132_貿易
早朝の執務室。メンディスの部隊もギャングのボスを捕縛し、帰還した。
デーゼマン家の精鋭部隊がギャングに後れを取るわけがないと思っていても、アレクが指揮した部隊では、一人が死亡してしまった。
だから、メンディスの部隊に死者がなくてホッとする。
「メンディス。よく無事で帰ってきた。部隊にも被害がなくて重畳だ」
「はっ、ありがとうございます」
「ジョリスとパメラもよくやった。そちらは、予定通り全滅にしたようだな」
見せしめによって、領内の犯罪が減ることを願うばかりだ。そうでなければ、今回殲滅したギャングたちが浮かばれない。
「はい。問題なく」
今のパメラは気弱な性格のほうなので、巨体のジョリスの横で無言で立っているだけだ。
「二人のボスの刑の執行のほうはウィートに任せる。部下たちは鉱山に送ってくれ」
「承知しました」
刑の執行書にサインしたものをウィートに渡す。
ノック音が聞こえたので入室を許可すると、代官のゲーリックが入ってきた。
「殿。無事のご帰還、お喜び申しあげます」
ゲーリックはアレクに丁寧に挨拶し、書類を手渡す。
「お疲れのところを申しわけありませんが、そちらの書類に目を通していただきたく存じます」
「これは……次の貿易の商品についてか?」
「はい。ゼンバー夫人より指示がありました内容を、まとめております」
内容を確認する。ガラス器を主軸にし、鉄製品は今回と一緒だ。ただし、次回はカーシャの薬も輸出する計画のようだ。
「薬も輸出するのかな? 生産は間に合うのか? 王都にも出荷しているが、品薄じゃないのか?」
「カーシャ様のお弟子さんが育っているようで、生産量が増えていると聞いています」
「ああ、なるほど。ん、ハーブソルトも輸出するのか?」
「国内でハーブソルトを売り出したところ、すぐに売り切れになったそうです。ですから、大掛かりな増産体制を整えるとゼンバー夫人から聞いております」
「もう増産を考えているのか、姉さんは商魂逞しいな」
「外国でも売れると、ゼンバー夫人は考えているようです」
「共に量が確保できるなら、構わない。進めてくれ」
「はい。ありがとうございます」
今回は時間が少なかったこともあり、ゼンバー商会もガラス製品を満足いく量が用意できなかった。国内向けにも出荷しているのだから、仕方がないのだが、それが気に入らないとクリスは言っていた。
三カ月後には別の船団が王都から派遣されてくる。今度は時間に余裕があるのでガラス器もそうだが、鉄製品も多く用意したい。アレクの領内はいくつか鉄の鉱山があって鉄製品の加工が盛んだ。その強みを生かしたいのだろう。
▽▽▽
三つのギャングを壊滅させてから、三日。残していた四つ目のギャングが油断しているところを強襲すべく、部隊を集めた。
「これより、デジムに巣食うギャングを殲滅する。皆の奮起に期待する」
「おおおっ」
アレクの言葉に兵士たちが応え、野太い雄たけびをあげる。
四つ目のギャングのアジトは二カ所あり、今回も同時に突入することになる。
アレクはジョリスとパメラを副官にしボスがいるアジトに向かい、今回も部隊の指揮を任されたはメンディスはもう一つのアジトに向かった。
メンディスは剣を扱う。父ハルバルトは弓の名手であるが、メンディスも弟のゴディスも剣を使う。メンディスは柔軟な剣だが、ゴディスは豪剣である。同じ剣を使う兄弟だが、その性質はまったく違う。
そのメンディスは弟に剣の才能では敵わないと考えている。しかし、部隊を率いるのはまた別の話である。
「突入!」
剣を振り降ろし、兵士にアジトへの突入を命じる。
大柄な兵士が重厚な扉を蹴り破り、兵士たちがアジトに雪崩れ込む。建物の中から悲鳴や怒声が聞こえてくる。
「一人も逃がすな。歯向かう者は容赦なく切り捨てろ!」
メンディスもギャングを切り捨て、声を出して兵士たちに指示を与える。
その頃、アレクもギャングのアジトを強襲していた。
今回は、アレクの土魔術で建物ごと落とし穴に落とす。五メートルも落とすと木造の建物は崩壊しギャングたちは瓦礫の下敷きになる。
「そろそろ落ち着いたようだね」
トレントの杖を振り、地面を盛り上げる。
「瓦礫をどかしてギャングたちを捕縛するんだ」
アレクの指示で兵士たちが瓦礫をどかして這う這うの体のギャングたちを捕縛していく。
「殿、ギャングのボスが見当たりません」
瓦礫の影に隠れているわけではなく、くまなく探しても見当たらないと報告があった。
「メンディスのほうにいるのか?」
「それに、予定していた数よりもかなり少ないと思われます」
そこでアレクの脳裏にある言葉が浮かんだ。
「作戦が知られていたのか?」
「殿。どうしますか?」
アレクの判断をライムが確認する。
「いないものは仕方がない。メンディスのほうにいるといいのだが……。撤収する」
「はっ!」
アレクがデジム城に戻ると、すぐにメンディスも戻ってきた。
メンディスからすぐに報告を聞いて、ボスを取り逃がしたことが決定した。
「情報が洩れたとは思えませんが、たまたまでしょうか?」
メンディスも情報漏洩が頭に浮かぶが、今回の作戦が洩れるとは考えにくかった。
デーゼマン家の兵士は数々の戦場を駆け巡った歴戦の猛者たちであり、情報が洩れて待ち伏せされたら自分たちが危機に瀕することを知っている。だから、情報が洩れるということは、考えにくい。
「今回はたまたま不在だった可能性が高いと思う。とりあえず、ボスと幹部たちを指名手配する」
「承知しました」
ここにマリアがいたら、別の対策ができただろう。しかし、マリアはテオドシウス城で留守番していて、デジム町にはきていない。
ギャングについて一定の決着がついたし、予定されていた政務を終わらせたアレクは、数日後にデジム町を後にすることにした。
面白かったら評価してやってください。
☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★
誤字脱字は誤字報告してくださると、助かります。




