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Go to Fantasy  作者: マネキ・猫二郎
Prolog
1/2

プロローグ──アナタは今日から勇者です

 

 「アナタは今日から勇者です」



 白い空間に少女が一人。と、俺が一人。



 「夢……?」



 白すぎて眩しい空間に、目をチカチカさせながら、徐々に頭を起こしてゆく。確か俺は、家のベッドで昼寝を……。



 「じゃあ、夢か」

 「現実ですよ」

 「あ、初めまして」

 「ええ、初めまして」



 俺の予想を否定した彼女に挨拶をする。どんな会話を始めるにも、まずは挨拶からだ。



 「木野(きの) (けい)っていいます。えーっと、趣味はゲームと漫画です。よろしくお願いします」

 「堅いですね」

 「そうですかね」

 「まあいいです。この度天界において、『勇者指導役』を任されました。イシュネッタと申します。趣味は無いです。よろしく」

 「よろしくお願いします」



 互いに最低限の自己紹介を済ませる。数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは彼女であった。



 「どうすればこの状況が現実だと信じます?」

 「あぁその話。そうですね……」



 未だに現実味を帯びない。この状況には、やけにハッキリした夢、という言葉がしっくりくる。現実だと信じるには……。



 「俺が勇者って話でしたけど、舞台は異世界ですか?」

 「ええ、あなた方の世界で馴染みつつある異世界像と相違ありません」

 「なら多分、異世界の景色を見て、異世界の音を聞いて、空気を吸って料理を食べて人と話せば、きっと現実だと思えます」

 「なら早速、異世界へお送りしましょう。目的地のナビゲーションはお任せ下さい」

 「それじゃあ、お願いします」

 「ではでは異世界転移まで……さん、にい、いーち」



 〇



 「う

   わ」



 最初に覚えたのは浮遊感。

 次の瞬間に覚えたのは、恐怖心であった。

 なぜならば、



 「落ちる落ちる落ちる落ちる落ちるぶぶぶぶ」

 『落ちてるんですよ』

 「──!?」



 どこからともなく聞こえた声。それは先程まで話していた少女、イシュネッタの声であった。



 『どうです? これなら存分に異世界の空気が流れ込んでくるでしょう』

 「あぶぶぶぶぶ」



 むしろ呼吸がしづらい。打ち付ける空気に顔を引き攣らせながら、死を目前にすることで生きていることを感じていた。



 『それにこれなら、異世界の景色を一望できますし、音も凄いはずです』



 真下に広がるのは広大な草原。城壁に囲まれた街もあり、異世界に来たという実感はふつふつと湧き上がっている。聞こえるのは、自身の身体が風を切る轟音だ。

 これは! ひょっとして! 本当に!



 「びばぶぶびばーーー!!(訳:異世界きたあーーー!!)」



 腕を広げ、足を広げ、大の字になって地面へと迫ってゆく。まずは最初のミッション、無事着だ。



 『楽しんでます?』

 「ばぼびむべばぶーー!!(訳:楽しんでますーー!!)」



 俺は求めていた。つまらない日常を打ち壊してくれる何かを。夢だ夢だと思い込んでいたのは、現実のつまらなさが嫌と言うほど身に染みていたからだ。

 それにしてもこの状況、どうしよう。



 『風の初級魔法を使ってみましょう』

 「ばぼお!?(訳:まほう!?)」

 『地面に打ち付けられる直前に【ルヴォン】と唱えてみてください。タイミングを間違えなければ、生存です』

 「ばぢばべぼあ?(訳:間違えたら?)」

 『死です』



 このままのスピードで落ちれば、地面にはあと数秒で届いてしまう。失敗は許されない。しかし思考を張り巡らせたり、準備する猶予も与えられていない。

 ただ勘に従うしかないと、覚悟を決めて数秒。

 目と鼻の先に地面が迫る頃合いで……



 「ルヴぉぶふっ」



 〇



 「死んでしまうとは情けない」

 「すみません……」

 「詠唱のタイミング、遅すぎです。残念ながらアナタは死にました」

 「えっ、てことは俺の人生終わりですか!?」



 せっかく面白くなりそうなところだったのに。



 「いいえ、アナタにはまだ四機残っています」

 「四機……ってゲームとかで聞く残機のこと?」

 「ええ、アナタはあと四回生き返ることができます」

 「そんなことが! 凄いですね、異世界」



 そっと胸を撫で下ろし、安堵した。



 「あっ、そうだ。ついでなんですけど、一つ質問いいですか」

 「どうぞ」

 「俺のどこに勇者として選ばれる要素があったんですか?」

 「そんなの無いです」

 「……案外、適当な感じなんですね」

 「まあ正直天界では、勇者は誰でもいい、って風潮なので」

 「じゃあ俺が選ばれたのは……」

 「クジです」

 「異世界に行けるのは嬉しいけど、なんか複雑ですね」

 「はい、説明パートは終了です。今度は私がタイミングをナビゲートしますから、それに従って魔法を唱えてみてください」

 「えっ、ちょ」

 「さん、にい、いーち」



 〇



 「ひ

   ゃ」



 そして先程のように落ちてゆく。

 生き返ることができることを知り、先程よりも落ち着いた心持ちで挑戦することができそうだ。


 慣れたジェットコースターは楽しい。それと同じで、景色を楽しむ余裕……はない。目が乾燥して、それどころでは無いのだ。


 下には、先程と同じように草原と街。同じところにリスポーンしたらしい。



 「バビボベバビブバッ(訳:ナビお願いしますっ)」

 『魔法発動まで、あと二十秒』



 意外と長い。



 『あと十秒』



 と思えば、意外と短かった。



 『さん、にい、いち──』

 「ルヴォン!」



 唱えてすぐ、突風が巻き起こり、俺の落ちる威力を相殺してくれた。地面から役一メートルのところで一瞬だけ浮遊し、それから落下。



 「いだっ」



 それでも一メートルのところから落ちるのだから、当然着いた尻もちは痛い。



 『お疲れさまでした』

 「空から落とす必要ありました?」

 『そういうチュートリアルだと思って受け入れてください。それに、楽しかったでしょう?』

 「──正直、めちゃくちゃ楽しかったです」

 『なら問題ありませんね。早速ですがアナタには、これから私が提示する目的地へと向かってもらいます』

 「それって」

 『ええそうです。アナタが空から見ました、王都【パピヨン】へ向かってもらいます』

 「ついに異世界人との交流イベントかあ」


 

 ワクワクを胸に、すでに遠くに見えている街へ向かって歩き出す。



 「あ、そうだ。これからもナビゲーションお願いしますね!イシュネッタさん!」

 「(かしこ)まらなくて結構です」

 「じゃあ、ちょっと馴れ馴れしいかもだけど……よろしく! イシュネッタ!」

 「ええ、よろしく」



 ※


プロローグ──アナタは今日から勇者です

終わり



▲▼▲▼

トピック──魔法編1──

▼▲▼▲


ルヴォン:風の初級魔法。広範囲にそこそこの風を巻き起こすことができる。圧縮して刃の如く……みたいな攻撃はできない。

攻めには向いていない。

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