038_戦後処理
神帝暦618年3月。
今回、フォレストは九等勲民への陞爵が決まった。
言うまでもなく、帝国との戦いにおいての戦功である。
デーゼマン家の戦功は森を抜けてきた別動隊の殲滅、及びヘルネス砦を攻めていた本隊の将軍の捕縛である。
また、王女の誕生日パーティーにも呼ばれたので、王都へ向かっているところである。
戦功については陞爵もあるだろうと考えていたが、王女の誕生日パーティーはまったく予想もしていなかった。
そもそも王族の誕生日パーティーに呼ばれるのは、中級貴族以上なのだ。
陞爵しても下級貴族であるデーゼマン家に、パーティーの誘いがあるなんて通常ではあり得ないことなのだ。
そんなフォレストと共に、アレクも王都に向かっている。
アレクは今回の戦功が認められて騎士号を贈られることになっているのだ。
実際の話、帝国軍の将軍を捕縛したのはアレクである。前回はフォレストが帝国軍の将軍を討ち取り、今回はアレクが将軍を捕虜にした。
2回続けてデーゼマン家が王国軍の勝利の立役者になったことで、特別に王女のパーティーに参加が許されたというわけだ。もちろん、アレクも一緒にだ。
「はぁ……」
アレクは気が向かないためか、ため息ばかりが出る。
「アレクサンダー様、退屈ですか?」
今日のラクリスはメイド服を着ている。相変わらずウサ耳がキュートだ。
「騎士号を贈られるだけでも、憂鬱なのに王女様のパーティーなんて出たくないよ」
「アレクサンダー様であれば、さぞ立派な騎士になられますよ」
「そんなわけないよ、僕は剣も扱えないんだよ?」
アレクが王都に行きたくない理由は騎士になるのが嫌なだけではない。
王都へいけば、どうしても貴族のつき合いというものがあるからだ。
アレクは貴族の見栄や虚栄心というのが好きではない。
そういった貴族とつき合うのは苦痛にも思えるのだ。
「クリスティーナ様が仰っていましたが、アレクサンダー様は難しく考えすぎるのです」
「難しく考えすぎる?」
いったいどういうことなんだろうか?
「クリスティーナ様は貴族たちをカボチャだと思えばよいと仰っていました」
「貴族たちはカボチャ……か。でも、カボチャは喋らないよ」
「カボチャの中は空洞です。空っぽなのです」
「空っぽ……それは貴族の頭の中も……ふふふ」
「やっと笑いましたね。アレクサンダー様は憂鬱な顔をしているよりも、笑顔でいる方がラクリスは好きです」
「そんなに憂鬱そうな顔をしていたのかな?」
ラクリスは微笑み頷いた。
その笑顔を見て、アレクは笑顔でいられたらいいなと思う。
「ありがとう。カボチャだと思うことにするよ。でも、人前でそんなことを言ってはダメだからね」
「はい、承知しております」
赤茶けた大地から草原へ風景が変わって久しい。
もうすぐ王都に到着だ。
「アレクサンダー様、王都が見えてきました」
王都は城壁に囲まれた町だ。その高さはヘリオの防壁と変わりない10メートルほどだ。
町の規模が異なるので長さはまったく違うが、防壁の強固さに大差はない。
そして、防壁にあしらわれている彫刻などによって王都の威厳を放っている。
いつの間にか寝ていたアレクはラクリスの声で我に返り、馬車の窓から王都を見た。
王都サー・エレンは神帝暦519年にソウテイ王国が興って以来の首都である。
ソウテイ王国はテルメ大帝国という非常に大きな勢力を誇っていた大国から独立した国で、テルメ大帝国はすでに滅んでいるが、かつてこの大陸の大半を支配していた大国である。
去年今年と戦ったテルメール帝国はテルメ大帝国の後継国家を僭称しているが、テルメ大帝国を実質的に滅ぼしたのがテルメール帝国だ。
だから他の国々はテルメール帝国がテルメ大帝国の後継国家だとは断じて認めないし、そうでなくとも自国の領地をくれてやるつもりはない。
テルメ大帝国が滅んだ頃はそういった国々が乱立していたが、今はそれほど多くない。
テルメ大帝国が終焉に向かう中、国が興っては滅んでいったからだ。
ソウテイ王国の初代国王はテルメ大帝国皇帝の血が流れていた。
さらに、最後の皇帝であるブラセルード三世の娘である第四皇女を妃に迎えたこともあって、当初は後継国家として名乗りを上げていた。
しかし、皇女との間に子はなく皇女も早逝してしまったので正当性が薄れてしまい、ソウテイ王国はテルメ大帝国の後継国家だと主張するのを止めた。
王都の防壁には所々に彫刻が施されていて、アレクが築いたヘリオの防壁よりも立派である。
アレクから見たら無駄な彫刻だが、こういったことが王都としての威厳となるのだろう。
アレクたちデーゼマン家の一行は、全員がアースリザードに乗って馬車もアースリザードが牽いている。
荷車に至ってはなんと15台も連なっていて、貴族の一行というよりは商人の商隊のように見えてしまう。
ただ、牽いているのがアースリザードなので、はたから見るとかなり威圧的である。
これだけの規模の荷車に何を積んでいるのかというと、ガラス製品だ。
王家への献上品、上級貴族へのつけ届け、その他にフォレストが陞爵すると、お祝いをもらう場合があるので、そのお祝い返しの品としてガラス製品は重宝するのだ。
帰りは帰りで、空になった荷馬車に多くの荷物を積んで帰ることができる。
そんなアレクたちは貴族用の門を通って王都に入った。
こういった貴族専用の門は先触れがないと準備されないので、従士が先触れとして先行しているのである。
「ラクリスは王都は初めてかな?」
「はい、ヘリオ生まれで、今までヘリオから出たこともありません」
「それにしては落ち着いているね。王都の大きさにもっとテンションを上げるかと思ったよ」
「私にとってはアレクサンダー様がいる場所が世界の中心ですから」
「いくら命の恩人だからといっても、そこまで思わなくても……」
「アレクサンダー様のために死ぬのが私の役目です!」
重っ!? 正直、重たい。だけど、そう言ってくれる人がいるのは、とても嬉しいことでもある。
「いや、そこまでしなくてもいいから。ラクリスはラクリスの幸せを求めてよ」
「アレクサンダー様のおそばに置いていただけるだけでラクリスは幸せです」
「………」
ありがたいが、アレクはラクリスをどう扱えばいいのか分からない。




