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迎えに来て  作者: 小宵
11/11

番外編 誕生日


 カイルは目の前のショウウィンドウに釘付けになった。

 白い大きな体は曲線を描き、とてもメルヘンチックだ。

 蓋を開けると白と黒のコントラスト。

 これしかない、と思った。


 「おい、まさかそれにするとか言わないよな?」

 「これにする」


 カイルがそれから目を逸らさずにドミーの問いに答えると、ドミーがあからさまにため息をついた。


 「どう考えても無理だろ。まずでかいくて重い。完璧に持って帰れない。持って帰れたとしても置く場所が無いし、そんなもん持って帰ったら俺達が集落抜け出して買い物に来たのがバレバレだろう」

 「・・・だよな」


 わかっていても諦めきれない。

 これを見た瞬間、びびっときたのだ。


 カイルの見つめる先にあるのは白いピアノ。

 鍵盤は普通のピアノと色が逆だった。 

 モーツアルトの白いピアノを模倣した物なのだろう。


 ピアノを弾き、歌うシルヴィアはさぞ美しく可愛いに違いない。

 カイルは自分の妄想にやに下がった笑みをこぼし、ドミーにドン引きされている。

 

 シルヴィアはフルートをあげた時も、ハープを渡した時も難なく弾きこなし、最上の音楽を引き出した。

 きっとピアノも弾ける、と思う。

 しかし、足が届かないだろうと思い無理やり視線を逸らした。


 「他にかぁ・・・」

 「・・・お前もう楽器は止めておけよ。移動に不便だ」

 「う~・・・だってシルヴィの音、好きなんだよ」

 「たまには色っぽいもんでもやれよ。シルヴィアだって女の子だぞ」

 

 う~んと考えながら、夜のロマンチック通りを歩く男2人。

 ドイツのロマンチック通りはカップルで賑わう所。

 そんなところを(しかも夜に)男2人で歩いているため非常に目立つ。

 しかも2人も銀髪を長く伸ばし、サングラスをかけ、背もすらっと高く、言うまでもなく美系オーラが漂っていた。

 カップルの女の方がちらちらと視線をやっている。


 今度は楽器屋ではなくジュエリーショップを物色する。

 ネックレスやイヤリングが並んでいるが、どれもシルヴィアの瞳の前にはかすんでしまうだろう。

 こんなものを贈るくらいならさっき雑貨屋にあった鈴のついたチョーカーを贈る。

 猫耳と尻尾をオプションに。

 

 (・・・鼻血でるかも)


 カイルの脳内で着せ替えをさせられているシルヴィアである。

 猫からウサギに変換している途中でドミーから刺さるような視線を感じ、咳払いをする。

 いかんいかん、時間がないんだった。


 そんなとき、ふっと目に付く物があった。

 真珠の髪飾り。

 それはまるで花嫁のヴェールのように何重にも連なり、垂れ下がっている。

 真珠ならばシルヴィアの美しさを邪魔することはないはずだ。


 「おい、まさかそれにするとか言わないよな?」 

 「・・・駄目か」

 「当たり前だろう。髪飾りなんて求婚行為だろう。一族に殺されても良いならそれにすれば?」

 「・・・・・」

 「そう言えばお前、その髪飾り・・・」


 びくっと反応してしまい、しまった、と思った。

 案の定ドミーは気づいたらしく、これ見よがしにため息をつく。


 「お前らが仲良いのはわかってるつもりだがな、それはさすがにどうかと思うぞ」

 「っておい!触るな!!俺の宝物なんだ!!」

 「はー・・・このシスコンにぃちゃんはよー。どうしようもないな」

 「うるせー」


 そんなこんなで時間は過ぎていく。

 そして迎えたシルヴィア5歳の誕生日、シルヴィアはむくれていた。


 「シルヴィ・・なんで拗ねてるんだ?」

 「むー・・・」

 「シールーヴィーアー」

 「むー」


 ぷぅと膨れたシルヴィアの頬をつんつん突いてその感触を楽しむカイル。

 しかしぷいっとそっぽを剥かれてしまう。


 (シルヴィ・・・なんて可愛いんだ!!)


 思いのままに後ろからシルヴィアを抱きしめ膝の上に引きずり込む。

 カイルの膝の上にすっぽり収まってしまったシルヴィアはじたばたと暴れるが「可愛いな~」と言って余計に抱きしめられてしまい、不機嫌を装えなくなってしまった。

 暴れるのをやめ、逆にカイルに抱きつき、カイルの胸に顔を擦りつけた。


 「ん?どうした?」

 「・・・だって、昨日いなかったから」

 

 なるほど。置いていかれたことが気にくわなかったらしい。

 理由が分かればさらに愛おしさが増した。

 ぎゅぅぅぅぅっとシルヴィアを抱きしめ、囁く。


 「シルヴィ、お誕生日おめでとう」


 聡いシルヴィアはそれだけで昨日のことを気づいたらしく、大きな目をめいいっぱい開いて驚いてみせた後、花が咲くように笑った。


 「その、結局プレゼント、選べなくて、ケーキだけ買ってきたんだ」

 「ううん、いいの。兄上がいればそれだけで。でも・・」

 「ん?」

 「お話して!街に行ったんでしょう?」

 「ああ、もちろんだ」


 2人でケーキを突きつつ街で見た物を話して聞かせた。

 お礼に、とシルヴィアが歌いだす。


 その美しい声に、心地よい音色に体を預けたい、がしかし。


 「おい!シルヴィア!!本気で歌うな!!」


 機嫌がいいのかシルヴィアが珍しく本気で歌い始めた。

 シルヴィアの周りにぽつぽつと光をともすような花が咲き乱れる。

 木々は花をつけ、実を育て始める。

 夜空から星が落ちてきたように光がシルヴィアに集まる。

 月光を浴び、光り輝くシルヴィアはまさに月の女神のように神秘的で美しい。

 シルヴィアの声に世界の全てが反応しているかのような錯覚を覚える。


 止めなければ、と思うのに、どうやって話すのか、話し方が思い出せない。

 カイルは今、シルヴィアのものだった。

 耳が、目が、そして心が。

 今まさに世界が全てシルヴィアのものだった。


 歌い終わったシルヴィアがカイルの下へ戻って来る。


 この天使はどこまで人々の心を、世界の心を奪っていくのだろうか?

 決してシルヴィアが望んだわけではない。

 シルヴィアのこれからのことを思い、涙が出そうになる。

 しかし、泣いていいのは俺ではない。

 少しでも多くシルヴィアと共にいたい。

 そして少しでも長くシルヴィアの心の支えになりたい。

 腕の中に戻ってきた愛しい妹の額に口付けを落とす。

 愛しい愛しい俺のシルヴィア。


 生まれてきてくれてありがとう。

 俺のところに来てくれて、俺の妹に産まれてきてくれてありがとう。

 お前は俺の命だ。

 会えて嬉しいよ。


 お誕生日おめでとう。

 世界がシルヴィアを祝福しているよ。

 お前の幸せを心から願っているよ。


 愛してる。


 これからも、一緒に年を重ねていこう。

 また来年も、こうして2人で。





 

 


 


 

う・・・これでほんとに終わりの予定WW

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