22話 目は口程に物を言う
「ヘル様!そうではなく、こうです」
影を出入りし、身振り手振りで、使い方を教える、クラスト。
「うぅん…駄目だ~」
影に入れないヘルは、体の力を抜き、尻餅を着く。
「ヘル様。その調子では、いつまで経っても、影魔法は習得出来ませんよ」
「そう言われても…」
クラスト家に伝わる影魔法には、魔法を発動するための数式は、存在しないようだ。
よって、影魔法の習得は、”体で覚える”しかないみたい…
数式による習得も、うまく出来る訳では無いが、感覚なんて、訳が分からない。
こんな伝承方法を考えた祖先は、余程、数式が苦手だったのだろう。
「そうです。もっと、腰に力を入れて!」
影魔法の基礎ですら、何年も続けないと、習得できそうに無い。
聴力を上げる魔法や、声帯を変える魔法は、もっと時間が掛かりそうだし…
影魔法は、諦めるか~
「サイレントウォーク」
適当に魔法を唱えたヘルの体が、影の中に吸い込まれる。
「え…で、出来た!」
「流石です、ヘル様。もう習得されるとは」
拍手を送るクラストの目から、ゆっくりと笑顔が消える。
「では、このまま、30分間、影の中で過ごしましょう」
「途中で、影から出てしまった場合、始めからやり直しです」
鬼教師すぎる!
今、出来るようになったばかりなのに、30分⁈
・・・無理だよ。
「あ、、、」
集中力の切れたヘルの体が、影から飛び出す。
「はい。影から出てしまいましたので、やり直しです」
その後、一日中、訓練をしたことで、影の中を移動できるほど、成長を遂げた。
「ヘル様、おはようございます。今日は…」
寝起きのヘルに、今日の予定を喋り続ける、クラスト。
王と会った昨日から、異常に距離が近い。
・・・うざい!
「サイレントウォーク」
「ヘル様?どうやら、影魔法を、完璧にマスターされた様ですね」
何だこれ!
昨日の訓練が噓みたいに、体が、影の中をスイスイと進む。
数式よりも、感覚で覚える方が、得意なのかな?
「この世界に来て初めて、才能を感じた気がする」
自分の才能に浸り、影を伝い移動するヘルの目に、牢屋の壁が写り過ぎる。
「心配だし、一応、顔を出しておいたほうが良いかな…」
ヘルは、壁に出来た影を伝い、牢の窓に伸びる影に移動した。
「忘れるものか!貴様が”我子を殺した”あの瞬間は、昨日の事のように思い出す」
「‼」
怒鳴られた声に驚き、影から飛び出しそうになる、ヘル。
下を向き、顔を背ける、ランベイル。
「申し訳なかった…」
ランベイルが、謝っている?
ランベイルが行いそうな、悪いことと言えば…女性関係!
「今更、罪は変えられない。そこで、ゆっくりと死を待て…」
鋭い目つき。
去り際の捨て台詞。
何だか…悪役みたいな人だったな~
格子の隙間から、離れて行くオーウェンを見つめ、格好良く台詞を吐く。
「・・・悪いが、今、死ぬわけにはいかんのだ!」
「え?ダサい…」
影から顔を出したヘルが、ランベイルに声を掛ける。
「ヘ、ヘル様!」
「なぜ、ここに⁈というか、何時から、そこに?」
「ふふふ。驚かないで、聞きたまえ!」
「厳しい修行に耐えた結果、一族秘伝の影魔法を…」
「あ~王の影の兵隊が使う魔法か~」
「となると、あの護衛騎士の正体は、王の影の一員?」
全て言い当てられてしまい、話す内容が無くなった、ヘル。
「僕、帰っていいかな?」
「えっと…ヘル様は、私を助けに来て下さったのでは?」
「・・・違うよ」
ランベイルに背を向けたヘルは、影魔法を使いで、格子を越える。
「ヘル様!」
牢を出たヘルの背中を、神妙な面持ちで見つめる、ランベイル。
「オーウェンは、優秀な人間です。どうか、お気をつけ下さい」
「うん?」
・・・オーウェンって、誰?




