を開いたのは、アムント六等勲民である。
シュテイン州東部の盟主であるアムント六等勲民の発言に注目が集まる。
「某は降伏はないと考える。ここにおいでの多くの方々も某と同様の意見だと思っている」
ほぼ全ての諸侯が頷く。
「であるならば、帝国軍の囲みを何として破らねばならぬ」
誰も否やはない。
「だが、問題はそこではない」
アムント六等勲民の言葉に首を傾げる諸侯がいるが、半分は頷いた。
「帝国軍の囲みを破ったとしても、補給が受けられる保証はどこにもないのだ」
「左様、帝国軍の全てがこのヘルネス砦を囲んでいるわけではないはず。例え囲みを破ったとしても、ヘルネス砦にこもっているだけでは、補給を受けることができないと思われる」
バルマー司令官がアムント六等勲民の言葉を引き継いだ。
「ならばどうするのだ!?」
イニシャラント十等勲民が発狂ともいえる、金切り声をあげた。
「補給が受けられる場所へ撤退するしかあるまい」
アドレス参謀長が発言した。その声はあまりにも平坦であって、感情がこもっていないように受けとれる。
結局、諸侯は撤退戦を行うことで意見が一致。
だが、撤退するにしても、どこへ撤退するのかが問題になる。
そこで名前が挙がったのは、デーゼマン領であった。デーゼマン領はヘルネス砦から近く、尚且つヘルネス砦以上の防衛網が構築されていることで有名な領地である。
デーゼマン家の兵も精強で知られているし、まだ帝国に蹂躙されていないだろうというのが、大方の見方だった。
ただし、ヘルネス砦にこもっている将兵を支えるだけの食料と医薬品がデーゼマン領にあるのか、そこが問題である。
「デーゼマン殿の領地は我が領地と隣接している。補給は可能だと思われる」
アムント六等勲民の言葉に多くの諸侯が頷いて同意する。
「ならば、デーゼマン領への撤退をするということで、一同、よろしいですな?」
誰からも異論は出ない。誰もがそれしかないと思っているからだろう。
「では、明朝、日の出と共に北門から出撃。一気に帝国軍の囲みを破ってデーゼマン領へ撤退いたす。出陣に合わせて砦内の重要施設に火をかけますので、背水の陣だと思ってくだされ。食料は2日分配給します。準備を怠りなく」
バルマー司令官の言葉を聞いた諸侯が頷き、立ち上がって会議室を出ていく。
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