2人のパンイチ
エナの家から俺たちはギルドに向かって歩いていた。5メートルほど前にバッグを持ってご機嫌のエナが歩き、その後ろに俺たちパンイチ組が歩く。ちなみにバッグの中には鹿の頭と熊の頭が入っているらしい。
俺は隣に歩く、なんともかわいそうな剣士に話しかける。彼は刀を収容する服装ではないため、手で持っていた。
「なぁ2号」
「ヒロトだ」
「なぁ2号」
「お前今の単語聞いてたか? それとも忘れたのか? 耳が悪いのか、頭が悪いのかどっちだ?」
俺は2号である自称ヒラトの話を無視しつつ、質問する。ちなみにヒラトは誤字ではない。
「お前、本当にこのパーティに入って良かったのか? 強いんだろ?」
「……。俺だって入りたくはないさ。だが服まで取られ脅され屈したんだ俺は。負けてばかりでここから逃げれるか。どんなものにも屈しない。それが俺の武士道だ」
コイツは一応武士道みたいなものがあるのか。まぁ既にエナに屈してる時点で、武士道云々はどうなんでしょうか? だがそれでもカッコいいな。格好は悪いけど。
「そういう1号こそ、なんで入ったんだ? お前も殴られてたじゃないか」
「フウタだ。これには|脅し脅され(深いわけ)があんだよ」
そうすると2号は関心しつつ言ってくる。
「1号もアイツに対して勝ちたいんだな」
「フウタだ。お前も人のこと言えないじゃないか。泣きト君よ」
「あ? パンイチ歴を自慢してきた、きもタ君ほどじゃないさ」
「ふーん。このパーティの先輩にそんなこと言うんだ? あほト君」
「あー、やだやだ古参アピ。これだから、ばかタ君は困る」
「バカ……だと? お前俺がどれほどの偏差値を持ってると思っていやがる?」
「へんさちとはなんだ? 新しい単語を作んないでくれよ」
「よろしい戦争だ。そのあほっぷりここで治してやるよ」
「売れたら喧嘩を買うのが俺たちの流儀でな。こちらがそっちの、ばかっぷりを治してやるよ」
俺と2号は距離を取る。
風が吹き木葉が舞う。直感で分かった。その木葉が地についた時、まるでアニメのように戦いが始まると。
ヒラリヒラリとその葉が地についた刹那。
俺と2号はお互いで走り出し、間合いを詰めた。
流石に2号は刀を使わないのか、その場に置いた。
コイツは、剣士の命、刀の扱い方も雑なのね。
そして、その手と手が交差する時。
殴ッッ!!!! という音とともに後頭部に痛みが走った。
「「イッテェ!」」
そこには顔を真っ赤にしたエナが、拳をグーにして立っていた。
「ッ……。アンタたち! 何やってんのよ! バカなの? アホなの? 変態なの? 街の人たちがアンタらを笑いながら見てるのに気付かないわけ?!!」
そう言われて周りを見回すと、街にいる人という人が、俺たちを見て笑っている。こんな声が聞こえた。
「おい、変態がもう1人増えたぞ」
「パンイチが2人になるとは……」
「エナもエナでなんであんな変態ばっかり集めるのかしら」
「見ちゃダメよ。リク! あれはまだ子供には早い」
街中の人に言われると、さすがに心にくるな。
俺はエナを見る。彼女は頬は真っ赤、目は涙目、とても恥ずかしそうな顔で俺を見てくる。
可愛い。……ハッ。落ち着け俺。コイツの本性はダメだ。
そんな高揚する感情を抑えようと、隣のパンイチを見る。この変態は、耳まで真っ赤な顔を押さえうずくまり、恥ずかしがっていた。そう、恥に屈しているのである。
「お前の武士道、嘘ばっか!!!!!」
俺は叫んだ。
恥ずかしがっている2人と一緒に俺はギルドに着いた。
そこに入った瞬間、ギルドにいる人たち全員が俺たちを見た。
「「「へ、変態が増えた????!!!」」」
その言葉を聞き、うっと声を上げてまたもうずくまる2号。
ったくコイツはこれくらいで何やられてるんだ? 俺の時は俺1人だけだったんだぞ。
俺はうずくまる2号の手を引いて、受付へとエナと共に向かう。
「こんにちはエナさんパンイチさん。クエスト完了報告ですか?」
「おうおうねぇちゃん。流石に俺もキレるぞ」
ニコニコ笑う受付のお姉さんに、威圧をかけるために机に乗り出す俺を、後ろからエナが引っ張る。
「変態は事実なんだから下がってなさいよ! 恥ずかしい」
一にお姉さんはおれを変態とは呼んでない。二に事実なのか?
