第11章Bound by Blood【羽】
「やっぱりロクでもないなあ!! ほんま青龍様とそれに仕える紛い物の白蛇は!! 青龍も雷も所詮ハーフや!! 力はあるかもしれんけど、天はこうやって感情に任せて手は出さんかったわ!!!!!」
わなわなと身体を震わせながら、菫はゆっくりゆっくりと身体の関節を組み立てるように立ち上がっていく。
元々華奢な身体だ。俺の爪が食い込んだショックは肉体的にも精神的にも大きいのだろう。
「亜についてお前らに協力してやろうかと思ったがもう終わりや!! 澄も役に立たん!! 俺が神として京を守ったる!!」
荒く苦しそうな息を吐きながら、菫は近くにいた中年女性店員の首根っこを掴んで床に叩きつけた。
「おい!! やめろ!! その人は関係ないだろう!!」
俺の叫びは全く受け付けない様子で、叩きつけた床に転がる女性を、履いていた草履で顔面から踏みつける。
「関係ないやと〜? このおばはんはセイザンの会員やろ。ほら見てみ。アホみたいなネックレスつけとる。これなんぼや? なあ、おばはん」
踏みつけられた女性は口元を動かし、フゴフゴと言葉を発している。
「あぁ!? なんぼしたか聞いてんや!! 答えろや!!」
踏みつけ口を開かせないのは菫自身なのに、質問の回答をしない女性にますます苛立って大声をあげた。
「菫様! いい加減にしてください! いくらあなたは謹慎中の身といえ、神であることは変わりません!! こんな酷いこと許されません!!」
露木は菫の背後に回り、血が流れている腕を掴んで高く上げた。
狭い店内に男が2人身体を寄せ、息を上げている。エアコンがかかった店内なのに湿度はグッと上がり、コーヒーの中に香る血の匂いを一層際立たせた。
「ぐぅっ。お前こそ神に手をあげるなんぞ許されんやろ!! 離せ!!」
「離せるわけがないでしょう! これ以上人間を傷つけることを続けるなら、私も力を使います!!!!!」
露木の声が一段と大きくなった時、菫の身体から一気に煙が噴き出した。
もう我慢の限界だと言わんばかりに、煙は穏やかに立ち込めるものではなく、身体から湧き上がる熱を帯びた感情を抱えて溢れ出していた。
「助けてえええええええええええええ」
菫の力が緩んだ瞬間、女性の口から絶叫が飛び出した。
この女が何をしたかはわからないが、俺は神だ。とにかく人間を安全な場所に連れていかねばならない。
なりふり構わず女性を抱き抱え、喫茶店を出る。
肩で女性を担ぎ上げれば、うっと苦しそうな嗚咽が聞こえたが気にしてはいられない。
俺はーーーーーーーーーーーーー
俺はやれる。この京のためなら。
抱き抱え走り出した瞬間に、背中に激痛が走る。そして同時に皮膚を突き破る音がする。
バリバリバリバリバリバリバリバリーーーーーーーーーーー!!!
走りながら、だんだん足が宙へ浮いていく。
どういった状況なのか薄目で後ろを見れば、背中から黒い羽が剥き出しになり仰いでいる。
羽といっても鳥の羽ではない。
鱗を伴った黒黒しいビニール素材のような羽が大きく上下し、俺と女性の体を浮かしている。
「ヒィィィィィィィィィィィィ」
女性は俺を見るなり真っ青になり、口を開けながらとにかく化け物だとかおろしてだとか叫んでいる。
まあ化け物だ。しかし助けを求めたのはそっちだろう。
妙に冷静になりつつも、俺はとにかく地下街の奥へ奥へと進んで行った。




