609話 それでいいじゃないですか
年末年始の更新についてのお知らせ:詳細は活動報告にて
なんて答えたらいいのだろうか?
どんな言葉を紡げばいいのだろうか?
ものすごく迷う。
ただ、だんまりをしてはいけない。
そんなことをするのなら、うまく話をまとめることができなくても、思うところを素直に口にした方がいいだろう。
覚悟を決めよう。
「正直な話をすると……」
「はい」
「そういうことは、その……考えないわけではありません。ちょっとは想像したことがあります」
「ということは、カナデちゃんに惹かれている、と?」
「……はい」
素直に頷いた。
かわいいだけじゃなくて、いつも明るくて元気で。
みんなを笑顔にするような、天性のムードメーカー。
それに、カナデはとても優しい子だ。
いつも俺のことを支えてくれて……
それに、みんなのことも何度も助けている。
心の支えになってくれている。
そんな女の子が身近にいて、しかも、好意を向けてくれている。
意識しないわけがない。
好きなのかどうか。
そこは微妙ではあるのだけど……
少しずつ心惹かれていることは間違いない。
「それなら、カナデちゃんをお嫁さんにもらっても問題はありませんね?」
「それは……できません」
「どうしてですか?」
「えっと……ものすごく最低な話になるんですが……」
迷う。
迷う。
迷う。
でも、正直に言うことにした。
「俺のことを好きと言ってくれている女の子は他にもいて……その子達にも、惹かれているところがあります」
「あらまあ」
かなり最低な話だ。
一人の女性に目を向けるのではなくて、あちらこちらに気を散らしてしまうなんて。
男としてダメダメだと思う。
でも……
どうしても、誰か一人だけの目を向けることができない。
他を傷つけるかもしれないと考えると、なかなか……
「やれやれ。レインさんは、こと恋愛になると、とても優柔不断ですね」
「うぐ」
「とても情けないです。ダメ男です」
「す、すみません……」
スズさんの言うことが100パーセント正しいので、なにも言えない。
ただ謝るだけだ。
「でも」
ふと、スズさんが小さく笑う。
「そういうダメなところをごまかそうとしないで、素直に打ち明けてしまうところは好感が持てますね。誠実であろう、という気持ちが伝わってきます」
「複数の女の子達の間で気持ちが揺れているっていう、ふざけたことをしているわけですから……せめて、できる限りのところでは誠実でないと」
「不器用ですね」
くすくすと、スズさんが再び笑う。
てっきり、激怒されることも覚悟していたのだけど……
でもそんなことはなくて、スズさんはうれしそうだ。
「怒らないんですか?」
「いいえ?」
「えっと……」
「正直に言うと、この展開は予想できていたので。レインさんなら、きっとこんな感じになっているだろうなあ、と鮮明に思い浮かべることができました。そして、その想像通りですね、今」
「うぐ」
とにかく申しわけない。
そして、情けない。
穴があれば入りたい気分だ。
「そんなレインさんに、一つ、アドバイスをしましょう」
「アドバイス……ですか?」
「別に、特定の一人に絞り込む必要はないんですよ?」
とんでもない発言が飛び出して、ついつい思考が停止してしまう。
その間に、スズさんは話を勝手に進めてしまう。
「人間のことは詳しくは知らないですが、確か、重婚は認められていますよね?」
「え? あ、はい……一応」
時と場合によっては、貴族などは多くの血を残さなければいけない。
家を絶やすわけにはいかないからだ。
そのために、妾を持つことは許されているし、重婚も許可されている。
そして、それは平民も同じ。
貴族だけ良くて平民はダメ、なんていうことをしたら差別となり、反発が起きる。
なので、基本的に身分は関係なく、重婚は許可されている。
「なら、レインさんを好きな子、全員と結婚してしまえばいいんですよ」
「そ、そんなことを言われても……」
重婚が許可されているとはいえ、平民でそれをする人は少ない。
単純に財力の問題だ。
俺の両親もその周りの人達も、重婚はしていなかった。
そのせいか、重婚に対する抵抗というか、マイナスのイメージがある。
でもスズさんは、そんなことは気にするなと笑い飛ばす。
「仮に重婚が禁止されていたとしても、カナデちゃんは人間ではなくて最強種なので、人間の法に縛られることはありませんよ」
「それは屁理屈というやつでは……?」
「それに、レインさんは神の血を引いているんでしょう? なら、たくさんお嫁さんをもらい、たくさん子供を設けることは大事だと思いますが」
「いや、でも……」
「そもそもの話、仮にカナデちゃん一人を選んで、他の子を悲しませることをよしとするんですか?」
「それは……」
その光景を想像してみた。
とても胸が痛くなる。
「一人だけじゃなくて、みんなが幸せになれる。なら、それでいいじゃないですか」
「いいんでしょうか……?」
「まあ、重婚……ハーレムを受け入れろ、と強制するつもりはありませんよ。そもそも、カナデちゃん達が納得しないと、それはダメですからね。女の子は、やっぱり自分を一番に見てほしいものですから」
「ですよね……」
「でも、カナデちゃん達は仲が良いから、一緒にいたい、と思う方が強いと私は睨んでいますけどね」
「どっちなんですか……」
否定するようなことを言えば、肯定するようなことを言う。
いったい、俺にどうしてほしいのか。
「決めるのは、レインさんですよ?」
「あ……」
そうだ。
そんな当たり前のことを忘れていた。
特定の一人を選ぶにしても、みんなを選ぶにしても、まずは俺が意思を固めないといけない。
それをしっかりしろ、とスズさんは言いたいのだろう。
「ふふ、がんばってくださいね。私は応援していますよ。あ、夫も応援していると言っていましたよ?」
「正直、どうなるかわかりませんけど……彼女達にしっかりと向き合いたいと思います」




