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 ある意味イベントクリアなので、もしかしたらこれを機に元の世界へ戻されるかと思いきや、全然その兆しすらなくて、僕はレオンハルトとして彼の悪行の歴史を塗り替えつつ、日々を送っている。

 まあ元の僕が死んでるなら、どこへ帰るんだって話だけども。

 ちなみにカインとめでたく結ばれたので、僕を攻略しようとしていたキャラ達には各々丁重にお断りを入れた。

 結果、全員を泣かせてしまったのは心苦しいが、それぞれの恋の道を歩んでほしい。なんて、晴れて両想いになった男の浮かれた言葉なんて聞きたくもないだろうが。

 つーか誰か、ブランカとくっつけ。

 と思うのに諦めきれない視線を感じるので、おちおちフラグも立てられない。まあ僕は、キャラ的に逆フラグしか立てられないっぽいけど……。

 カインのかわいい嫉妬の目もあるしな。

 彼については、姉との同居や慣れない学校生活なども込々で、いっそのことと思ってある提案をしてみたところ、あっさりと通っていい感じに治まりつつある。

 すなわち。

「俺が、従者……!?」

 平民服から従者服に着替えたカインは、なかなか様になっていつつも顔面を蒼白にしていたが、執事氏の指導の下、なんとかかんとか、見習いながらも俺の従者役を務めてくれている。

 通いではなく住み込みだ。学業が中途半端になってしまうので、学校だけは卒業まで行かされるそうだけど、ブランカの前で健気な弟を演じる時間が減った分、楽そうだ。姉の方は、いくばくか寂しそうだったが。

 とはいえ屋敷で働くことは、彼女としては好意的に捉えているようだ。

 うん、なんかごめん、ブランカ。

 職権乱用しまくりだし、使用人と主人がデキるのはご法度だった気もするが、僕としてもカインを常に傍に(堂々と)置いておけるので、大英断だと思ったりしてる。

 なんて、物思いにふけっていたら、ディナー用の着付けが終わったカインがすり寄ってきた。(半分くらい僕が自分でやっている)

 もちろんこういうことは、部屋に二人でいる時にしかしない。

「何? 触ってほしい?」

「……違うし」

「つれないなあ。触れ合い不足で死んじゃいそうだ」

「仕事中です」

「なんでそんなに意地悪言うかな」

 自分から寄ってきたくせに、そう言うことを言い出すのは恥ずかしいのか、カインは何かを待つ姿勢で頬を膨らめている。

「俺だって我慢してるんだからな」

「そっか。そうだね。我慢は大事だ。カインが仕事に戻れないと、僕が怒られる」

「戻れないようなこと……するのかよ」

 上目遣いは、してくれと懇願しているように見えて、甘すぎる誘惑にぐらぐらと揺れそうになる。

「あ、あとで、ね」

「絶対だぞ」

 カインが背伸びをして、僕の唇を奪って行った。かすめるだけで終わるかと思われたそれは、思いのほか長く僕の唇を奪い続けた。ひどい誘惑せっかく耐えてやりすごしたのに、努力が無に帰しそうになると思ったところで、やっと解放してくれた。

「おら、極楽鳥みたいなお客がお待ちだぞ、若旦那」

「伯爵令嬢のこと?」

「あいつ、色目使いやがって、むかつく。あんた、誘惑されんなよな」

 ちなみにこの世界に、極楽鳥はいない。やっぱり同じ世界から来てんだなあ、としみじみ思いながら、僕は扉を開けようとしているカインを後ろから抱きすくめた。

「僕が誘惑されるのはカインだけだから……夜、楽しみにしてて」

「! 馬鹿っ」

 耳元で低く囁いて、僕はするりと手を放す。真っ赤になったカイン従者より先に部屋を出た。まあ楽しみになんて言っても僕、童貞だから期待されても困るんだけどと思いつつ、顔はにやけたまま戻らない。

 悪役レオンハルトが、舞い上がりそうな幸せの中に身を置くなど、なんたるざまか。これはむしろ悪役的には堕落に等しい。やってられるかと役の方が去っていきそうだ。

 その幸せを掴んだのは僕だけど、きっとレオンハルトだって誰かと恋に落ちていれば、こうなったんじゃないかと思う。ただ彼の歩んだ道では、ここへはたどり着けなかった。僕というバグの修正がなければ。

 なんて、僕の勝手な想像だけど。

 さあ、シナリオはとうに破綻している。ここから先は、僕らの手で未来を創っていくしかない。どこへたどり着こうとも、それが真のエンディングなのだ。




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