【一章一話】雨で始まって
「そういえば思ってたんだけど、【チート】とかは貰えないんすね」
『あ』
「──?」
『すみません、忘れてました』
「え、じゃあ、本来ならチート貰えたはずなの!?」
『ですね』
「今からでも貰えたりとか……」
『天界から地上までの距離だと声を届けるので精一杯です。もう一回死んで天界まで昇ってきてもらえば、その限りでは無いのですが……』
「機会があれば」
『ええ、ではまたの機会に』
「ちなみに街まであと何分?」
『約十五分です』
〇
「そういえば思ったんすけど、さっきの風魔法以外に、俺ってどんな魔法が使えるんですか?」
『全属性の初級魔法です』
「全属性?」
『火、水、風、土、光、闇──の六属性です』
「それって結構すごいやつ?」
『初級魔法という点は残念ですが、全属性を扱えるというのはこの世界でも有数です。磨けば十分実力者を目指せます』
「ええ! 俺にそんな才能が……」
『【チート】とは別の転移特典です。あなたの才能ではない、という点に要注意』
「やっぱ残念」
『はい、説明パート2終了。そこのモンスターを倒してください』
「へ?」
前後左右を見ても、何もいない。
「どこに……」
『上です』
「へぁ?」
言葉を飲み込むより先に、命の危険を感じた身体が動いた。上空から飛来したソレを、かろうじて避けたが……。
「いだっ!」
手の甲に違和感を感じて目線を向けると、親指の付け根から小指の付け根に掛けて、切り傷ができていた。
「なになになに!?」
『つばめです』
「つばめ!?」
『双つの刃で天に召す、で双刃召です』
「殺意高ぇ!」
『さ、初級魔法で切り抜けましょう』
「もっと易しくお願いします!」
辺りを警戒しながらイシュネッタと会話をする。双刃召の姿は見当たらない。
『小さいので草陰に隠れているかもしれませんね』
「神様パワーで分かったりとか……」
『ないです』
「おっけーがんばる! 今のうちに水の初級魔法の詠唱を教えてくれ!」
『水だけ?』
「ああ!」
『【ルロー】です』
「了解!」
そしてついに、俺は行動に出る。
「ルヴォン!」
風の初級魔法だ。唱えると、周囲に突風が巻き起こる。自身は台風の目のようなもので、その風を受けない。
「──チュン!」
「掛かった!」
俺の作戦通り、双刃召は突風に驚いて勢いよく飛び立った。宙に浮かぶ双刃召に対して、手の甲を切られた右掌を向ける。そして……
「ルロー!」
唱えると、そこそこ良い値段のする水鉄砲くらいの威力の水が、右手から放たれる。
「──チュン!」
見事命中し、双刃召は落下を始めた。
その落下点目掛けて、お椀型にした両手を差し出す。そして双刃召は俺の手中に落ちた。
「ごめんよ。でもこれで、おあいこだ」
「チュゥン……」
見た目は知っているツバメと変わらない。
「どこに刃があるんだ?」
『両翼です。薄くて軽い刃を、羽の中に忍ばせています』
「ほえー」
『聞いといて何ですかその返事は……』
俺は濡れた双刃召を、服で拭う。
「チュチュ、チュン!」
「あ、こら」
双刃召は羽を羽ばたかせ、飛び立とうとした。が、すぐに羽を閉じて、俺の手の中で落ち着いた。
「──?」
行動の意図を疑問に思っていると、一粒、頬に何かが当たる。するとすぐに、二粒、三粒、と身体を軽く打ち始めた。
「雨……」
「チュウ」
ツバメが低く飛ぶと雨が降る、というが、その言い伝えが関係しているのだろうか。
『にしても先程の作戦、普通のツバメだったら通用していませんでしたよ』
「え」
ツバメは水で羽が重くなると飛べなくなるから、雨の前は低空飛行をする。その認識だったから、水が弱点だと思ったのだが。
『なんて考えていたんでしょうけど、普通のツバメは羽にある油分で水を弾くので効きません』
「え、じゃあ雨の前に低空飛行するのって」
『羽が重くなって低空飛行になるのは虫です。餌である虫が低いところを飛ぶから、それを狙うツバメも低空飛行になる、という訳です』
「勉強になるな」
『もっと勉強してください』
「はい……」
雨足は強まり、若干早歩きになりながらイシュネッタと会話を続ける。
「ならどうして、この異世界版ツバメには効いたんすか?」
『羽に刃を持ってますからね。薄くて軽いとはいえ、他の鳥より重いですし、一時的でも重さを増せばポトンと落ちちゃいます。そもそもこの双刃召は、その重さから長距離・長時間は飛べませんし』
「あ、だから俺を切ってすぐ草陰に」
『かもしれませんね』
「異世界おもしろっ」
「チュゥン……」
俺は異世界の面白さに興奮し、イシュネッタはナビゲート役として淡々と説明をする。そして双刃召は弱々しく鳴いた。
「よし、早いとこ街に着いてゆっくりしよう」
ざあざあ振りの中、俺は手中の双刃召を大切に包んだまま、地面を強く蹴って走り始めた──。
「ちなみに街まであと何分?」
「もう目の前じゃないですか、わざわざ聞かないでください」
※
自室でうずくまって泣いていると、窓の外から雨音が聞こえ始める。いつだって、私が泣くと雨が降る。
──私が落ち込んでいる時に、励ましてくれる存在は周りにいない。
私は王族。強くなくちゃいけない。一人で立ち直れなきゃいけない。けれど私は、どうしても強くなれないのです。今もまた、誰かに助けを求めています。
※
【一章一話】雨で始まって
終わり
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トピック──魔法編2──
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ルロー:水の初級魔法。ちょっと高級な水鉄砲くらいの威力の水が出る。硬水。




