下
「お前との婚約を破棄する!」
…
……
………。
「アリス、貴女に言ってるわよ」
「え、私?そもそも婚約してないと思います?」
「「「そうだったの!?」」」
「アリス嬢、ぜひ私と」「アリス嬢、強い男は好きですか」「美味しいお菓子」「アリス嬢」「この国にいられなくなっ」「アリス様」「お慕い申し上げておりますわ」
「アリス凄い人気だわね」
「レーヌ、どうしたらいい?」
「抜け出せそうにないわ。全く」
ばたーん!
「言質とったりーーー!!」
「お、お義父様?!」
「この時を待っていた。はい、殿下、こちらに署名を」
「こ、ここか?」
「はい、ここと……ここにも、はい、ありがとうございます。さぁ、アリス引っ越すぞ!!」
「あら、いいわね。私もご一緒したいわ」
「マリーレーヌ嬢ではないか。そうか、それはいい考えだ。アリスも友達と一緒のほうがいいだろう。はい殿下、追加です。こちらにも。あと拇印です。おっけー、アリス、マリーレーヌ嬢、行きますよ」
準備万端、護衛まで連れた養父により場を抜け出す。
金髪王子にサインさせた書類は、アリスのトレラント侯爵家とアリス親友マリーレーヌのアンダート公爵家の爵位返上、婚約破棄を理由とした金輪際関わり不可条約、隣国王家への紹介状、更には学園卒業資格まで。
流石に公爵巻き込みはまずいのでは?心配不要。
父同士も親友で、この国王ではこの国に先はないと見切った矢先に舞い込んだ面倒が起こらない誓約書類。アンダート公爵家は両手を挙げて喜んだ。
横槍が入る前に堂々出発。使用人も全員連れての二家の大移動は、なんと即日開始。荷物は最小限でいい。財力豊富現地調達。途中で孤児院の頃からお世話になっている大商家も合流。
根回しばっちりなお父様は凄いです。
たどり着いた隣国で国王が早速アリスと王子、マリーと公爵後継ぎ、リョウマにまで婚姻を強制してきたため、お父様達にお母様達まで大激怒、素通り決定。
更に隣の小さな国、ミニマムに根付くこととなる。
追記、金髪王子との婚約に関して。実は成立していたそうな。リョウマの出産届けにこっそり紛れ込まされたアンダート公爵家は激震、出国の準備を始めたのだ。知らぬはアリスばかりなり。
17歳。アリス、恋をした。
トレラント、アンダート両家は早々に伯爵となる。ゼロスタートにしては異例の速さだが、ミニマム国は両親達の手腕とアリスの行き過ぎゲーム愛により国力も国庫も急上昇。大商家も男爵になっていた。
さて、やっと来ましたよー恋愛パート。
現在地ミニマム国のダンジョン入り口。ゲーマーにダンジョンは駄目だ、アリスにダンジョンの存在を隠せ、と国を挙げての隠蔽は、ゲームブック新作プラスとうとう手を出した幼才ゲー教育絵本執筆のため引きこもりアリスに一年は通じた。
バレた即日ギルド登録。ちまちま依頼をこなし、やっとダンジョンに入る許可の出るDランクに。
「来てしまいましたわね」
「来なくても良かったんだよ?レーヌ」
「実力を試したくて」
「一緒に魔法訓練したもんね」
「「うふふふ」」
とても可憐なお嬢様二人組、後衛の魔法しか攻撃手段がないというバランスの
「よっしゃー、狩り尽くす」
「殲滅しつくしたら駄目よアリス、ダンジョン自体が消えるわ」
……バランスは関係なかったようだ。
「のぉ、失敗!」
「あらあら」
「むっ」
アリスの手加減なしの攻撃は半端なく、ボスを吹っ飛ばしたあとも勢いが削がれることがなかった。色々ヤバいところだったが、ちょうど部屋に入ってきたBランク剣士が剣一本で難なく止めた。
「……好きです!」
