11話 未来へ〈サンディ視点〉
これは初めて聞く、彼の感情的な声だった。
出て行くと決めたものの、唯一心残りだったその人が走りながら必死に叫ぶその声を聞き、込み上げてくる気持ちを堪えながら振り返った。
すると、私の前まで来て、呼吸も整わない状況のシンが話しかけてきた。
「サンディ、どうして言ってくれなかったんだ? 何も言わずに去るなんて……」
「シン…………、ごめんなさい」
「別に謝ってもらいたい訳じゃないんだ。ただ、サンディは僕のことは信頼してくれてるって思っていたから……」
シンに会ったら、心が引き留められると思って会わなかったのに、どうしてシンは気付いてしまったのだろう。
それに、私の選択にシンを巻き込めないという思いと、シンを1人置き去りにしてしまう後ろめたさもあったから言わなかったのに、結局全部バレてしまった。
その事実に戸惑っていたが、シンの手を見て驚いた。
「シン、その荷物……!」
「ああ、僕も出ていくんだよ」
「どうして……」
「どうしてもこうしても、元より出ていくつもりだったよ」
「けど、どうして今日なの? 今までそんなこと一言も……」
私のこの言葉を聞き、真剣な顔をしたシンが近付いてきて、心の奥底に溜まっていた言葉を、絞り出すような声でぶつけてきた。
「サンディだって言ってくれなかったじゃないか! それに、僕は元々この領地から出ていきたかった。けど、今まで出ていかなかった。その理由が分かるか?」
胸がドクンと音を立てた。
「出ていかなかった理由……?」
そう尋ねると、真剣な顔付きだったシンが、少し頬を赤らめ、突然大きな声で言った。
「サンディ、君がいたからだ! 僕は昔からずっとサンディのことが好きだったんだ! でも、そのサンディが居なくなるのに、僕がここに残る理由はもうないだろう……!?」
――嘘でしょ……。
シンが私のことを……好き?
シンも私のことを好きだったの?
ということは、私だけの一方的な気持ちではなかった……。
「シン、あなたも同じ気持ちだったの……?」
「ああ、そうだよ。だから、って、え? 同じ……?」
私の口から漏れた言葉を聞き、ほとんど真顔のような顔をしていたシンの表情は、ほぼ真顔に近いものの、混乱の表情に変わった。
「同じってどういうこと? サンディも、ぼ、僕のことが好きということか?」
「私たち、お互い気付いていなかっただけで、両思いだったみたい……」
そう言うと、シンはいつもの真顔とはうって変わって、感極まった表情で話し出した。
「サンディは僕のことを信頼はしてくれているけど、好いてくれるとは思っていなかったんだ……。だって、僕はカイと顔がそっくりだから。それなら、サンディが辛い時に支えられる友達でいようと思っていたけど、君がこの街から出ていくと聞いた。ただ、何の知らせもなく離れるなんて考えてなかったから、いてもたってもいられなくて……。スーザンが教えてくれなかったら、きっとサンディに会うことも無かったと思うと、ぞっとするよ」
――シンとカイは顔は似ているけど、雰囲気や内面が全く違うから全然気にしていなかったのに、シンは気にしてくれていたのね……。
そして、私は私でシンは罪悪感から一緒にいてくれるだけで、私のことを好きになる訳無いと勝手に決めつけていたのね。
「私ね、ずっと前からこの領地から出て行くって決めていたの。ただ、シンに会ったらきっとここを出て行けなくなると思って、わざと伝えなかったの。どうしてもシンを見たら心が引き留められるから」
そう言うと、シンは顔を赤らめた。
それを見て、顔に熱が集中するのを感じた。
おそらく、私の顔は真っ赤だろう。
すると、シンが話し出した。
「サンディがそんなことを考えていたなんて、気付かなかったよ……」
「うん、そうね。私たち、ずっと一緒にいたのに、お互いのことを知らなすぎたんだわ」
そう言うと、シンは感極まった顔からまたも真顔になり、真剣な目付きで話し出した。
「僕たち、もっとお互いの気持ちを知らないといけないと思うんだ。だから――」
その先の言葉は、私の願いと一致していた。
「僕と一緒に王都に行ってくれませんか? サンディ、僕は君ともっとずっと一緒にいたいんだ」
もうこれに返す言葉は1つしか無かった。
「喜んでっ……!」
そう言ってシンに抱き着くと、シンはしっかりと私を抱き留めてくれた。
そして、私たちは初めての口付けを交わした。
それからしばらくして、私たちが落ち着きを取り戻した頃に声がかかった。
「お嬢ちゃんたち、話は済んだかい? それで、乗るの?乗らないの?」
――そうだった!
馬車をずっと待たせっきりだったんだわ!
恥ずかしい……!
「すみません! 乗ります!」
すると、いつも真顔のシンが、笑顔で御者に話しかけた。
「2人お願いします……!」
御者の人はカーッと笑うと元気に言った。
「おうおう! 乗りなっ! 若いってのは良いね〜」
こうして、私とシンは王都に向かう馬車に乗り込んだ。
王都での生活がどうなるかは分からない。
けれど、領地での生活よりもずっと輝けるはず。
私たちの関係もまだ始まったばかりだ。
私は、これから始まる新しい生活に思いを馳せながら、シンと2人で王都に向かった。
お読み下さりありがとうございます<(_ _*)>
次話、エイミー視点です。