607話 新しい友達
年末年始の更新についてのお知らせ:詳細は活動報告にて
モナと遭遇するというトラブルが起きたものの、その後は、いつも通りに稽古を再開した。
モナの目的は憶測の域を出ないし、ラインハルトの正体はさっぱりだ。
わからないことで頭を悩ませても仕方ない。
そんな結論に至った。
そして、さらに一週間。
みっちりと稽古を重ねた。
――――――――――
「みゃんっ!」
覚醒状態のスズさんが突撃してきた。
相変わらずデタラメな速度で、一瞬の間に背後に回り込まれてしまう。
でも、いつまでも負けていられない。
「ジンライ!」
瞬間的な超加速をして、スズさんの攻撃を回避。
同時に、鷹が獲物を狩るように、上から飛んできたシグレさんの攻撃も避ける。
「えーい!」
「おらぁ!」
ミルアさんとレゾナさんが、左右から挟み込むようにして拳を振る。
ただのパンチと侮ることなかれ。
彼女達の一撃は攻城兵器に匹敵する。
いや、それ以上だ。
なので、まともに受け止めない。
「重力反転!」
「あわわ!?」
「おおぅ!?」
二人にかかる重力を反転させて、空に飛ばしてやる。
一メートルほど飛ばすので精一杯なのだけど、攻撃を逸らすという目的は達することができたので十分。
「ファイヤーボール・マルチショット!」
今の俺にできる限界ギリギリまで火球を生み出して、雨のようにばらまいた。
あちらこちらで爆発が起きて、土煙が舞い上がる。
視界を閉ざすのが目的……と、思われただろう。
でも、それは本命じゃない。
本当の狙いは……
「召喚!」
「えっ」
目くらましに惑わされることなく、攻撃をしようとしていたスズさんの前に、短剣を呼び寄せてやる。
さすがのスズさんも、目の前にいきなり刃物が現れたら、一瞬ではあるものの足を止めてしまう。
そこを狙い、リファと契約して得た力……魔眼で束縛。
完全に動きを止めたところで、目の前に拳を突きつけた。
「……」
「……」
しばし、睨み合い……
「降参です」
ややあって、スズさんが両手を挙げた。
「うむ、そこまでじゃ!」
「よし!」
この一週間は、スズさん達をまとめて相手にするという、無茶苦茶な稽古だったのだけど……
七日目にして、ようやく一本を取ることができた。
うれしくて、ついつい喜びの声をあげてしまう。
「やるじゃねえか。まさか、負けるとは思ってなかったぜ」
「うーん……タニアちゃんの前だから、けっこう本気を出したのに、まさか負けちゃうなんて」
「ミルアよ。娘に良いところを見せたいとはいえ、それはちと、大人げないぞ……」
なんだかんだで、レゾナさん達に成長したことを認められて、褒められて……
「おつかれさまです、よくがんばりましたね」
「……スズさん……」
「これで免許皆伝です。あ、別に免許とかはないんですけどね? 雰囲気です」
スズさんが、いたずらっぽく笑う。
「『ジンライ』という技を身につけるだけではなくて、今まで以上に、さらに柔軟で幅広い戦術を身につけることができた。この一ヶ月のレインさんの成長は、目をみはるものがありました。もう教えることはありません」
「ありがとうございました!」
認めてくれた。
そのことがとてもうれしく、俺は大きな声でお礼を言い、深く頭を下げた。
――――――――――
その日の夜。
稽古おつかれさま、ということでパーティーが開かれた。
スズさんとフウリさんだけではなくて、他の猫霊族も参加している。
事情はよくわかっていないみたいだけど、とりあえず、パーティーならば参加しなければならない……という感じらしい。
陽気な猫霊族らしい、と思う。
「ふう」
食べて飲んで……
はしゃぎすぎてしまったため、外に出て、夜風を浴びて涼む。
うん、夜風が気持ちいい。
猫霊族の里だからなのか、空気がとても新鮮で心地いい気がした。
「レイン」
振り返ると、ニーナの姿が。
クウを頭に乗せて、クウの母親を腕に抱いている。
先の事件を通じて、すっかり懐かれた様子で、二匹のキツネはニーナから離れようとしない。
ニーナも二匹と一緒にいることを望み、最近はこのスタイルが普通になっていた。
……ちなみにティナが、「うちのお気にの場所が盗られた!」と嘆いていたのは、単なる余談だ。
「おつかれ、さま」
「ありがとう、ニーナ」
「クゥ!」
「コン!」
祝福してくれるかのように、クウとコウが高く鳴いた。
コウというのは、クウの母親のこと。
名付け親は、もちろんニーナだ。
「お前達もありがとうな」
「……わぷ」
クウとコウを撫でると、二匹が尻尾を大きく揺らす。
それがニーナの顔を覆い、くすぐったそうな声がこぼれた。
「えっと……」
「ああ」
「あのね……」
なにか話があるらしく、ニーナはそわそわと。
三本の尻尾が落ち着きなく揺れて、それに合わせてクウとコウの尻尾も揺れて……
傍から見ていると親子みたいで、とても微笑ましい光景だ。
「そろそろ、帰る……の?」
「うん、そうだな。けっこう長いこと、猫霊族の里にいたから……これ以上は迷惑をかけてしまう。それに……」
魔族の動きも気になる。
ホライズンに戻ったからといって、なにができるというわけではないのだけど……
ただ、なにが起きても対応できるように、そろそろ家に戻りたいところだ。
一応、目的を果たすこともできたからな。
「ニーナは、もっとここにいたいか?」
「えっと……楽しい、けど……帰りたい、かも」
自分のいるべきところは、ホライズンの家だと思っているらしい。
そう思ってくれて、とてもうれしい。
「あの……ね? お願い、があるの」
「お願い?」
「この子達……なん、だけど」
ああ、なるほど。
ニーナの言いたいことはすぐに察した。
「一緒に……連れていっても、いい……?」




