145_帝国激震
12月2日に【書籍】アレクサンダー英雄戦記が発売されました。
購入していただいた方々に感謝を、そして購入していない方々はまだ間に合いますので、購入してやってください。
「はーっはー!」
二人の兵士の胴体を貫いた槍を引き抜き、デラーズは歓喜の声を上げた。
「もっとだ、もっと強い奴はいないか!?」
「陛下。お一人で先行しないでくだされ!」
デラーズの護衛隊長が必死にデラーズについていく。
「全軍の指揮はゲルバルドに任せているのだ。俺は最前線で戦うぞ! お前たち、ついてこい!」
「「おおおおっ!」」
デラーズは猪武者に見えるが、実際はそうではない。皇帝が最前線で戦うことで、皇帝直属の精鋭部隊がその力以上の力を発揮することを知っているのだ。
この戦いは、デラーズの怪我の噂を聞いたカールが、ドーナスを出て正規軍に攻撃をしかけたことによって起こった。
しかし、蓋を開ければデラーズはピンピンしており、カールが率いる反乱軍は最初こそ優勢だったが、次第に劣勢になっていった。
「おらおらっ! カール出てこいや!」
今頃は別動隊がドーナスを落としているだろう。つまり、カールは逃げる場所を失ったことになる。
デラーズは立ち塞がる反乱軍兵士を薙ぎ払い、猛進した。そして、とうとうカールをその視界に収めたのだ。
「何を青い顔をしてるんだ。そんなんだから、負けるんだよ」
デラーズは腰が引けているカールに声をかけた。
「う、うるさい! 私を騙しやがって、この猪武者が!」
「誰が騙したって? まさか、俺が怪我をしたって噂か?」
「そうだ!」
「かーーーっ、お前は本当にバカだな」
デラーズは心底から呆れた声を出した。その言葉にカールは顔を歪める。
「俺が怪我をしたのは、本当だぞ」
「なっ、お前はピンピンしているじゃないか!」
「バーカ。果物ナイフで指先を切ったんだよ。怪我は怪我だろ?」
「はあ? そんなもの、怪我って言わねぇーよ!」
「見解の相違だ。まあ、どっちにしろ、お前が負けるのは変わらなねぇよ。なあ、サンダー」
デラーズの後ろから、1人の男が進み出てきた。この男は、デラーズの護衛隊長を務めるサンダー・カルコスである。
覚えている人もいるかもしれないが、このサンダーは元南部方面軍の司令官であった。アレクを始めとした王国軍に敗れて帝国に逃げ帰ったのだが、死罪にはならず二階級降格と三カ月の謹慎で済んだ。だが、その謹慎が解けると、デラーズはサンダーを自分の護衛を率いる護衛隊長に抜擢したのだった。
同じ南部方面軍司令官だった者でも、カールの父ウインドスは閑職に回された。ただし、ウインドスは降格もなく名目上は栄転であった。
それに対してサンダーは二階級も降格して謹慎まであった。負け方が悪いほうに派手だったため死罪を覚悟していたが、それは免れた。その処分は、かなり手心が加えられたと言っても過言ではないだろう。
ただし、皇帝の護衛隊長であれば、再び昇進する可能性が十分にあるのに対して、ウインドスの栄達は完全に絶たれたのだった。
ウインドスが閑職に回されたため、その跡を継いだカールも栄達は難しい。その不満があって今回の反乱を起こしたのは、誰の目にも明らかだ。
「はい。すでにカール殿の陣は完全に包囲いたしました。逃げることはできません」
カールは苦々しく周囲を見渡した。周囲はカールの部下がわずかにいて、それをサンダーの部下が完全に包囲している。
「で、どうする? 降伏するか、俺に串刺しにされるか? 好きなほうを選ばせてやるぜ」
「……こんなところで死んでたまるか!」
カールは鞘から剣を抜き、デラーズに向ける。
「そうこなくっちゃぁな! くくく、ここで降伏されたら、どうしようかと思っていたぜ」
「ほざけっ!」
カールが地面を蹴って、デラーズに詰め寄った。その剣筋はなかなか鋭く、カールの剣の腕が尋常ではないことを示している。
「はぁぁぁぁっ!」
剣の間合いに入り、カールはにやっと口角を上げる。
「ふんっ!」
刹那。カールは腹部に激痛を感じ、吹き飛んだ。
「甘い。あー甘い。そんな甘っちょろい剣で俺が殺せるかよ」
「ぐふっ……」
顔を地面につけ血を吐き出したカールの腹は、大きく抉れていた。重厚な金属の鎧を破壊し、腸が飛び出すほどの傷があった。
「態度だけはデカいが、小者でしかなかったか」
あり得ないとカールは心の中で何度も叫んだ。こんなところで死ぬなど、あり得ない。猪武者のデラーズに殺されるなどあり得ない。自分は新しい皇帝になるはずの男なのだ、死ぬなどあり得ない。
カールは惨めに地面を舐めたまま立ち上がることもできず、息を引き取った。
「おい、サンダー」
「はっ」
「こいつのおかげで、俺に不満を持った奴らをあぶり出すことができた。無能だったが、俺にとっていいことをしてくれたんだ。墓を作ってやれ」
「はっ、手配いたします」
こののち、デラーズは兄ケルツを捕縛し、終生幽閉した。
さらに、デラーズの治世に不満を持っていた者たちが、デラーズの怪我の噂を聞いて反旗を翻した。しかし、デラーズと側近のゲルバルドは、事前にこれに対する軍を組織しており、反乱を起こした者たちを容赦なく殺し尽くした。
これにより、デラーズは完全に帝国を統一し、対外的な動きを見せることになる。
丁度この頃、王国のバーレーン特別州の各貴族が、帝国領へ侵攻を始めたのである。
デラーズはこれを迎え撃つために、軍を速やかに南進させた。
圧倒的な武威を示したデラーズは、後顧の憂いなく王国と戦える土台を築いたのであった。
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