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アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~  作者: 大野半兵衛
五章

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039_戦後処理

 


 第三王女のパーティー会場へ入ったフォレストとアレク。

 会場にいる貴族たちの視線は鋭く、2人を値踏みしているかのようである。

 特にアレクは若くして名声を得たこともあり、貴族たちの興味を引くのは当然のことだ。

 しかし、中にはアレクのことを「建設屋」と揶揄する者もいる。

 これはいうまでもなく、アレクが建設会社で働いていた過去を知ってのことである。

 だが、一方でアレクがたった数カ月で巨大な防壁を築いたことが、伝説のように語られている。

 それは事実であって誇張でもなんでもないが、それを信じる者は少ない。

 1つの町と2つの村を囲む防壁を、たった1人が数カ月で築けるわけがないというのが、大方の見方である。


「アムント卿、ご無沙汰しております」

「おお、フォレスト殿、アレクサンダー殿、久しぶりですな」

 フォレストが挨拶した彼はロベルト・アーシア・アムント六等勲民である。

 アムント六等勲民はヘリオから馬車で1日の距離にあるアムンゼン町の領主だ。

 明るい緑色の髪の毛と碧眼で、アレクとあまり変わらない背丈の細身の文官タイプということもあって、あまり威圧感を感じさせない。

 デーゼマン家が治める土地の隣の土地の領主ということと、アムンゼンに拠点を置くフリンムリン商会にガラス製品を卸している関係で、フォレストは何度かアムンゼンで面会をしている。


