10話 決意〈サンディ視点〉
その2人の組み合わせを見て、絶望感が私を襲ってきた。
しかし、そんな私の心中に気付くはずもない農場長が、困った顔をして話し出した。
「サンディ、いつまで怒っているんだ! もう19になるのに未だ12,3歳の少女に対して拗ね続けるとは情けない奴だ。農場で働くサンディの代わりはいくらでもいるが、エイミー様の代わりはいないんだぞ? 何でエイミー様が居辛いと思うような環境を作るんだ?」
この農場長の言葉にショックを受けている私を他所に、カイはエイミー様に優しい声で話しかけた。
「エイミー様、またサンディに何か言われたんですか? こんな小さくか弱いエイミー様に何度も嫌がらせをするような奴だったなんて……」
「サンディがずっと怒っているみたいだから、正直私怖くって……。ここ数日、私のことを睨むように見ていたから。……けど、サンディを怒らせてしまった私がいけないの」
――聞き捨てならないわ!
ふざけないでよ……。
どうしてそんな嘘をつくの?
私はエイミー様のことを睨んでなんかいない。
それに、本当に悪いと思っていたら、絶対にそんな態度取れるはずがないわ!
けど、その前にこの周囲の誤解を何とかしなくちゃ。
その思いから、何とか訂正しようと私は必死に伝えた。
「私はエイミー様のことを睨んでいません……! それに怒ってもいません!」
そう言うと、またもいつものように、カイお兄様、私怖いですと言いながら、エイミー様が泣き始めた。
その様子を見て、カイがエイミー様を庇うように抱き留め、蔑んだような目で私を見て怒り始めた。
「そうやってサンディが怒鳴るから、エイミー様が泣くんじゃないか! お前の今の姿を見て、怒っていないと思う奴なんて誰もいないぞ」
その一言で、私の心は崩れ出した。
――何で私がこんな惨めな思いをしないといけないの……?
どうして、いつも私が悪者になるの。
いろいろな負の感情がどっと押し寄せ、絶対に泣きたくないのに涙が出てきた。
この人たちの前で涙を流したくなかったのに流れる悔しさで、止めようとしても余計に涙が出てくる。
そんな私に、カイが止めの言葉を放った。
「困ったからって、嘘泣きするなよ。昔のサンディはもっと優しくて良い子だったのに……どうしちゃったんだ? お前、最低だな」
――カイ……、あなたがそれを言うの!?
もう無理、限界よ。
「私が怒っていないと言っても誰も信じてくれないので、もうどう思われても結構です。農場長、今日付けで辞めます。それでは末永くお幸せに」
そう言い残し、私は走って家まで帰って行った。
そして、家に帰り、両親には置手紙を残し急いで荷物をまとめた。
そして、二児の母の内で仕事が休みだった方のスーザンの家に行った。
「どうしたの!? サンディ、その荷物はいったい……。まさか、領地から出て行くの?」
「はい、そのつもりです。もう農場もやめてきました。それで、本当に迷惑をかけてしまって申し訳ないんですが、今晩ここに泊まらせてくれませんか?」
「泊まるのは構わないけれど……。そう、出て行くのね。王都の方に行くの?」
「はい。そう考えています」
「……実はね、私たちも王都に移ろうかと考えていたの。けれどサンディ、こんなにも突然出て行くだなんて……、ご両親は心配するでしょう?」
「確かに心配するかもしれませんが、私ももう成人を過ぎているので何も言わないと思います。それに、この決断を覆す気は微塵もありません」
「……そう、分かったわ。今日は英気を養ってね」
――良かったわ。明日の朝になったら、すぐに出ましょう。
こうして、朝を迎えた私は、お礼を言って早朝に出て行った。
それから、歩いていると信じられないことに領主様と鉢合わせた。
そして、領主様に声をかけられた。
「サンディ! こんな時間にどうしたんだ!?」
「領主様こそどうして外に……?」
「今日はサンディの誕生日だろう? ……実は、今までサンディには世話になっているから、エイミーと会わなくなった間、私が直にサンディの家に誕生日カードを届けていたんだよ。それで、いま届けに行っているところだったんだが……」
――そうか、今日は私の19歳の誕生日だったわ。
なんてタイミングなの……。
どうしてそんなことに手を回すのに、娘のことは何もしてくれなかったの?
けれど、そんなことただの平民の私が領主様に言えるわけがないわ。
それに、エイミー様のことを言ったところで、恐らく何も改善されないわね。
今までがそうだったんだから。
そう思いながら、領主様の言葉に戸惑っていると、領主様はまたも同じ質問をした。
「それで、サンディはどうしてここに? それに、その荷物の量、まさかここを出て行くわけじゃないだろう?」
「……実は、今から出て行くのです」
「何でサンディまで……、最近若い者たちを中心に出て行っているが、何か理由があるのか? サンディまでもが出て行くだなんて」
よりによってエイミー様の父親である領主様が悲しそうな顔をするから、何とも言えない複雑な気持ちになる。
そんな私の心の内を知るはずのない領主様は尋ねてきた。
「サンディがただただ出て行くとは思えない。どんな無礼も許すから、出て行く理由を正直に話してくれないか? 皆が出て行く理由と何か同じ理由が?」
――エイミー様に対する恨みつらみを今更言ったところで意味がないわ。
ただただ私の心の気持ちを伝えましょう。
「……一度でも良いから、私も誰かに見てもらいたいのです。私はここにいるんだと。そして、認めてもらいたいのです。だから私の居場所はここだと思えるような場所に行こうと思いました。ここにいては一生叶いそうにもないと思えたので。惨めな思いはもう十分ですから……。領主様、今まで本当に有難うございました。両親に会いにたまに帰ってきますが、両親のことを宜しくお願い致します」
そう言った私に領主様は困惑した表情になりながらも、元気に過ごすんだぞと言い、私の家に送るはずのカードを渡して、そのまま去って行った。
――いよいよ、私はこの領地から抜け出せるのね!
出て行くこと自体には何の悔いもないわ。
しばらく独りになって寂しくなるだろうけれど、きっとここより輝ける場所があるはず!
「よし!」
自分自身に喝を入れ、歩みを進めていった。
そして、王都の方角に進む辻馬車を見つけて乗り込もうとしたところで、自分を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
「サンディ! サンディ! 待ってくれ……!」
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