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シリアスクラッシャーby世界

 テディチヌは病院が嫌いだ。

 これは間違いなく「優紗の心」から来るもので、それを手に入れる前はテディチヌにとって病院は格好の餌場だった。

 好きとか嫌いとか当時は持っていなかった。

 ただ獲物が多いから来る。その程度のものだ。


 悪魔が心を完全に奪うことは実は非常に珍しい。基本は簡単な契約を結び、寿命を削るとか記憶を奪うとかその程度。

 心を奪うと強大な魔力を手に入れることができる――しかし、そこで上限が決まってしまう。

 奪った心の質によって自分が持てる最大の魔力量が決まってしまう。

 心が空っぽであれば、つぎ込めばつぎ込むほど魔力を得ることができる。器がないという理由で、徐々に洩れてはしまうが。

 だから悪魔にとって心を奪う事は究極的な最終手段。

 よっぽど最高級の獲物に出会わない限り、まず選ぶことはしない。


「それが……『優紗』だったんだよねー」

「で、おいしかったの?」

「んー、心においしいとかないんだよね」

「おいしかったの?」

「……だからね」

「私の心はまずかったの?」

「え?」

「おいしくなかったの?」

「え……え、え、ええええええええ?」

「どれくらいおいしくなかったの? 煮込み過ぎて黒に染まったカレーくらい? それとも沼の水で作った煮物? ムカデとヘビを和えたもの? 化学製品のみでつくったスープ? それとも、私達がこれから持っていくお見舞いの品くらいかしら?」

「え……」


 優紗の手に在る物は。

 昨夜の失敗料理。


「それはだめーーーーーーー!」

「あら。昨日の番はあんなに体の骨を飛び散らせて喜んでくれたのに」

「いや……それはまずかったか……いやいや「おいしくないもの」って、優紗もわかってるじゃない」

「流石の私でも見た目でわかる」

「ですよねー」


 優紗は家事を任されていることもあって基本料理は上手なのだが、たまに大失敗をする。

 心を無くし、味覚が超鈍感になったこともあり、その「大失敗」は「大惨事」に発展するようになった。

 幽霊のはずのエアリンは、その匂いに浸食されて汚いエアリンになるところだったんだよ(汗汗

 ほんと、この美貌を穢すなんて、優紗も罪作りっ

 ……もちろん優紗がエアリンをにらんでくる。

 ただの空気を睨んでもしょうがないのに。さすがに病院内で不審なことはできないため、エアリンに対しての罰はそれだけだった。

 珍しい事態にエアリン歓喜!!

 優紗は病院の廊下を殺意をもって歩く。他の入院患者さんを脅えさせちゃいけません!

 

「も、もう少しで真寿くんの部屋なんだからね。気を付けてね」

「わかっている……演技は、ちゃんとできる」


 今回はテディチヌも人間Verで同行。主に優紗のフォローが目的。

 昨晩、一生懸命稽古していた情景が今でもぽわんぽわんと回想できるわー


『真寿! 久しぶり!! 元気してた!? ――はいっ!』

『ま、まこと……久しぶりね。お元気だったでしょうか』

『固いよ! ふつーに、ナチュラルな感じで』

『真寿。姉の靴をなめなさい』

『優紗の自然はどこの世界のものなの!?』


 確実に彼女はあのクラスに毒されているようだった。

 エアリンは真寿くんの将来が非常に心配である。エアリンとしては、もう会わないほうがいいのではないかと思うんだけど?


「だめだよ」


 エアリンの言葉をテディチヌが拒否する。


「僕は思っている。真寿くんに会いたいって」

「やっぱりテディチヌ、あなたはショ……」

「そのやり取りは前回終わったよね!?」


 テディチヌの心は優紗の心。

 優紗本体=体はそれに従う。

 人間は心を何よりも上位においている。

 それは生きるために絶対必要な器官ではないのに、失えば『生きるための行動』ができなくなる。

 

 何も知らない赤子のころは。

 生まれたての頃は、ただ本能だけで泣くことができたのに。

 生きていくにつれて、どうして簡単に叫ぶことができなくなるのだろうか。

 何かをする度に、どうして己の心なんてものを頼りにして動かなければいけないのだろうか。


 それに時として――心は生を優先させない。

 生物として生きなければならないのに。

 優紗のように何かのためにと取引の材料に差し出させたり。


 時として

 時として


 己の死を己の心で――


 エアリンはね、それがとても不思議で不思議でならないよ。

 優紗。


 がらっ


 勢いよく優紗が病室の扉を開ける。

 そのあまりにも潔い行動にテディチヌのほうがあたふたしている。


 ねぇ、優紗。

 心を失ったくせに、まだ生き続ける君。

 心は自身を差し出すことを選んで体を裏切ったのに、君はまだ生き続けている。

 ねぇ、優紗。君はまだ、体は――常に生きることを望んでいるのか。

 ねぇ――


「うるさい、エアリン。モノローグは耳障りだわ」


 エアリンのシリアス雰囲気をばっさりぶち壊して優紗が告げる。

 

「空気だったら、ちゃんと情景描写のほうを優先して語りなさい」


 病室の中、白い壁の中。

 そこには真寿くんが……いるにはいる。


 眠っている。

 

 だけど、その周りには……大量のマシュマロのような雲状のもふもふに囲まれていた。

 男の子が埋まってしまうくらい。もっふもふ。


 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふっ


 その上を跳ねている、ちっこい小人が一人二人三人四人五人六人七人八人九人十人十一人十二人十三人十四人十五人……

 その全部がこっちを見る。

 

 なんってシュール。

 

 この世界はなんってシリアスクラッシャー。

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