アリス一目惚れ。
寡黙で「しゃべらないだけ」少々無表情「眉間にスプーン挟めそう」艶ふわエンジェルパーマ「ただの手入れしてないくせ毛」チャーミングなぽってりした唇「少々大きすぎ」猫のような瞳に鋭利な視線「つり目なうえ視線だけで魔獣を倒せそうですわ」レーヌ黙ってて、長い手足に鍛えられた「身長と筋肉は合格」ですよねー。
前世今世通しての初恋に浮かれ、冒険と恋愛のゲームを作りまくって大ヒット連発。ヒット理由は、とにかくハッピーエンドで終わるから。
しかし、現実はそう上手くいかないもので。
「ねぇアリス、今日も行くの?」
「当然」
「アーリースーゥ、そんな見る目のない男……おと……こぉぉ!」
「あなた、落ち着いて下さいな。流石アリス、目の付け所が違ってとっても素敵。アリスの可愛さに落ちないのがまたいいわねぇ」
「おかーしゃま、ぼくもー」
「どれどれ、お、あれか。ちなみにレーヌはどれが好みだ?」
「お父様。そうですわねぇ、あの方かしら」
「レーヌは私と好みが似ていますわ、やはり親子ね」
「え?なぁ、ワシと正反対ではないか?」
「あら、あなたが一番よ」
「タキシードより詰め襟がよさそうだ。よし、早速生地から厳選して」
……一家どころかご近所総出の授業参観か……
雨の日も晴れの日も、毎日毎日懲りることも飽きることも諦めることもなく好きですと押しかけるアリスに、孤高な剣士は素知らぬ顔を続ける。この状況でシカトできる根性はすごいとしか言いようがない。
アリス18歳誕生日前日。
「これまで申し訳ありませんでした。大変ご迷惑をおかけして……もう来ませんね」
「……迷惑とは言ってない」
「え?」
「……明日は違うダンジョンに行かないか……」
アリスのー、押して駄目なら引いてみろー作戦ー、大・成・功!
翌日、ちょっと遠くのダンジョンに二人で出かけ、誕生日プレゼントとして……(自主規制)。
翌月、結婚式。
ミニマムな国の教会はやはりミニマムで、親族のみでも入りきらなかった。まぁご近所さん達も親族扱いですから。
普段は屋台が並ぶ広場に、商品ではなく長いテーブルと美味しそうな軽食がずらっと並ぶ。畏まらない服装の老若男女がこぞって参加。
澄み渡る青空の元、真っ白なシルクのパンツドレスをスラッと着こなすアリスの隣には、白地に銀の刺繍が生える詰め襟のロングコートをなびかせる精悍な顔つきの男性が堂々と立っている。
「アーリースーゥゥうぅぅぅ」
号泣する人続出だ。
新郎新婦はそのままダンジョン巡りの旅に出る。
白い衣装が赤く染まるまで。
「おぎゃーおぎゃー」
「おめでとう、レーヌ!」
「まさかアリスに取りあげてもらうことになるとは」
「嫌だった?」
「……嬉しいですわ」
「私もだよ、大好きレーヌ。あ、行かなきゃ。お義母様もそろそろ産まれそう。安静にしてね、レーヌ」
「アリスもあまり動きまわらないようにね。それにしても孫と子どもが同級生なんて、なかなか頑張るわねシャクリーンさん」
「まだ若いもん、36歳だし。ただこの子がどうなるかねぇ……」
「王子かしら、王女かしら」
「継承権を永久放棄します」
剣士、実はミニマム国第二王子でした。アリスがそれを知るのは結婚後。結婚式に王族勢揃いでやけに良い笑顔を振り撒いていた訳だ。
結局王族貴族からは逃げられなかったけど、乙女ゲームフラグなんてすっかり忘れ、ゲーム浸けな日々で(アリス曰く)素敵な旦那様と共に幸せに暮らしましたとさ。
end
お読みいただきありがとうございます!
本当に……ptまで……
ありがたやー……