133_閑話・ある日のマリア2
本を読み終わり、お菓子を頬張る。リスのように口いっぱいにお菓子を入れて頬袋を膨らます。
「おいしい」
マリアは満足げに目じりを下げ、ティーカップを持ち上げて香りを楽しむ。
「ラクリス。お菓子、おかわり」
「はい」
アレクの従者兼メイドのラクリスが、空になった皿を下げて菓子の盛られた皿を置く。その横ではアレクもお茶を飲んでいるが、お菓子にはあまり手をつけない。お菓子を多く食べると、マリアが不機嫌になるからだ。
「マリアは今日も散歩するのかな?」
「たぶん、する」
マリアの言葉は極めて短い。必要ない言葉をだらだらと連ねるのは、無駄だと思い嫌っているためである。
「父さんが、マリアがいつも素通りすると悲しんでいたよ。声くらいかけてあげなよ」
「なんで?」
「いや、マリアが父さんに声をかければ、とても喜ぶと思うから」
「必要ない」
「………」
マリアはマリアの決めた場所を散歩する。その散歩コースにフォレストがいる場所は含まれていない。含まれていないのであれば、わざわざフォレストに声をかける意味はないのである。
フォレストから声をかければ応えるが、そうでなければ我が道をいくマリアであった。
おやつを食べ終わったマリアは、腹ごなしをかねて散歩をすることにした。
今日もいつものコースを進み、アースリザードの厩舎の前に差しかかる。
「あ、マリア様! 散歩ですか?」
「そう」
またいつもの緑髪碧眼の少年に声をかけられ、自然に立ち止まる。今日はアースリザードに餌を与えているようで、餌の入った桶を持っている。
「よしよし。お前もマリア様にご挨拶するんだ」
アースリザードが顔を上下させる。どうやら芸を覚えさせているようだ。アースリザードを調教するだけでも難しいのに、少年は芸まで覚えさせている。なかなか優秀な少年だ。
「マリア様も餌を与えてみますか?」
「……いい」
マリアは少し迷ったが、拒否して歩き出した。
アースリザードの背に乗ってアレクと共に戦場を駆けたマリアだが、アースリザードの顔はあまり好きになれない。
フォレストが特製の鞍を作ってくれたので、馬よりも断然いい乗り心地もあってアースリザードで我慢しているが、凶悪な顔のアースリザードは好きになれないのだ。
翌日も散歩の途中で少年に声をかけられる。
「今日もいい天気ですね」
「うん」
以前は天気の話に返事もしなかったが、最近は返事をするようになった。
少年は少し顔を覚えてもらえたと思い、笑顔を見せる。
「ほら、お前も挨拶だ」
アースリザードが顔を上下に振り挨拶する。アースリザードも懐いているようで、厩務員としてはとても優秀だと分かる。
「エサ」
「え?」
マリアは手を出して、餌を催促する。
「あ、餌ですね!」
少年から桶を渡されたマリアは、何かの肉を火ばさみのようなもので掴み、アースリザードの鼻先に持っていく。鋭い牙がある大きな口でがぶりと肉に食らいつくと、その迫力にマリアは手を引いた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫です。この子は頭がいいので、差し出された肉しか口に入れませんから」
その少年の言葉に、マリアはムッとした。
「誰が怖いと言った?」
「あ、いえ、すみません」
マリアは立ち去る。
少年はマリアの後姿を見送り、また怒らせてしまったと頭をかく。
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