占いおばあさまは語る。
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彼女はノートの上に私の名前を漢字で書き、星座、血液型を書き、いちいち解説を加えた。
どれも湿っぽい運勢を示していたが、それらがインテグレート(総合)されると、いいものになるという。その根拠は、電話帳的のラテン語本に記述してあるという。
「ほう。そうですか。最愛の人に会える。そういえば昨日、そんなことがあったような気がします」
その電話帳的なラテン語本の、醤油で煮しめたごとき古い皮表紙の右下に、「ふるほんの亀川堂 特売品」という小さな紙シールがはがし忘れてあったのを見ながら、またも力なく、課長はいった。
「エエ、会いましたよ。昨日。彼女とうまくいきますか」
彼女を見ると、少し動揺したか額に冷や汗をかきながらも、ついでだ、とばかり、
「いきますとも、絶対!」
と、力まかせの声。
「そうですか」
そうか。いいことずくめだ。そうなんだろうな、と、課長はだんだんに関心なくなり、肝心の質問をした。ここらへんから聞けば、本当に近い答えになるのではないか。
「で、健康はどうでしょう。いま、病気なんです。長生きでも愛があっても、健康がすぐれないと幸せじゃあありませんな」
「ああ。そのこと・・・」 彼女はちょっと眉をひそめた。
「これはさすがにだめですか」
「いいえそんな。その、なんといったらよいか。病気で少しつらい目にあいます」
「少し?」 課長も彼女のように眉をひそめた。
「少し。といっても、かなり少し」
「かなり少し・・・ってのは随分、ですか」
「ええ。ずいぶん。いえ、かなり・・・」
ここらへんで少し変わったことをいわねばインチキくさいと思ったのか。調子を変えてきた。課長は本当のことを聞きたかった。身をのりだし、
「そうですか。それでも長生きできるんですか」
彼女は少したじろいだが、また、もとの平然とした笑顔をとりもどした。
「できます。で、病気もなおって、健康ハッピーな生活です」
「何の病気だと思います?」
課長の質問に、彼女はギクリとした。課長の、急に真剣になった顔におそれをなした。たじたじとなりつつも、態勢をたてなおし、
「・・・さあ。私は運勢の占いはしますが、目先のクイズ当てはしませんから」
「そう。いや、これは失礼」
気の毒だ。これ以上の詰問は気の毒だ。藁をもすがる気でここにきたのだ。
それなりの藁はもらったじゃないの。超長生きだの、最愛の人とのめぐりあいだの。
でも藁は藁だなあ。
「ありがとう」
課長は料金払い、おもてへ出ようと立ち上がった。すると、
「お客さん」
下を向いたまま占い師がうなった。
「なんです」
「この宇宙船地球号に、乗組員は現在、七十四億六千八百二十六万四千三百五十人、一分あたり百五十人増加中、です。平均の寿命は四十歳で、平均年齢は二十六歳」
「二十六歳・・・」
若い。地球人の平均年齢は若いなと思った。アフリカの人なんか早死にが多いから、その影響だろう。
で、日本人の平均寿命は八十歳くらいで、平均年齢はたしか四十一歳。世界人の平均年齢は若すぎる・・・
「二十六歳。私なんかもう、すごく、生きすぎたなあ」
そう課長がいうと、占い師はにっと笑った。
「だからって、遠慮はいりません。長生き出来る人は生きればいいんでないかい」
「そうですか」
「そうですよ。そして乗組員のみんなに、少しでもいいことをしてあげようじゃありませんか。この四十六億年の地球の歴史のなか、今日、縁あって乗り合わせた六十億余の地球のみなさまのために、少しでもステキないいことをしてあげましょう」
何をいいだしたんだ。課長は首をかしげた。しかし構わず占い婆さんは続ける。
「みんな、ほんの短い命。気の遠くなるように長い宇宙の「時間」という名の暗闇の中の、とても短い休
暇みたいなもんです。でもその休暇は、みんなそれぞれに違う値打ちをもつ。それぞれに違う運命をもっ
ています。七十四億あまりの運命です。みんな二つとはない大事なもの。でもみんな、自分のその運命の
ことを知りません。休暇がいつ終るのかさえ知らないで、この休暇ははじまってしまう。そして・・・」
・・・つづく




