18話 恋敵〈エイミー視点〉
――あっ! そうだわ……。
私たちの仲を見せつけたら、ロジェ様とくっつけるかもなんて期待をなくさせてあげられるんじゃない?
そう考えたのだ。我ながら名案だと思う。
「ロジェ様ったら! そんなことを言われたら、照れてしまいます。私はいいですけど、他の女性にそんなこと言ったら、みんなロジェ様に惚れてしまいますよ!」
こう言えば、私たちの関係性の深さが伝わるわよね! そう思っていると、ロジェ様は口を開いた。
「そんなことないよ。本当のことを言っただけさ」
そう言って、頭を撫でてくれたのだ。なんて良い追い風だろう。
「ロジェ様に言われると、他の人に言われるのと違って、何だかドキドキしちゃいます!」
嬉しくなりキュンキュンとときめきながら、私はロジェ様と楽しく会話をした。そして、ふと思った。
――ロジェ様がこの店にいるのって、私が好きだと言った店だから来てくれたに違いないわよね?
きっとそうよ、そうに決まってるわ!
そう思い、返ってくるであろう答えを期待しながらロジェ様に訊ねた。
「そういえば、ロジェ様はどうしてこのカフェに来ているんですか?」
――エイミーが好きなところだから来てみたんだって言ってくれるはず!
そう期待していた。しかし、返ってきた答えは私の想定とはあまりにも違い過ぎた。
「僕がここにいるのは、婚約者のリディアとデートをしているからだよ。ねっ! リディ!」
そう言って、突然婚約者を紹介されたのだ。もちろん婚約者がいることは知っていた。でもまさか、ロジェ様とこんな店に来るほどの関係性とは思っていなかった。
しかも、ロジェ様のリディア嬢に対する表情は私に見せたことの無い、もっと気を許した相手に見せるような、甘い表情だった。こんな甘い笑顔、他の人に見せているのも見たことが無い。本当に初めて見る表情だった。
――私にも向けられたこと無いあんな顔を向けられるなんてっ……!
私がどの女よりもロジェ様と仲が良いって思っていたのに……しかもその相手が婚約者……。
本当にショックだった。しかし、そんな私の傷心を気付けないこの女は、平然とした様子で私に挨拶をしてきた。
「こんにちは、コールデン子爵令嬢。私、ロジェリオ卿の婚約者の、リディア・ベルレアン侯爵令嬢です。以後お見知りおきくださいませ」
そう言ってその女は一礼をして微笑んだ後、言葉を続けた。
「彼の言う通りデート中なんです。以前、私がここのカフェに行ってみたいと言ったことを覚えてくれていた彼が、今日のデートに誘ってくれて来たんです。あなたのことは噂に聞いたので、是非お会いしたかったんですよ」
そう言われた瞬間、目の前にいる女が怖くなった。元から顔を見ようと思ってなかったが、見ようとしたくても見られないほどの怖さを感じたのだ。
――わざと侯爵とか子爵って爵位を言うなんて、絶対に私たちに牽制しようとしているんだわっ……。
そう思うと、なぜか急に恐怖心が出てきた。他の女だったら公爵令嬢でも何とも思わなかっただろうが、ロジェ様はこの女に私に見せたことの無い顔を見ている。
何かされたらどうしよう。もし万が一、権力を使ってロジェ様と私の仲を引き剥がそうとしてきたらどうしよう。
そう思うと、ただただ怖くなった。だから、私が突発的な勢いで返した返事は、彼女への謝罪だった。もちろん、怖いから嘘も混ぜた。
「あ、いえ! そ、そんな……、わわわわわたしっ……! すみませんっ……! まさかロジェさ……、いえ! ロジェリオ卿がリディア嬢と一緒にいるとは思っておらず、大変失礼なことをしてしまいましたっ……! ごめんなさい! ごめんなさい!」
そう謝っているうちに、自然と涙が出てきた。最初は本当に生理的な涙だった。
「エイミー、どうして急に泣いて謝るんだい? 何もそこまで謝るようなことはしてないじゃないか」
泣いている最中聞こえてきたこの声に惹かれロジェ様を見ると、私を心の底から心配しているロジェ様の表情が見えた。
――横の女より私に関心を向けてくれてるんだわ!
そう思い、とても嬉しい気持ちが込み上げてきた。それと同時に、私の方をロジェ様は優先してくれると分かり、横の女への恐怖心は一瞬にして無くなった。
だから、ロジェ様が一番関心を持っているのが私だという状況が嬉しくて、恐怖心が無くなった途中からはわざと泣いた。
そんな私に、横の女は私が泣かしたと思われるなんて言ってきた。
――あなたがそう思われたところで、私にはまったく害が無いわ。
むしろ悪人になればいいのよ!
だって、この女は私の事邪魔する意地悪な人だもの!
もっと困ればいい、そう思いながら泣いていると、その女はあろうことか敵である私に対してハンカチを差し出してきた。でも、ロジェ様も同時にハンカチを差し出してきた。
――ロジェ様がハンカチを出してくれたから、また会う口実が作れるわ……!
それにしてもこの女、平和ボケして頭の悪い馬鹿じゃないの?
こんな恋敵の女からのハンカチなんて受け取るわけないじゃない。
ロジェ様の婚約者という女は、あまりにも驚くほど馬鹿な行動をしていると思った。そのため、こんな馬鹿な女はいったいどんな顔をしているんだろうと思い、ついその顔を見たところ、ばっちりその女と目があった。
今まで他人のことを可愛いなんて思ったことはなかった。周りを見ても私が1番可愛いことが当たり前だったから。しかも圧倒的に。
だが、目のあったこの女を見て、初めて私よりも……と思ってしまった。その瞬間、ぶわっと心に負の感情が溢れた。
――何なの、この女!
ほんっと馬鹿な女!
何でこんな人がロジェ様の婚約者なのよ……!
何でロジェ様は婚約してしまっているのよ!
そう思った瞬間、私は目の前のリディア・ベルレアンという女と一緒の空間に居られないと思った。だから、私は急いで女に取り下げられる前にロジェ様のハンカチを受け取った。
――ロジェ様は私の運命の人だものっ……。
そう思いながら、ロジェ様を少しでも私のものだと思いたくて、胸元でギュッとハンカチに握りしめた。
でも、この女の顔と、この女にしか見せないロジェ様のさっきの顔を思い出したら、あまりにも居た堪れない気持ちになった。すると、私の足は勝手に出口に向かって走っていた。
そして店を出る直前、私はロジェ様の方を振り返った。期待したのだ。もしかしたら追いかけてくれるんじゃないかって。
だが、ロジェ様は私を追いかけてくれなかった。
――泣いて出ていったのに、追いかけてもくれないなんて酷いわ!
私のことを妹みたいとか、かわいいとかあんなに言っているのに!
きっとあの女のせいよ……。
全部全部あの女がロジェ様を制限してるんだわ……!
リディア・ベルレアン、今日で完全に覚えた。私は洗脳されているロジェ様を、絶対にあの女から引き剥がす。
そして運命通り、私とロジェ様でハッピーエンドを迎えるのよ!
そう心に決めた。
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