第20話 城での会議で(三人称視点)
それはリヴァとシモンが戦った日、同時刻でのこと。
「報告は以上になります」
「報告ご苦労、アリサ」
王都の城と港町をつなぐ魔法。
それを介して、大賢者の一人であるアリサは城へ報告を行った。
浮かぶ鏡にアリサの顔がはっきりと映り、そしてその鏡が映す映像も同様にアリサ側に映っている。
王都の城、その会議室にて、若干三名の男が葬式のような雰囲気を作っていた。
一人は騎士および兵をまとめる軍の最高責任者。名はヨシフ・ファテーエワ。そしてその補佐をする二名。
「どうしてこうなった」
ヨシフは小さく呟いた。
「僅か一月の間に二つもの国宝を失ってしまった」
カウナ帝国が今現在陥っている状況はあまりにも好ましくないことであった。
国宝であり、カウナ帝国がこの世界において三番目の地位まで築く礎となった物。一つをアルベール邸から盗まれ、一つを隣の大陸への輸送を失敗し、失った。
「だから言った。私は護衛を増やせ、と」
「国宝の数だけで13つ。そして王族の護衛も合わせるとその数は40を超える。騎士がそもそも足りていない。それとも何か? 王族の護衛よりも国宝の護衛に力を入れろと? バカを言え」
「違う。優先順位を考えろと言っているんだ。王族、国宝。この二つ以外にも無駄な護衛が多すぎる。どうしてわざわざ王都で惰眠を貪る貴族たちの護衛もしなくてはいけない」
「もういい。よせ、お前ら」
補佐二人の喧嘩を仲裁し、それでとヨシフはアリサの方を見た。
「我が国が誇る、最高峰の賢者よ。一つ聞きたいことがある」
「ヨシフ殿。少し待ってほしい。そもそも大賢者アリサよ。何故報告が遅くなった? 貴様が港町に帰った通知が来てから五日は経ったのだぞ? その間何をしていた」
「申し訳ありません。ですが、精神面および魔力面の回復を待たなくてはこの魔法の使用が出来ませんでしたので」
「お前はそれでも大賢者か? 何故わざわざ魔力の回復を待つ必要がある。周囲のエネルギーの収集が得意なのだろう?」
「もういい。報告が早かろうと遅かろうと何も変わらない。少なくとも今出来ることはな」
「…………ヨシフ殿がそう仰るなら」
はぁと大きくため息を着いた後、ヨシフはアリサを見た。
「それで本当なのか? リヴァイアサンが襲ってきたのは?」
「はい」
ヨシフは手元の資料に目を落とす。
「何度か報告はあった。近海でリヴァイアサンを見た知らせだ。しかし襲われた知らせはなかった。遠くからこちらを見続けるだけだと。すぐに逃げれば問題がないと。では何故リヴァイアサンが襲ってきたか、だ」
「私が原因の一つだと考えられます」
「どういうことだ?」
「リヴァイアサンが姿を現した時、火の魔法を使いました。その後、襲われました」
「その話は本当か!」
補佐の一人が大声を上げる。
「何ということをしたのだ。もしも魔法を使い、リヴァイアサンを怒らせなければ」
「いや、それは違う」
「何故ですか?」
補佐が怒りの表情でヨシフを見る。
ヨシフはその行いに不思議な点を感じ、ふむと考え込む。
「リヴァイアサンが火の魔法程度に怒りを見せるわけがない。仮にそうなら、今頃多くの船が沈んでいるだろう」
「私もそう思います」
ヨシフの考えにアリサが同調する。
少なくとも、アリサが火の魔法を使ったのはリヴァイアサンの気を逸らすためであり、襲われるとは考えなかったからである。
それだけ今までのリヴァイアサンは人を殺す行為をしなかった。いやというよりも眼中になかった。だからリヴァイアサンはわざわざ人を襲ったりはしない。そんなことに労力を使わない。
「怒っていたわけではない。ならば、アリサの魔法が原因とは考えにくい。ただ仮にもアリサの魔法を見て襲ってきたとするならば」
ヨシフは一つの考えが浮かぶ。
「その魔法に何か特別性を見出したからだ」
「特別性ですか?」
「そうだ。どんな魔法を使った?」
「ただの火の魔法です。何の変哲もありません」
「ではリヴァイアサンに何か不思議な様子はなかったか?」
アリサはヨシフの言葉で当時のことを思い出そうとする。
あの日。
「リヴァイアサンは私を見ていました。真っ直ぐとはっきりと。こちらを」
アリサは自身の目に指を向けてそう答えた。
「それがどうしたというのだ?」
「そうだ。そんなこと当たり前だ」
補佐二人は何も不思議に感じない。しかしヨシフは聞く。
「アリサはその目から何を感じた?」
「リヴァイアサンがさも人間に興味を持っているかのような目に感じました」
「そういうことか。これは少し調査が必要だな」
「私もそう思います」
ヨシフとアリサに同じ考えが浮かぶ。
「どういうことですか?」
「それよりも、リヴァイアサンの目撃報告は?」
「ありません」
「それはいつからだ?」
「ちょうど船が沈没した日ぐらいからです」
「やはりか」
ヨシフがこの考えをまとめ、国王に直訴するべきだと考えた。
いや、一刻も争うことではないのだから直訴ではなく、必要な経緯を踏まえるべきなのだが、ヨシフはどうも直訴が好きだった。そちらの方が問題が大きく見える。
「ふむ、よし。アリサ。もういい。この件は私が何とかしよう。それよりもアリサは休養を取り次に備えろ」
「畏まりました」
魔法が途切れる。
それと同時に宙に浮かぶ鏡が重力に従い、テーブルの上に落ちた。
その知らせが来たのは鏡がテーブルに落ちるのと同時だった。
「大変です!」
ノックなく、扉が開く。
現れたのは騎士隊長の一人、コーリャ。騎士隊長の中、六位の位置に立つ。
短い茶髪とさわやかな笑顔が絶えない男だ。性格は表情に現れるのか、性格も明るく優しい。ただ鎧は黒く、剣は白く。なんとも趣味が悪いと周りからは評価されている。
そんな何時もは笑顔が絶えないコーリャから笑顔がない。それがただ事でないと気づくと、ヨシフは落ち着かせるように。
「まずは深呼吸をしなさい」
「はい! スーハ―スーハ―。では」
「それで何があった?」
「シモンさんが」
「シモンがどうした?」
「今期騎士になった少女に、騎士の決闘で敗北しました!」
その知らせに三人は目を丸くした。




