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15 お局様、家庭教師を選考する。(3)

 セレーネは遠い目をしていた。


 ――このままでは誰一人、合格しないのでは?


 誰もが皆、自己紹介までたどりつかない。

「簡単に」という意味を、皆知っているのだろうか。


 セレーネは前世の経験のせいか、中身のないやりとりが嫌いである。

「仕事はポイントを押さえて、迅速に!」がモットーである。

 コミュニケーションの重要性はもちろん、わかっているが、それに必要なのは長々とした美辞麗句ではない。

 褒め言葉で相手をいい気分にさせるのに、言葉数は重要ではないのだ。


 ――褒め言葉は、相手が褒められたがっているところを、言葉少なに表現するのよ! それがポイントなのよ!


 とセレーネは胸の中で叫んだ。

 仮にこれがこの世界のスタンダードだとしても、選んでいるのは自分の家庭教師である。己のストレスになるような相手を選びたくない。


 ついでに言うと、自分に対する美辞麗句を聞かされ続けるのは、精神的にキツイ。

 過度なリップサービスは、人の精神をガリガリと削るのである。


 深いため息をつくと、新たな候補者に向けて言い飽きてきたフレーズを伝える。うつむき加減になっているセレーネの目は、既にうつろである。


「はじめまして、セレーネ・ヴィクトリアと申します。おなまえと、かんたんな自己紹介をお願いできますか?」


「……ヴィル・ヘルマン、三十一歳。貴族学園卒業後、……自営業をしている」


「――――は?」


 思わず顔を上げ、相手をガン見してしまった。


 ――え? え? どういうこと?


 思った以上に簡潔な自己紹介に、一瞬頭がついていかなかった。しかも、自営業?


「おい、なんだあいつ」

「えらい礼儀知らずだな。しかも、見ろ、あのみすぼらしい格好」


 まわりの候補者たちのさげすみの声が聞こえてくる。彼にはこれまでの候補者たちとは段違いの数の注目が集まっていた。

 そこにはセレーネの眼差しも含まれている。

 が、セレーネの視線はそのほかのものとは異なっていた。


 ヴィル・ヘルマンという人物は、確かにそのほかの候補者とは異なっていた。

 これまでの候補者は、だいたい十代代後半から二十代前半。細身で、いかにも品のいい、良家の子息、という感じだった。

 だが、このヴィル・ヘルマンは、とにかく体格がいい。

「細マッチョのイケメン」などではない。しっかりとした筋肉と、落ち着きのある佇まい。

 服装は、貴族の服装ではないが、仕立てはいい。どちらかというと、冒険者とか、傭兵とかが着ていそうな服だ。


 ――なんだ、このガタイのイイおっさん! めちゃくちゃカッコいい!


 セレーネの中で、何かがプチッと切れる。そして無意識のうちに立ち上がり、叫んだ。


「合格です!」


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