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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第5話 バッドガール・ミーツ・バッドボーイ
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バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 14

5話はここでおしまいです。


「あれっ!? 当たった!?」


 通用しない、そう頭では分かっていての悪足搔き。左腕でのパンチが、何故かゴーストに直撃した。


 ルインザンバーは既に手元にない。指先が砲門になっているルインキャンサーはグリップ力が低い。さっきゴーストの右腕を切り裂いた拍子にすっぽ抜けてしまったからだ。


 宙で殴り飛ばされたゴーストが転がっていく。


 右腕に続いて左膝を砕かれたルインキャンサーが転倒する。左腕で支えようとしたら、過重に耐えきれず肘から先が粉砕された。道路が割れ、衝撃でコックピットも激しく揺れ動く。


 無理矢理に顔を上げれば、モニターにゴーストの姿が映った。殴られた慣性は既に失い、道路の上に黒いもやの塊が転がっていた。


 その黒いもやが、急に晴れた。


 知っている。聖技はその姿を見たことがある。世界史の教科書にも載っているし、美術の資料集にも載っている。獅子の頭部を持つドール・マキナだ。世界で初めて作られた、世界でもっとも有名なドール・マキナ。違いがあるとすれば、それは色だけだ。


「黒い……ローズ・ローヴェ?」


 意味が分からない。なんでローズ・ローヴェの姿をしているのか。宗教的な、あるいは政治的な理由があるのか。あるいは逆に、所属を誤魔化すための偽装工作なのかも知れない。


 そこまで考えた時、通信機がブチンと接続音を立てた。


 ゴーストがいると、強力なジャミングのせいで通信は行えないはずだ。


 つまり通信が出来るということは、


「……倒、した?」


 通信用のモニターを見る。きっとアストラの、戦闘開始の直前まで話していた石川たちとの通信が復活したのだろう。そう思っていた聖技は、見覚えのない文字列を見た。


 ―――Gespenst Löwe


 知らない英単語だと思った。否、英語じゃないようにも思う。だって英語には『ö』という顔の形みたいなアルファベットは存在しないのだから。


(何語? ていうかどこからの通信?)


 聖技は、その通信が、目の前の黒い(ゲシュペンスト)機体(・ローヴェ)からの通信だとは露ほども考えなかった。


『聖技』


 声が、聞こえた。


『ゴメン』


 葵の声だと、そう思った。


   ●


「今だァーーーッッッ!!!」


 悪鬼のごとき笑みを浮かべたガーランは、一切の躊躇無しにそのスイッチを押した。


 ゲシュペンスト・ローヴェの―――()()()()()()()



 ―――そして、黒百合は手折(星川葵の復讐は)られた(終わった)



   ●


「は?」


 聖技の目の前で、ゴーストが突然爆発した。


「あ、え?」


 同時に通信していたGespenst Löweの文字がオフラインを意味するグレーになった。


 おかしい、と聖技は思う。ゴーストは確かに動かなくなっていたが、あんな派手に爆発するような損傷ではなかったはずだ。


(なん、で……)


 なんで、通信から葵の声が聞こえたのだろう。


 なんで、ゴーストが爆発したら、通信先が切断されたのだろう。


 分からない。だが両腕と片足を失ったルインキャンサーは動けない。うつ伏せに倒れているせいで、コックピットを開くことも出来ない。


 メインカメラに炎が反射する。


 ゴーストの全身が燃えている。 


 それはまるで、火葬のようだった。


   ●


 数日後、地下基地アガルタの執務室で、石川は頭を抱えていた。それをプラムは冷めた目で見降ろしている。


「……これ、本物?」


「間違いなく本物よ」


 ゴーストから回収された焼死体は、身元が全く分からない程に全身が炭化していた。そしてプラムがつい先ほど石川に手渡した書類には、こう書かれていた。『DNA鑑定の結果、99.99999999999%の確率で星川葵である』と。


「なんで」


 絞り出すように石川は問う。


「なんで、ゴーストに星川さんが乗っていたんだ……?」


「プラムが知る訳ないじゃないそんなの。それにルインキャンサーの通信ログにも残ってたんでしょ、アオイの声が」


「肉声だった証拠もないよ」


「録音だった証拠もね。そんなことよりどうすんのよ。これ、セイギにどう伝えるつもり?」


「…………伝えない、という訳にはいかないよなぁ」


 物凄く嫌そうに石川は言う。顔にありありと絶対に言いたくないと書かれている。


「言っとくけどプラムは言いたくないからね。その場にいるのも嫌だから」


「分かってる。分かってるよ」


 石川は項垂れたまま数分思考したのち、顔を上げ、


「……麒麟ちゃんを呼んでくれ」


「キリンに先に伝えるの?」


「あぁ。それで、下野さんに伝える際に同席してもらう。それで、下野さんが錯乱したら」


「力尽くで取り押さえてもらう、ってワケね。りょーかいりょーかい、呼んでくるわ」



 そして段取り通りに先に麒麟に伝え、その後に聖技を呼び出すと、石川が話をするより先に麒麟は聖技に当て身を食らわせて気絶させた。


 白目を剝いて失神している聖技を前にして、麒麟の「私としたことが」(くちぐせ)を聞きながら、石川は冷静にこう思った。


 あーこれ麒麟ちゃんも思ったより動揺してるなー、と。


   ●


 後日、聖技は一人、墓石の前に立っていた。感情の抜け落ちた表情で、数ヶ月前に葵と一緒に向日葵(ひまわり)の骨壷を納めた墓石の前に。


 曇天模様の空の下、アストラの隊服を着て、真新しい骨壷を胸に抱えている。


 その中に、遺骨は一片たりとも入っていない。焼死体は重大事件の証拠として保管されたまま、返却されることが無かったからだ。


 けれども空のはずの骨壷からは、からころと小さなものが転がる音がする。


 入っているのは、小さな金属片だった。熱で変形した金属片だ。


 その材質は、聖技が今も左耳に付けているピアスと同じものだった。


 葵が左耳に付けていた、お揃いのピアスだった。聖技に渡されたのは、たったのこれだけだ。


 骨壷を、墓の中へと納める。まだ新しいままの、中身の詰まった向日葵の骨壷の隣へと。


 立ち上がり、ただぼうっと墓石を見る。


 ふと、思う。実は、葵は今もどこかで生きているのではないだろうか、と。死んだというのは真っ赤な嘘で、本当は何か特殊な作戦に参加するために、表向きは死んだことにしただけなのではないのだろうか。だってそうじゃないと、骨の一本も帰ってこないのはおかしいじゃないか。


 セミの鳴き声がする。カエルの鳴き声がする。


 その鳴き声を聞いていると、ふと実家に帰りたくなった。物凄く、学園を辞めたくなった。


 だって、あそこには向日葵がいない。自分が見殺しにしてしまったから。


 だって、あそこには葵もいない。自分がこの手で、


(あぁ、そっか―――)


 今更になってようやく気付いた。星川葵は、下野聖技が殺したのだ。


 両親の声が聞きたかった。悪友たち(3バカ)の声が、聞きたかった。


 携帯電話を取り出す。悪友たちとの友情の証、UFOストラップがぶら下がった携帯電話を。


 今の時間帯なら両親は職場だろう。電話帳から探すのよりも、手癖で番号を直に打った方が速い。


 携帯電話を耳元に当てると、ツーツーと無機質な不通音がいつまでも鳴っている。


「……?」


 番号を打ち間違えたのかも知れない。今度は電話帳から再び発信する。


 繋がらない。


 今日って仕事は休みだったっけ、と不思議に思いながら、今度は実家の電話番号を呼び出す。


 繋がらない。


「……」


 ハカセの携帯電話を呼び出す。


 繋がらない。


 ハカセの家に電話をかける。お手伝いさんがたくさんいるので、誰も出ないなんてことはありえないはずだ。


 繋がらない。


 ネッケツは携帯電話を持っていない。けれども数日前にハカセから来たメールによればまだ帰省中のはずで、ネッケツの家に電話を掛ける。


 繋がらない。


 メカマンは電話に出ないことは分かっているのでメールする。ついでに一縷の望みをかけて電話する。さらにはメカマンの家にも電話する。


 繋がらない。


 繋がらない。


 いつもなら秒で返信されるメールが、いつまで経っても返ってこない。


 他の中学の友達に。


 繋がらない。


 卒業した中学校に。


 繋がらない。


 いくら何でもおかしい。繋がらなさすぎる。10人以上に電話をかけてその全てが繋がらなくて、ようやく聖技はとある可能性に思い至った。


「……アーバン・ジャミング?」


 確かにそれなら、電話が一切繋がらないのも納得できる。アーバン・ジャミングの実施の有無は、ニュースサイトでも見れば載っているはずだ。ブラウザを起動して、買った時から勝手にブックマークされていたものの一度も開いたことのないリンクを選ぶ。微妙に長い読み込み時間ののち、画面が表示された。


 聖技の予想した通り、ニュース一覧の中に聖技の住んでいた町の名前が載っていた。


 そしてその内容は、聖技の予想とは全く異なっていた。


「……なに、これ?」


 めまいがする。


 目が泳ぐ。


 文章を意味として理解できず、表示されている文字が散発的に目に入る。



 大量の所属不明機。


 夜間に襲撃が発生。


 死者多数。


 住民の大半が死亡。



 嘘だ、と思った。


 両親の職場へ電話をかける。


 繋がらなかった。


 家へと電話を掛ける。


 繋がらなかった。


 ハカセの携帯電話。ハカセの家の電話。ネッケツの家の電話。メカマンの携帯電話。メカマンの家の電話。他の中学の友達。卒業した中学校。


 繋がらなかった。繋がらなかった。繋がらなかった。繋がらなかった。繋がらなかった。繋がらなかった。繋がらなかった。


 何度も繰り返し電話を掛ける。いつの間にか雨が降っていて、傘もささずに電話を繰り返す。ほほを伝う水滴は、果たして雨なのか涙なのか自分でも分からない。


 ふと、雨がさえぎられた。傘だ。納骨に同行してくれていた麒麟が、聖技に傘をさしている。それでもほほを伝う水滴は止まることはない。


「……下野。落ち着いて聞いてくれ」


 言わないで、という声は、張り付いたのどから出ることは出来なかった。


「……貴様のご両親が、遺体で見つかった」



 ―――心が折れる、音がした。


 ―――もう帰る場所なんて、残っていない。






 ――――――第5話 バッドガール・ミー(愛する者よ、)ツ・バッドボーイ(自ら復讐すな) -完-


 支えというのはですね、寄りかかった瞬間にへし折れるのが一番ダメージが大きいんですよ!!!(迫真の笑み)

 というわけで5話はこれにて終了で~す。


 ちなみにこれまでの話、ラストは誰かしら笑って終わるようにしてたんですが

(1話:莫大な補填費用に泣き笑いになった聖技。

 2話:復讐の楽しさに目覚め泣き笑う葵。

 3話:真実の愛(ルビ:百合)に目覚めたガブリエラ

 4話:ラックを笑顔で撃ち殺す葵)

 人間はね~、心からの絶望を知った時、笑うことしか出来ない場合があるんですよね~(すっとぼけ)



 その1でのあとがきでも述べました通り、更新時期には期待せずにブクマしてお待ちください。

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