俺が疑問を思っていると、エナは頭の入ったカバンを机に置いて、今回の討伐よ! と言って受付のお姉さんと話し始める。
そんなエナをほっといて、俺は2号に話しかける。
「なぁ、お前いつまでうずくまってるんだよ。剣士だろ? こういうのカッコ悪くないか?」
「……そうは言ってもな、俺だってこういう攻撃は初めてで耐性ないんだよ」
普通はそうなのか? 男子校に通っていた俺としては、パンイチとか普通だったからな。
「なら早く慣れることだな」
俺がそう助言すると同時に、エナがこっちを向いて言ってくる。
「ねぇ、2号。パーティ登録するからこっちにきて欲しいんですけど」
するとギルド中の人たちが集まってきて、2号に語る。
「よぉ2号。エナには逆らうなよ」
「エナはとっても怖いからね」
「まぁ1号がいれば大丈夫だな」
誰が1号じゃ。しかしギルドの奴らも言うくらいには、エナは怖いのか。
無言で2号はエナの方へと向かう。
2号が登録に行ったことで1人になった俺は、近くにいたギルドの人たちにあることを尋ねる。
それは、ビッグベア戦での急に倒れたことだ。ある程度予想はできているが、それを確実にしたい。
俺はビッグベア戦の前に、二回眼を使ったことなども含めて語った。
「——ってことがあったんだけど、どう思う?」
しばらく沈黙があり、いかにも魔法使いのような女性が答える。
「……おそらく魔力切れね。眼の消費によって魔力が切れて、その反動で倒れたんじゃないかしら」
魔力切れ……。やっぱりな。自身の魔力とかが切れて倒れるってパターンは、アニメでよくある。だから予測はできていたが……。
「なぁ、魔力は無職の俺でも増やせるのか?」
ここが最大の疑問。これからどんどんクエストをやっていく中で、毎回気絶していてはやっていけない。
今度は先程よりも長い間があり、答えたのは男の魔法使いだった。
「…………さっぱり分からんな。何せ無職なんて初めて見たからな」
その言葉を聞くと周りにいた魔法使い以外の人たちも賛同する。
「やっぱ無職か」
「無職が原因か」
「いやまて、パンイチかもしれないぞ」
「変態のせいか」
「おいおいお前ら論点変わってないか?」
などと会話していると、ご機嫌なぺたんこと、パンイチの2号と受付のお姉さんがこっちにやってきた。
「ん? パーティ登録は終わったのか」
俺が聞くと、エナは頷く。2号は慣れてきたのか、うずくまってはいなかった。
俺がそれを確認すると、受付お姉さんが
「変態1号さん。先程の話が聞こえてきたので、無職の魔力について説明させていただきますね」
変態1号の件についてツッコミたかったが、気になっていたことを話してくれるみたいなので、俺は我慢する。
「この話をする前に、まず魔力についてですが——」
お姉さんが説明してくれた内容をまとめるとこうだ。
この世界の魔力とは、全人間が持っているが、職業・レベル・センスで許容量が決まるらしい。だから同じ職業同じレベルの人でも魔力の量は変わってくるようだ。
そう。職業が関係してくるのだ。例えば力重視の戦士と、魔法重視の魔法使いとでは後者の方が魔力の許容量が多いのだ。
つまり。特段何かに特化していない無職は、魔力の許容量が、めちゃくちゃ少ないのだ。
俺はその話を受けて、受付お姉さんに聞く。
「これは鍛えることはできますk」
「いえできません。一生その許容量です。もって5分と言ったところでしょう」
言い終わる前に結論を言われた。
俺の異世界戦闘は、5分が最大ということだ。
なんて眼だ!!!
だから俺は聞き返す。
「一生?」
「一生」
「マジで?」
「マジです」
その会話を聞いて今まで黙っていた、エナ、2号、ギルドにいる人たちが一斉に吹き出す。
「「「「ぷっはっ!! 」」」」
その笑いは俺に突き刺さった。




