第10話:王国加速改修計画
カンカンと乾いた手斧の音が夕暮れの訓練場に響き渡り、削り出された角材が山のように積み上がっていた。
「よーし、今日の削り出し作業はここまでだ! ガルド、手の力を抜け。シルフィ、最後の一振りの軸は完璧だったぞ」
「ふぅ……! 親方、削った角材の面、かなり平らになってきたぜ!」
「……ん。刃先が木目に吸い込まれる感覚、なんとなく分かってきた」
汗と木屑に塗れながらも、清々しい顔を見せる子供たち。手斧を通した「構造解析」の基礎を体に染み込ませた彼らの表情には、もはや戦場への怯えはなく、確かな職人の目付きが宿っていた。
道具を片付けようとしたまさにその時、訓練場の入口からドタバタと騒がしい足音が近づいてきた。
「勇者殿!……いや、神城現場監督! 大変です!」
息を切らして駆け込んできたのは、昨日の抜け道防衛戦で立ち会っていた王国の文官と、筆頭魔導士だった。その手には何枚もの羊皮紙の図面と書類が抱えられている。
「なんだ、また魔物でも押し寄せてきたのか?」
「い、いえ! 魔王軍の前衛部隊が撤退したことで、国王陛下より直々に通達が下りたのです! 昨日の『不落の突っ張り棚』の威功をたたえ、我が国の全防衛線の再構築をお任せしたいと!」
文官が広げた図面には、王都を取り囲む外郭城壁や、各地の砦の配置がぎっしりと書き込まれていた。だが、大工の俺から言わせれば、どれもこれも無駄に石を積み上げただけの「手抜き欠陥建築」ばかりだ。
「全防衛線の改修……!? 僕たちに、そんな大きな工事ができるんですか!?」
レオンが驚きで目を丸くする。セシリアも控えめに息を飲んでいた。
「ふん、できるかじゃねぇ、やるんだよ」
俺は文官から図面をひったくると、指先で幾つかの欠陥箇所をコンコンと叩いた。
「見ろ、この西側の城壁。自慢の魔法障壁に頼り切って、土台の石組みがガタガタじゃねぇか。東の砦もそうだ、無駄に高さを出してるせいで重心が浮いてやがる。こんなもん、構造解析の手斧で継ぎ目をひと突きされたら一発で全壊だぞ」
「ぐっ……そ、それは……」
筆頭魔導士がぐうの音も出ず、気まずそうに顔を背ける。
「おいガキども、図面を覗き込め」
俺が呼びかけると、レオン、セシリア、ガルド、シルフィの四人が一斉に図面を囲んだ。
「さっき訓練した手斧の感覚を思い出せ。この城壁の『木目』と『目地の隙間』、どこを補強すれば一番頑丈になると思う?」
「あ……西側の土台、ここです! さっきの丸太と同じで、斜めに突っ張りを入れれば、魔法を使わなくても荷重が逃げます!」
「東の砦は……上の重みを減らして、下の隙間にアンカーを打ち込めば、重心が下がって倒れなくなります!」
レオンとセシリアが、図面を指差しながら即座に構造の欠陥を見抜いて見せた。
「……南の搬入口も、目地が二センチズレてる。そこを塞げば、暗躍する敵の侵入ルートも消せる」
シルフィが静かに付け加え、ガルドが力強く拳を握る。
「よし! 俺たちが全部叩き直してやるぜ、親方!」
「おう。手抜きの要塞をそのままにして死ぬくらいなら、俺たちの手で頑丈に改修するぞ。……これより『王国加速改修計画』を開始する!」
ただ守るだけじゃない。王国そのものを安全で頑丈な現場へと作り変える——大工親方と弟子たちの本格的な「大規模リフォーム」が、ここに幕を開けたのだった。