 アレクもヘリオ町への移住途中で立ち寄った時と、ヘルネス砦で帝国軍との戦いの後に会ったことがある。

 王女の誕生パーティーには多くの貴族が出席しているが、貴族で顔を知っているのはアムント六等勲民を始めとしたわずかな貴族だけである。

 そして、顔を知っているというだけで、話ができるとはまた違うのである。

 つまり、アレクが話しかけることができる人が、このパーティー会場にどれだけいるかという話である。

 そんな中で、アムント六等勲民の三女であるセーラ・アーシア・アムントだけは以前話したこともあって、比較的話しかけやすい。


「セーラ様、ご無沙汰しています」

 桃色の髪と金色の瞳の鼻筋が通った色白の美少女であるセーラは、アレクより1歳年上の同年代の少女だ。

 アレクとセーラが初めて会ったのは、アレクがヘリオの町へ移住する時にアムンゼンに立ち寄った時である。

 その時に何度か言葉を交わして、親交ができたのである。


「アレクサンダー様、ご無沙汰しております。此度は大変な活躍だったそうで」

 帝国との戦いで将軍を捕縛したアレクが貴族の間で噂にならないわけがない。

 アレク自身も結構派手なことをしてしまった自覚がある。

「たまたまなんですよ、あれ」

「たまたまで敵の将軍を捕縛できるわけありませんわ。自信をもって胸を張るべきですわ」

 リーリアとクリスにもセーラと同じことを言われたのを思い出した。

 しかし家族ではないセーラに言われると少し自信になる。


「ありがとうございます」

「うふふふ、相変わらず腰が低い方ですね」

 貴族というのは自慢できることはとことん自慢し、自慢できないことには口を閉ざす生き物だ。

 そうやって自分たちの虚栄心を満たしているのである。

 アレクの行動は貴族のそれとは明らかに違うことから、頭をかいて笑うアレクを新鮮な気持ちで見つめるセーラだった。

 フォレストがアムント六等勲民と、アレクとセーラが談笑しているといかにも上級貴族といった風貌の初老の男性が声をかけてきた。


「これは閣下、ご無沙汰しております」

 アムント六等勲民が閣下と呼んだ男性はハイネルト・ヒリング三等勲民である。

 ヒリング三等勲民は前国王の弟で、現国王の叔父にあたる人物である。そして、デーゼマン家とは因縁に近い間柄である国軍を預かる軍務大臣を拝命している大物だ。

「ご無沙汰しております、閣下」

 長年騎士団に在籍していたフォレストは軍務大臣と面識がある。

「これは息子のアレクサンダーでございます。閣下」

 フォレストがアレクを軍務大臣へ紹介した。

 アレクは大物の登場に緊張する。


「アレクサンダー・デーゼマンと申します。閣下」

 左手を胸の前にもってきて、頭を下げる。

 これは目上の人物へ挨拶する時の礼儀作法で、先ほどもアムント六等勲民にも同じようにした。

「ハイネルト・ヒリングと申す。デーゼマン卿、此度は苦労をかけた、許せよ」

 軍務大臣はヘルネス砦についても所管していることから、今回の国軍の怠慢についての謝罪をしたのだろう。

 公式の場で謝罪することは簡単ではないので、こういう非公式の場で雑談のついでに謝罪したのだ。

 とはいえ、上級貴族が下級貴族に謝罪することなどあり得ないので、アムント六等勲民やセーラ、それにアレクも驚愕の表情を浮かべた。

 そして何より周囲で聞き耳を立てていた貴族たちの騒めきが大きい。


「某のような者に勿体なきお言葉」

 フォレストは顔色を変えずに軍務大臣と話をしている。

 さすがは歴戦の戦士だとフォレストの肝の据わりように感心する貴族もいるが、礼儀もわきまえない猪武者と蔑む貴族の方が大多数だ。

「フォレスト殿とアレクサンダー殿の活躍があって、此度はよい結果となった。感謝している」

「某や息子の力など微々たるものでございます」

「ははは、武においてデーゼマンの右に出る者はおりませんからな!」

 フォレストが謙遜すると、アムント六等勲民が他の貴族に聞こえるように声高に宣言した。

 アレクは恥ずかしいから止めてほしいと思うが、当のアムント六等勲民は自分のことのように喜色満面である。

「然様、デーゼマン家は親子2代の英雄である。誇っていい」

 軍務大臣もアムント六等勲民に同意する発言をしたことで、アムント六等勲民はさらに声を大きくすることになった。


 ここで楽団が音楽を奏で始めた。

 これは今回のパーティーの主役である王女の登場を意味する。

 階段の上のエントランスに、まるで人形のような美しさを持った少女が現れたのは音楽が鳴り始めてから1分後のことだ。

 金色に輝くブロンドヘアーと宝石のようなエメラルドグリーンの瞳が、淡いピンクのドレスによく映えている。

 ティアラには瞳と同じ色の大粒のエメラルドと小粒のダイヤモンドが多くあしらわれていて、アレクなどは「あれ、いくらするんだろう?」とバカなことを考えた。

 カタリナ・マゼランド・カイシャウス。

 このソウテイ王国の第三王女であるカタリナはアレクより1歳年下の美しい少女だ。


「アムント殿、デーゼマン殿、殿下に挨拶へ向かいましょうぞ」

 一段、一段、ゆっくり階段を降りてくる王女のその姿はとても優雅という他ない。

「某のような者が閣下と―――」

「そのようなことを気にされるな」

 同行を断ろうとするフォレストを引き連れ、軍務大臣は王女の元に歩いていく。


 このような場合、貴族の位階が高い人物から王女に挨拶するのが慣例なので、この場にいる中で最も位階が低いデーゼマン家が最初に挨拶に向かうのは明らかに異質だ。

 しかし、王女の大叔父にあたる軍務大臣がこいと言えば、いかないわけにはいかない。


「カタリナ、誕生日おめでとう」

「叔父様! きてくださったのですね、ありがとうございます」

 王女は見ている人が引き込まれそうな笑顔で軍務大臣に応えた。

「可愛い姪の誕生日のパーティーだ。喜んで出席させてもらうよ」

 何気ない大叔父と姪の会話だが、ここは王城内である。

 権謀術数渦巻く貴族の世界では言葉半分に聞いておかないと大変な目にあうこともある。

 はたして、この大叔父と大姪はにこやかに話をしている印象通りの仲なのだろうか?


「アムント六等勲民は知っているね?」

 アムント六等勲民は軍務大臣の寄子であり、何度か王女とも顔を会わせたことがある。

「アムント卿、ごきげんよう」

「カタリナ殿下におきましてもご機嫌麗しいご様子。何よりでございます」

 やや緊張の面持ちで挨拶をするアムント六等勲民に王女様は笑みを浮かべたまま頷く。

 セーラも挨拶をすると、軍務大臣はフォレストの方を向く。


「こちらはデーゼマン十等勲民だよ。もちろん、知っているね?」

 フォレストはまだ陞爵していないので、十等勲民のままである。

「はい。その節は世話になりました。デーゼマン卿」

 フォレストが十等勲民に叙爵される切っかけとなったのが、この王女によるヘルネス砦の慰問だった。

 あの時、この王女の慰問がなかったらお茶を濁した戦いが行われて帝国軍は撤退しただろう。

 その点で言えば、カタリナはフォレストの幸運の女神なのかもしれない。


「過分なお言葉、痛み入ります」

 フォレストは王女に一礼する。

「そちらはデーゼマン十等勲民の子息でアレクサンダー殿だ。カタリナとは年が近そうだね」

「アレクサンダー殿の御父上には危ないところを助けていただきました。感謝しております」

 物は言いようである。

 たしかにあのまま慰問を行っていたら、カタリナは帝国軍の捕虜になっていたかもしれないが、それは分からないことである。


「王女殿下の盾となるのが父の役目でございます。それを過分なお取り立てをいただき、父に代わり厚くお礼申し上げます」

 緊張をしていたが噛まずに言い切ることができたので、アレクはホッとした。

 すると王女がスーッと手を差し出してきた。

 これは手の甲に口づけをすることを許すという所作である。

 王女がアレクを気に入ったという意思表示なのだ。

 まさか自分が? と思いながらも王女の前で片膝をつき、レース編みで肘まで隠すほどの長さのロンググローブ越しに手を軽くとる。

 ロンググローブ越しでも分かるほどにしなやかで柔らかい王女様の手の甲に、そっと口づけをすると王女の頬が少し赤く染まったように見えた。

 この後は軍務大臣が主に喋っていたが、王女は頷き相槌を打ってばかりだった。

 王女のその表情はどこか夢見る乙女であったと……。


 

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