第18話 シモンとの決闘 (三人称視点)
その日は快晴だった。
闘技場の観客席はすぐに満席になった。
それは戦う騎士の一人が最強の騎士であるシモンという名の国民的英雄が出るからであり、そんな彼を見たい興味本位が観客の大多数である。
「最強の騎士が戦う姿はいつぶりだろうか」
「お相手は?」
「何でも、騎士になったばかりの少女らしい」
「何故戦うのでしょうか?」
「何でも、ロラン王子が彼女に求婚を求めて、それを断られたらしい」
「そして彼女から騎士の決闘を申し込んできたみたいだ」
「一体どうして、そんなことになったのでしょうか」
そんな声をリヴァは聞いた。それに対して少しだけ不適な笑みを浮かべながら。
闘技場の広さはリファーナの宮殿と同じか、あるいはそれ以上である。闘技場の観客席の数は万を超え、その観客席に囲まれた広い砂場で二人の騎士が戦う。
リヴァはそんな闘技場の入口で、観客の多さに圧倒されていた。
「…………リヴァちゃん。頑張って」
後ろでアリスが脅えたような声でリヴァを応援する。
「大丈夫。頑張ってくるね」
「でも、もしもシモンさんが手加減をせず、全力できたらと思うと」
「ただじゃすまないかもね」
「だから、勝ち負けよりも、安全を最優先にして。傷つかないで。これだけは約束して」
「分かった」
アリスはリヴァとシモンの会話を知らない。
リヴァはシモンからの提案を断り、シモンがワザと負けることがないと分かっている以上、それ相応の力で行かなくてはいけない。
しかし、それが本気を出す必要がない程度であることをリヴァは分かっている。
「騎士の決闘のルールはご存知ですか?」
ヨハンが隅から聞いてくる。その隣には心配そうにするダリアの姿。
「はい!」
リヴァが頷くとヨハンも。
「では、自分の体を最優先に」
アリスと同じことを言った。
殺害を許さない騎士の決闘にはルールが幾つかある。
一つ目、審判として第三者を用意し、その第三者の命は聞くこと。またその第三者を攻撃することも許されない。
二つ目、持ち込み可能な武器は三つまでとし、火薬を使用した武器は不可とする。
三つ目、防具は定められた基準をクリアした物に限る。
四つ目、決闘を行う場は、戦う騎士に近づかせないように観客との間に壁ないし高低を設けること。また決闘を行う騎士はこの範囲の外に出る攻撃は許されない。
ルールを守って、楽しく決闘をするわけではない。
騎士の決闘は一つの事の解決策であり、決して遊戯ではない。
だからその事実がダリアを恐怖に陥れる。
「…………ああ」
ダリアは何か言おうとして、言えないでいた。手は震えている。その異変に気付いたリヴァはダリアに笑顔を向ける。
「ダリアさん、安心してください」
「いえ、リヴァさんはお強いですから、きっと無事に帰ってくると信じています。ただ」
ダリアがリヴァの手を取った。
「もしかしたら、私たちはあなたを騎士見習いに誘わなければ。こんなことにはならなかったと思うと。私たちがあなたを危険な目に合わせているのではないかと思うと…………」
ダリアがそのことで悩んでいた。
そして、もしも仮に。後戻りできないほどリヴァが傷ついた時。どう償えば良いのかダリアには想像も出来ないことであった。
リヴァ個人としては、飽きない人生でむしろうれしいという感情があるのだが、そんなことは知らない。
リヴァはとにかく安心させなくてはいけないと考える。
「ダリアさんのせいじゃないです。それに私が選んだ道です」
リヴァはとびっきりの笑顔を向けて。
「今度一緒に、またお茶会をしましょう?」
戦いの場へと向かった。
これはリヴァの人生を大きく変える。
それは明白だ。
剣を構え、鎧を着るリヴァ。その前に同じく準備を終わらせた男の姿。シモンは大剣を手に大きくため息をついた。
「残念だ。リヴァ。お前を攻撃しないといけないとはな。まあ、安心しろ。なるべく傷つけないように努力する。だが、意思の強いお前を屈服させるのは中々大変そうだ。仮に傷つけても恨んだりするなよ?」
「ええ。ご忠告ありがとうございます、なんて言えば良いですか?」
「本当にお前は俺を甘く見ているな」
シモンは頭を掻いて、横に視線を送った。
審判となる男が二人の間まで歩いてきた。
そして二人を交互に見ると、手をクロスさせる。
