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第二話 旅に出ることになりました

 カイトは何を言われているのか分からなかった。短時間で思いついた工程表には地球相手に戦う予定など含まれていない。人知を超えた力を手に入れ、邪悪な魔王を打ち破り、女の子に囲まれながら湛えられてハッピーエンドとなるはずであった。


「ちょっと言っていることの意味が分からないんですけど。そんなニュース聞いたことないし。第一、どうやって地球人がこの世界に攻めてくるんですか」


「具体的には言えないがな、それこそ地球人のお前がここにいるんだからやって来ることは可能だと分かるだろ。そして、連中はいろいろ使って支配領域を拡大したのさ」


 ユリア姫や護衛の兵士たちとは裏腹に、まったく危機感を抱いていないかのように目の前の男はにやけ面を晒し、気楽そうな声で返答をした。


「どうやって地球に国連軍が来たかとか何の目的でとかは置いておくとして、さっき姫さまは僕、というか勇者たちしかいないと言いました。力を得たと言われても、俺には何の実感もありません。ましてや、戦闘機とか戦車に生身の身である自分が勝てるとは全く思いません。本当にできるんですか?」


 実のところ、カイトは国連軍を相手にすることに何のためらいもない。彼らはこの世界にとって明らかなイレギュラーであり、武力を用いた侵略者である。追い払われて当然だし、異世界に来たことを嬉しいとすら感じているからだ。他の召喚された人物たちがどうかは知らないが、カイトの人間関係の中で軍事関連に携わっている者がいないのも強気になれる理由の一つである。


 戦うこと自体はやぶさかではない。だが、そのまま犬死したくないのも彼の本音だ。自分がまともにハイテク兵器と戦火を交えることができるのかは重要な事である。


「今のお前から見れば、戦闘機なんてハエみたいにうっとおしいだけだし、戦車だって地を這う無力なアリも同然。軍艦に至っては釣堀にいる小魚程度のもんよ。余裕余裕」


 人生をなめきった顔をしているこの男の態度から察して、カイトはどうやら地球の兵器群と渡り合えるらしいということを理解した。彼自身、未だに少しもそんな気はしないのだが、たぶん大丈夫だろうと。


「だがな、連中だってそんなことは知ってるし、今はもう戦闘機だのは使えない。だから、せっかく手に入れた領域を防衛するために新しい兵器を用意した。……お前と同じ生身の人間だよ。カイトくんのお仕事はそいつらと異能大バトルをすることだ。ハリウッドの演出家も腰を抜かすようなのをな。じゃあ姫さま、あとはよろしく」


 言いたい放題言って、ゴルディは部屋から出て行ってしまった。カイトとしても困惑する以外に他なく、ゴルディに対する印象も具体的なものはつかめず、いい加減だなあとしか思えなかった。


「あの人はいつもああですから気にしないでください。ウォルと付き合えているお兄様は本当に不思議ですわ」


 ユリアもカイトと同じような感想を抱いているのだろう。


「さてと、兵士の皆さんは下がってください。勇者さまと二人きりで話したいことがありますゆえ」


 彼女が穏やかな声と笑顔で命令、というよりお願いすると、兵士たちは頭を下げて一言述べた後全員大人しく退場した。カイトも間違いなくそうしただろう。


 ところで二人きりで話とはいったいどんな内容なのか。自分に一目ぼれして告白するつもりなのではないかと彼は推測した。もしそうだったら、彼はもちろんオーケーする。カイトから土下座してでも、と思うくらいである。超人相手もなんのその、好きな人の為なら戦えると、すっかりヒーロー気取りであった。 


「やっと二人きりになれましたね」


 確かに長かった。だが、この世界の情勢だの地球が相手だのいろいろ聞かされてきたが、これを思えばさしたることではなかった。


 彼の眼には彼女の顔が赤く火照っているように見えた。この部屋にいるのは自分ととびきりの美少女の二人だけ。他には誰もいない。次彼女が何を言うのか、カイトはわくわくして待っていた。


「これから二人で国を出ましょう。今しかありませんからね」


「もちろんお受け……、へ?」


 もちろん、ユリアがカイトに告白するなど彼の頭の中だけの話であり、赤らめて見えたのも彼の脳内フィルターを通したからだ。けれど熱に浮かされていた彼はショックを受けた。


「今は父上も宰相もいません。こんな機会はおそらく今後ないでしょう」


 そんな彼など気にもせずに、ユリアはどんどん話を進める。曰く、召喚された勇者は他の勢力へ顔見せをしなければならないという。その際、使者として王国にとっての重要人物の帯同を他国が求めた。引き渡された勇者が本当に勇者たる存在なのかを確かめている間の人質としてだ。

 そして、最後の、パタゴニア自身の勇者の付き人であり、各勢力への親書を受け渡す役割となるのはさっきまで居た男であるはずだった。


 ユリアは自分がこの役割を引き受けるつもりであり、やる気満々で志願したが、国王にその場で拒否される。彼女も食い下がったが、国王に怒鳴られてしまい、その場は下がることにした。


 しかし彼女もあきらめなかった。本来の使者であるゴールドシュミットを自分の持つ貴重品で買収し、自身が他国へ行けるよう手引きしてくれることとなった。実行日が今日という訳だ。


「危険だと思うよ。お父さんたちの心配はもっともだし、こういう世界だとモンスターとか山賊とかはびこってそうだし、やめておいたほうが。第一、どうしてそこまでして外に出たいの?」


 柄でもない丁寧語を使う体力がなくなってしまい、ため口に戻した。


「外の世界が見たいと言うだけです。もしできるなら私は千金でも惜しまずはらうでしょう。実際、ゴルディにかなりの品物を譲りましたからね。様々な条件が重なって回って来たのが今日なのです。どうかわたしを案内人として連れて行ってはくれないでしょうか」


「いいよ。早く行こう」


「いいんですか?」


 どうせ最初は大した敵が出ないことくらい予想がつくし、ゴルディの話が事実ならば簡単に蹴散らせるはずだ。仮に外した場合は、自分の命に代えてでもユリアを城に返すつもりである。無論死ぬ気は一切ないが、女の子を捨てて逃げるよりはましであると彼は考えていた。


 そして何と言っても、こんなかわいい子と逃避行まがいの事が出来る。それも全く知らない異世界で。この条件を断るほどカイトはいい子ではない。


「もちろんさ。異世界に飛び込みたくてうずうずしてるんだ。さっさと出よう!」


 こうして彼らはベランダに吊るしてある不自然すぎるロープを伝って下へと降りて行った。その際、見張りの兵士がどういう訳かことごとく出払っていたので、ユリアは前以って隠されていた衣服に適当な場所(もちろんカイトから見えない場所で)で着替えて、カイトとともに城下町へと消えて行った。




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