表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ

『水沢くん日記』


 五月六日。午後十二時十分。水沢くんに、彼女の嵯峨谷さんから、一通のメールが届いた。

「私、もう水沢くんと付き合ってく自信なくなった」

 水沢くんは、このメールを受信するなり、食べていたお弁当を放置して思い切り席から立ち上がり、隣のクラスに駆け込んだ。

 そして何事もないかのように、女子達数人と笑いながらお昼を食べる嵯峨谷さんの席まで行って、ちょっと来いよ、と言って、彼女の腕を引っ張った。

 すると、嵯峨谷さんと同席していた女子たちが、集団で水沢くんを睨みつけて、サイテー、マジあり得ない、などの罵声を浴びせた。

 嵯峨谷さんも苦笑いしながら言った。

「ちょっときもいんで、勘弁してくれません?」

 水沢くんはそれにショックを受けて、静かに自分のクラスの席に戻って、お弁当も食べずにそのままずっと携帯電話をいじっていたが、やがてパタンと閉じると、そのまま机の上に突っ伏して、五限になるまで動かなかった。


黒い表紙の日記のページをめくりながら、呆れかえりながら男は言った。

「食うところも無い位、小さそうな肝をした男だな。こんな男の何がいいんだ?」

 そう言いつつ、ページに目を落とす男の身長はとても高く、顔も整っていて、まるでモデルのようだった。しかし、その瞳孔は、横長に広がって、絶えずキョロキョロと左右に揺れており、彼が普通の人間ではない事を、表していた。

 彼の男の前には、黒いベットに腰掛け、黒い服と黒い髪をした少女が座っている。

「うふふ、可愛いでしょ。頑張って一瞬怒ったんだけど、他の女の子たちが怖くて逃げ帰って来ちゃったの。だから結局水沢くん、自分がふられた理由知らないままなのよ」

少女は、夢を見るかのように、うっとりと芝居がかった調子で喋り続ける。

「私ね、水沢くんが私の事を好きになってくれるなら、死んでも良いと思っているの」

 それを聞いた男は、ノートから少女に目を移して、冷静に尋ねる。

「本当にそれでいいのか?付き合いたいとかセックスしたいとか、そうゆう欲求はないのか」

 少女は、その言葉を聞いた途端、明らかに怪訝そうな顔をして、キッと男をにらみつけた。そして、強い口調で叱責する。

「やめてよ!私は彼の事を純粋に愛しているの!だから、そんな汚れた気持ちを彼に抱いたりなんてしないの!」

 それを聞いた男は、バカにしたような笑みを口元に浮かべながら言った。

「なるほど、プラトニックってやつだな。けれども、実際にそんなのを貫けた人間なんて世の中にほとんどいない。人間は欲望だらけの醜い生き物なんだ、お前も認めたほうが楽だぞ」

「そんなことない!」

 彼女は思い切り立ち上がって叫ぶ。

 立ち上がった瞬間、彼女の顔を覆っていた、分厚く長い前髪の隙間から、鋭く輝く目が見えた。

「私はそんな汚い人間とは違う!」

「ふーん、お前がそう言うなら、そうなんだろうな」

 それを聞いた男は、薄笑いを浮かべて答えた。まるで本気にしていない様子だった。そんな男の様子を見て、少女は言う。

「契約の内容は、さっきと言った通りよ。変更するつもりはもうないわ」

 そして男を挑発するように、口元に笑みを浮かべ返して言った。

「だから、さっさと実行してくれる?あんたも悪魔なんだったら、ヒヨってないで、早く仕事しなさいよ!」

「こりゃあ恐れ入った!お前は大した人間だよ!」

 男は爆笑した。少女は、その笑い声と共に、空気がざわざわと揺れるのを感じた。その瞬間、男の頭からは、ミチミチと音を立てて、湾曲した角が映えてくる。

「ひっ!」

 少女は思わず叫び声を上げ、後ずさる。

 そんな彼女の頭を、男は異常に大きい片手で、がっしりと掴んだ。その手は、まるで動物のように、ゴワゴワとした毛で覆われており、真っ黒で分厚い爪は、猛禽類のように尖っていた。物凄い握力で少女の頭蓋を締め、その横長の瞳孔を彼女の顔に近づけながら、男は言った。

「さあ、お望み通り、契約を開始してやろう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