第12話 悩みは何時か消えるもの
勇気を振り絞った言葉に、アリスは一瞬キョトンとした様子を見せる。
普通なら信じない。俺なら信じない。何を言っているのだろうと思う。クラスメイトが自分の親を殺したなど誰が信じるのだろうか。
でも俺の振るえる声、目に見えて分かる態度に。
「え? え? え?」
アリスが動揺を隠せないでいた。
「だって、もしもそうなら。少なくとも死んだ報告が来てるはずだよ? それに、お母さんが出たのはリヴァちゃんが来るほんの少し前のこと。どこで殺すの? 船の上? それとも大陸の向こう側? どちらにしてもその後すぐにリヴァちゃんがここに来ることなんて出来っこない」
「まだ訃報が届いていないからそうなのかもとは思った。でも少なくとも私は人を殺した。アリスに似た女性の賢者を」
「でも、そんなこと」
信じていないというよりも信じられない様子みたいで。
アリスが一生懸命考え込む。
「でもリヴァちゃんがそんなことするとは考えられない」
「どうして?」
「男子と女子の深い溝を無くして仲良くなろうと頑張っていた。私たちを守るために侵入者と戦った。そんな子が人を殺すなんて考えられない」
アリスはそう否定しようとして、そんなアリスに俺ははっきりと言った。
「アリスは私のこと何も知らないでしょう?」
その言葉にアリスは信じられないと言った様子を見せた。。
「私が見せているのは自分を偽ろうとした結果作られた人格であって。私はまだアリスたちに一度足りとも本当の自分を見せていない」
「そんなこと…………」
「ないと言い切れる? 自分のことを何一つ話そうとしない私に対して」
「だからって私と友達を…………」
「人として欠陥である私にそもそも友達を作る資格なんかない」
アリスはさらに頭がこんがらったみたいで。
「でも、でも、でも。もしもかしたら私のお母さんじゃなくて、そしてその誰かを殺したのは何か訳があったんじゃ」
「あの時、殺した時。訳なんかなかった」
そうなかった。
ただ何となく。
俺はあの人を殺した。
「だから、ごめんなさい。謝ってすむ問題じゃないとは思う。でもこのことを正直に話したかった。大切な友人の親を殺したのだから」
「…………」
アリスが固まる。
そして搾り取った言葉はこんなのだった。
「考えさせて。まだ信じられないから」
「分かった」
この結果、俺は罵倒されても批難されても良かった。訴えられても良かった。罪として認められ牢獄に入れられても良かった。
アリスの友達を辞めたかったわけじゃない。
でもアリスの友達を続ける資格がないと俺が思っただけ。
でもあんな方向に進むとは予想だにしなかった。
その日の夜。
俺は一人考えることにする。
ルドルフさん、そしてアレットさんとは挨拶を済ませた。ヨハンさんとも別れることになると思ったが騎士の称号授与式で会うみたいなためまだしないことにした。
今年の合格者は総勢38名。それを半分に別け、二人の騎士隊長の下で、会社で言う新入社員のように。半年掛けて騎士の仕事を学んでいくことになる。
アリスと同じ騎士隊長の下に着く可能性は高い。
アリスが最終的にどういう結論を付けるのかによる。でも少なくとも今までみたいな良い関係ではないはずだ。
同じ騎士の下に着くのを嫌がるかもしれない。あるいはいじめられるだろうか?
でもこうなることを覚悟して告白したんだ。
すべて受け入れよう。
なんてベッドの上でブーを抱えながら考えているとふいにドアがノックされた。
「はーい」
それに返事をしてドアを開けると目の前にリナがいた。
「遅くに、ごめんね。話したいことが、あって」
「うん。良いよ。入って」
リナを部屋に招き入れ、リナをベッドに座らせて。俺は床に座る。
リナの表情は真剣だった。
「今日、アリスちゃんから、相談受けた。良く分からない相談」
「うん」
確かにアリスの立場ならだれかに相談してしまう。
そしてアリスが相談する相手とするとリナかアレットさんしかいない。
「リヴァちゃんが、アリスちゃんと、友達を辞めようとしてる。そのために、嘘をついたって」
「そうなったの」
アリスは信じないことにした。
俺の言葉は、実はアリスを嫌っていて、友達を辞めるための嘘だと。
「本当なの?」
「うーん。半分正解で半分不正解かな」
「…………?」
「私がアリスに話したことは本当の話。だから私はアリスの友達でいる資格なんかないって私は話した。本当の話は、リナには言えないことだけども」
そして俺ははっきりと言った。
「私はアリスのこともリナのことも、アラン君のことも皆好き。友人として、ね。だから友達を辞めたいなんて思ったことはない」
無意識に涙があふれていた。
「でも私はアリスともリナともアラン君とも。友達でいる資格なんかなかったんだ」
「それは、違うと思う」
「…………?」
「リヴァちゃんがアリスちゃんに、何を話したのかは、知らない。でも、私もアリスちゃんもアラン君も。リヴァちゃんの友達を辞めたいとは、思ったことない。だから友達でいる資格はあるの」
「でも、私」
リナは俺がアリスの母親を殺したかもしれない事実を知らないから。
「大丈夫。きっと」
それはリナが咄嗟についた言葉だった。
それがまさか本当になるとは俺は思いもしなかった。
そう、これが悩みとして存在したのはわずかな時間であった。
幸運にもこれを否定する通知が来たのだから。
キャラ紹介31
モブ エマ・ギューデン
33歳女性。夫持ちの貴族の妻。ダリアさんの友人の一人。
ラミさん同様、生まれも育ちも貴族。でも旧姓は考えていない。
多分もう出ない。でも出したい気持ちはある。だから何時かもう一度お茶会を開きたい。




