占い師にみてもらった
十二月の寒い晴れた日、課長は占い師にみてもらった。
その占い師は小学生大の小さな人で 、黒いローブを羽織っていた。体のわりに顔でかく、五頭身くらいだった。顔だちは、ちょっと美形の少し崩れたクレオパトラ風。化粧ぶ厚く、きついアイラインの上の眉毛は化粧筆による手書きの太い線、髪は肩までたれる長さのヤキソバ状チリチリヘアーだった。
年内いっぱいで廃業予定のデパート前、閉じたシャッターを背にした黒い簡易テント小屋入口のフェルト布を上げると、目のまえテーブルの向うに、この占い師がいた。泳ぐようなひとみで課長をむかえ、一瞬の間をおき、
「らっしゃい!」
と、シャウトした。
その物腰、ひび割れたおばさん声は、占い館のマダムというよりも、さびれた国道沿い、トラック運転手向け大衆食堂の店員さん。
「運勢を。私の運命みてください」
との課長の依頼うけ、自分の顔より大きな天眼鏡持ち、磨き込まれたレンズごしに課長をのぞいた。まばたきする紫アイラインの大きな杏目、じっくりじろじろと、奇妙岩石の鑑定するようにのぞき、課長の手をとり、天眼鏡おしつけ顔かぶせた。ヤキソバ的髪の毛のうえで、小屋のランプの光がはねた。
「生年月日は・・・?」
地の底から響くような声で問う。続けて、出身地・勤務先・海外旅行経験・すきな食べ物・・・色々と質問した。
顔あげ目つぶって瞑想、タロットカード出し考え、おみくじ棒出してしゃらしゃら回し、憑かれたような小声でぶつぶつ唱え、電話帳みたいなラテン語の書籍をとりだし調べもの。
急に「うおう!」と奇声発し、興奮し目つりあげ天仰いだ。そこには琥珀色の裸ランプが、忘れられた冥王星のように光っていた。
彼女の様子は、占いマダムや大衆食堂飯盛り女というより、霊媒師とか、老人巫女とか、いなか図書館のシャーマン司書とか、ただの認知症婆さまとか、色々なものを思いださせた。料金三千円で、色々やってくれた。
そして結果がでた、
「大丈夫です」
彼女は自信ありげにうなずく。
「何がです」
「あなたの運勢」
「どう大丈夫です」
「ながいきします。うらやましいです」 彼女は顔をふせて左右に首をふった。「私なんかとは大違い」
「そうですか」
課長はなんだか申し訳ない気になった。彼女はまたいう。こころなしか涙声。
「私なんかとは大違い」
「そんなにながいきですかね」
課長は力なくいった。
「そうです。あなたの手の、その生命線」
「生命線・・・」
「手のひらから流れ出て、手首にまでまきついて、これは命のブレスレットだ。いいなあ」
「ああ、これ。これはそんなにいいものですか」
「いいですよお、とっても」
うっとりした婆さん。
「何歳くらいまで生きますか」
「人間の臓器の耐用年数くらい」
「っていいますと?」
「百五十年くらい」
「百五十年・・・」
課長のこめかみを汗が流れた。馬鹿な、と思い、質問した。
「でもね、いまだに私は独身ですが。そのながい一生、ずっと独身ですか」
「四十七歳なんてまだ若いですよ。とくにあなたの長命にあっては。そしてめぐりあう。すてきな人に。最愛の人に。近いうちに」
「近いうちに?」
「ええ。もう会ってるかもしれない」
「そうですか。そうでしょうね。なにせ歳ですから。この歳で、そんな人に会ってないとしたら救いようない」
「歳は関係ない。最愛のお方は、いまわのきわにお見えなることもある。
ついに会えない 人もいらっしゃる。そこへいきますと、あなたさまは、とてもいい」
・・・つづく