「では、騎士の決闘を始めます。両者、準備を」
リヴァは剣を構える。シモンは大剣を地面に突き刺す。
「始め!」
その叫び声で騎士の決闘が始まる。
審判の男が二人から遠く離れたのを見届けると、リヴァはふぅと深呼吸をした。剣を一度軽く振る。馴染んだ剣ではなく、この戦いのために支給されたもの。鎧も同じだ。
慣れ親しんだものでないがため、動きにくくてしょうがない。
それは相手も同じ。
リヴァはシモンへ突撃した。
剣による刺突。それをシモンは懐から出したナイフで防いだ。
「甘く見ているとかどうとか。そっくりそのままお返ししたいのですが」
「騎士の決闘と言えども、所詮はパフォーマンスだ。違うか?」
「ええ。そうですね。ならば大剣を使うべきでは?」
リヴァがそう言った時。
突如シモンの横から土塊の剣が押し寄せた。
それを大剣の腹で受け止めて、シモンが遠くに動かされる。
「…………こいつ」
「魔法を使ってはいけないとは聞いていませんでしたので」
「そうだな。魔法は使って良い。だからどうした?」
シモンは大剣を構えた。
両手ではない。片手で、シモンは自身よりも巨大な大剣を構えた。
「ならば、見せてもらおうか。お前の力を」
「はい。私もあなたの力を見たいと思っていた所です」
リヴァは再び剣を構えた。
リヴァにとってこれは誤算でもあった。
自身の力に過信し、シモンという男はかつて戦ったアレックよりも少しばかり上程度にしか考えていなかった。
数度剣と大剣が交差する。
その数度でシモンはリヴァがただの阿呆ではないことは分かっていた。
少なくとも、そこらの騎士よりもはるかに強い、と。
「中々良い動きだ。それなら、副隊長まではすぐだろうな」
瞬間、それまでの動きよりもはるかな速さで。大剣の腹でまるで扇ぐように、リヴァの体は遠くへ弾き飛ばされる。
リヴァが体勢を立て直す前に、シモンははるか上空へと飛んでいた。
シモンは少しだけ力を出すことにした。
振り下ろされる大剣。
それをリヴァは寸前で受け止める。
「…………くっ」
「まだまだぁ!」
シモンの大剣によるただ一方的な攻撃。
叩き切るように、ミンチにするような。
明かに手を抜いていない。明かに殺すような攻撃。その攻撃を審判が危険と判断し、声を荒げようとしたとき。
それと同時に、リヴァは、後ろへ飛んだ。距離が生まれ、シモンの攻撃が止まる。
「まだ怪我してないとは予想外だったな。もう少し力を出すべきか?」
「まだまだ余裕がありそうね」
「当たり前だろう。俺を誰だと思ってる」
リヴァの腕には少しだけ傷があった。
大剣を防ぎきれなかった証。力負けしたがために生まれたもの。
初めての傷。
「あなたの戦い方は騎士らしくないのですね」
「当たり前だ。騎士らしさを求めていたら、ハイデンには敵わない。だから俺は騎士らしさを捨て純粋な戦いをすることに決めた」
「それでも騎士なのですか?」
「これでも騎士だ」
シモンは少しだけ。
リヴァの異変に気付いた。
どこかが可笑しいことに。
「まさか傷を受けるなんて」
リヴァは腕を見た。
「いや、むしろ褒めてやりたいほどだ。俺の攻撃をあそこまで防げるとは予想だにしなかった」
「それはどうでも良いことです」
リヴァの言葉にシモンの表情は険しくなった。
「傷なんて些細な物。それよりも、私はあなたがまだ手を抜いていることに怒りが隠せない」
リヴァの目が変わった。
「本気を出すのはこれが初めてかな」
リヴァの異変にシモンはそこで気づいた。
そうリヴァは。リヴァイアサンは。
リヴァイアサンが初めて重い腰を上げ、その力を出そうとしていたことに。
キャラ紹介37
モブ
第七王子、ロラン・ヴィリアーズ
第八王女、アデリーナ・ヴィリアーズ
第三王子、ヴァレリー・ヴィリアーズ
王族の息子、娘たち。父である現国王に次いで偉い。第七と第八だと第七が偉いとかはなく、あくまで平等である。
それぞれ王族として、それ相応の気品さがあるわけではなく、我が儘な性格が多い。特に弟の方がその兆候が多くロラン王子もその一人。アデリーナ王女も我が儘な性格。ただ兄にあたるヴァレリー王子は年齢もあるがそこまで我が儘でなく気品さに満ち溢れている。
歳は未設定。
国民は現国王とその子である王子、王女を含めて王とひとくくりに呼ぶことが多い。




