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その後


 卒業パーティーで行われた騒動から数日後。私は、王族の居住地区内にある薔薇庭園の東屋で婚約者のシルビアとお茶会をしていた。あの後の顛末をシルビアに伝えるために。


「シルビア」


 婚約者であるシルビアの名を呼ぶと、メイドが新しく淹れた紅茶の香りを楽しんでいた彼女は視線をカップから私に移す。陽光に当てられ銀の糸のように輝くシルビアのプラチナシルバーの髪は、今日はハーフアップで纏められ大人の女性が醸し出す妖しげな魅力で思わず引き込まれそうになる。会う度にシルビアは美しく、高位貴族の一員として恥じない品に溢れた淑女に成長した。


「殿下?」

「あぁ、ごめん。シルビアが美しくてつい魅入られていたよ」

「まぁ! 殿下ったら。照れますわ」

「事実だからね。君のような素敵な女性が私の人生の伴侶になるんだ。とても誇らしいよ」


 本題に入る前に軽い談笑をしつつ、シルビアの緊張を解す。今日の茶会で何を話すのか聡いシルビアは分かっているのだろう。いつもより顔が強張り、笑顔を見せる回数が少ない。シルビアが憂うことなど何一つないというのに。


「さて、この前学園の卒業パーティーで起こった後のことなんだが」


 シルビアの緊張が和らいだところを見計らって本題を切り出す。ぴくりと一瞬だけ体を揺らしたシルビアに大丈夫だと言うように、笑いかける。


「私が目を掛けていたあの令嬢は、シルビアの名誉に傷を付け冤罪をでっち上げた罪で家から絶縁され平民に戻った。ザッハトール侯爵家と我が王家からの正式な抗議もあって、令嬢は多額の慰謝料を支払うことにもなったから、平民に戻ったと言っても前のような暮らしは難しいだろう」

「そうですか……」

「宰相の次男は流石宰相の息子なだけあって、あんな騒動を起こす前はそれなりに優秀だったんだ。だから、二度と王都に入れないよう王都追放と生涯領地で宰相や兄君を補佐するように命じ、騒動時に君を侮辱したとして慰謝料を支払うことになった。慰謝料に関しては、すぐに支払われるだろう。……こちらとしてはもう少し厳しい処分を望んだんだが、まぁシルビアの前に二度と現れない約束も取り付けたから君は安心していい」


 彼らの処遇について事実を偽ることなく、感情を込めずに伝える。私にはもう関係ない相手であるが、それでも一時は同じ時間を共有していた者たちだ。ほんの少しだけ虚しさが去来する。

 すっかり冷めてしまった紅茶を飲んで、仕切り直すように喉を潤す。シルビアは先程から口を開けては閉める動作を繰り返している。きっと、相応しい言葉を探しているのだろうが思い当たらない、というところなんだろう。


「次に第三騎士団長の嫡男なんだが、家から追放せず領地で一から鍛え直されることになったため宰相の次男と同じ王都追放と暫く謹慎の命令が出された。慰謝料は全額既に支払い終わっている」


 第三騎士団長は嫡男の仕出かした事実を知るや否や、直ぐに謝罪と慰謝料の支払いに応じて嫡男を王都の屋敷から追い出し領地で謹慎させることを願い出た。そして、シルビアには伝えなかったが、公的な処遇だけではなく個人的に第三騎士団長は責任を取って職を辞し、家督を弟に譲ったと聞く。嫡男はどうやら知らなかったらしいが、第三騎士団長はザッハトール侯爵に恩があったらしく、今回の騒動は彼の心を酷く傷ませたようだ。

 ザッハトール侯爵は第三騎士団長が責任を取る必要はないと説得したが、どうやら効果はなかったようだ。これは推測でしかないが、恐らく第三騎士団長の嫡男に対する再教育は厳しいものとなるだろう。二人の関係性をご存知であった陛下が第三騎士団長が職を辞したと知ると、嫡男の今後を憐んでいたのだから。


「次に外務大臣の孫と商会の三男についてなんだが、本来は王都追放するだけの予定だったんだが家の意向で絶縁宣言もされて平民になった。二度とこちら側には戻って来られないだろう。他の者と同じく慰謝料の支払いも課せられたんだが、二人に支払い能力はなく一旦家が立て替えることになり、その借金を家へ返すために北方の強制労働施設にそのまま移送される」


 外務大臣の孫と商会の三男の処遇は公的な場での謝罪と慰謝料の支払い、王都追放であったのだが、彼らの両親はさらに二人を切り捨てることにしたらしい。宰相や第三騎士団長と比べ、外務大臣と商会の長の家格は低く、王家の反感を買った醜聞を一刻でも早く無くすために決断したのだろう。これ以上、家の被害を出さないために。



 顛末を語り終え、メイドに紅茶のお代わりを頼む。シルビアは、話を聞き終えてなお喋らない。ずっと何かを考えている様子を一瞥しながら、熱々の紅茶を口に含む。


 暫く静寂な時間だけが薔薇庭園に訪れた。


「殿下、お話しくださりありがとうございました。私から異論を唱えることはありませんので、そのようにおすすめください」


 シルビアが口を開いたのは、お茶会が終わる頃だった。しっかりと私に視線を合わせ、けれど、それ以上は何も言わず口を閉じた。彼女なりに彼らの処遇について思うことはあるのだろうが、シルビアは彼女の父と陛下が決めた内容に口出し出来ないことは理解している女性だ。


「シルビアには知る権利があるからね。この後シルビアは陛下に呼ばれているんだろう? 恐らくそこで各家からの正式な謝罪を受けることになるだろう。流石に彼らはここに来られないから、各家の当主からとなるがな」

「ええ、この後に何があるのか予想はしておりました。ただ、あの方たちは既に居ないとは思いませんでしたが……」

「では、陛下との約束に遅れるといけないからそろそろ行こうか」

「そうですね、殿下」


 シルビアの返事を聞き、立ち上がる。彼女も立ち上がったことを確認して、陛下との約束に向かうため彼女をエスコートしながら東屋を後にした。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

時間があるときにシルビア視点を書くかもしれません。


現在連載中の「僕の右肩-愛してる-」もよければご覧ください。


【追記】

ご指摘を受けた該当箇所の修正を致しました。

また、ウィルビセスの台詞(宰相の次男の処遇の部分)に誤解を招く書き方をし誤字脱字の報告を受けたため、その部分は台詞を変えることで対応しました。内容はそのままです。

報告していただき、ありがとうございました。


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