昼はドジっ娘!ガター店員、夜は3億2千万が動く闇の代打ち
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本作は、昼はドジなボウリング店員、夜は億単位の金が動く闇の代打ちとして生きる最強の女主人公の物語です。
『ザ・シェフ』や『ブラック・ジャック』のような、圧倒的な技術で悪を裁きつつ、人知れず誰かを救うダークヒーローの痛快ロマンをお楽しみください!
【第1章:日常(昼の顔)】
「いらっしゃいませー!……って、また君たちか。学校は今日休み?」
「玉城ちゃんの顔見ないとさ、一日のモチベ上がんねーんだよな〜」
「このマセガキちゃんがっ♪」
「はいはい、2番レーンね! ちゃんと靴は履き替えてね?」
ボウリング場『Strike Palace』のフロントカウンターで、玉城 響は柔らかい笑顔を浮かべた。
朝9時からのシフトに入っている彼女は、白のシャツにネイビーのタイトスカートという制服が、抜群のスタイルを美しく際立たせていた。
「玉城ちゃーん投げて見せてよ!」
午後2時を回った2番レーンから、中学生たちの声が飛んでくる。
「仕方ないなぁ……ちょっとだけだよ」
響は小さく肩をすくめ、中学生たちに囲まれながらアプローチに立った。
流れるような美しい助走。
力みのない完璧なスイング。
ボールは鋭い回転をかけながらレーンを疾走し——
ガコッ。
見事なフォームから放たれたボールは孤を描くこともなく、右側の溝に吸い込まれるように落ちた。
中学生たちから大きな笑い声が上がった。
「うわっ、ガター!」
「玉城ちゃん、フォームめっちゃ綺麗なのに!」
「すげー、擦りもしねぇ!」
響は両手で顔を覆い、耳まで真っ赤になってしゃがみ込んだ。
「も、もう! 見ないでよ……今日はたまたま調子悪いんだから!」
「ほらほら、笑いすぎ! もう仕事に戻らないと、怒られちゃうよ!」
彼女は慌てて立ち上がり、スカートを直しながら、呆れたように微笑んだ 。
【第2章:三億二千万の依頼】
——夕方6時半。
店内の客が減り始めた頃、響はバックヤードの休憩室に入り、ドアを閉めた。
遠くでピンが倒れる騒がしい音が、うっすらと響いている。
カチリ、と内鍵を閉めた。
その小さな金属音とともに、いつもの柔らかい表情が瞬時に消え去る。
鏡の前に立ち、冷徹な無表情で自分を見つめ直したその時、ポケットのスマホが怪しく震えた。
ディスプレイには名前の表示されないブランク。
いつもの仲介者からだった。
「話は?」
『響、今回はかなりキナ臭い。三億二千万が動く、一夜限りの大口取引だ』
受話器の向こうから聞こえるのは、ボイスチェンジャーで歪められた機械的な低音。
しかし、その奥に潜む男の興奮までは隠せていなかった。
『「ミッドナイト・リング」主催。勝てばお前の取り分は三千万……だが、相手の九鬼 烈が、直前になって悍ましい追加条件をねじ込んできた』
響は無表情のまま、鏡の中の自分の瞳をわずかに細めた。
「追加条件?」
『……負けた場合、お前自身も商品の一部として差し出せ、だとよ。金だけじゃない。お前のその抜群の身体も、プロとしての技術も、すべて九鬼の所有物になるということだ。……どうする? 降りるなら今だぞ、天才ボウラー。奴の執着は異常だ』
仲介者の言葉には、響を心配する素振りを見せつつも、彼女がどう動くかを試すような、底意地の悪い観察眼が混じっていた。
響は数秒、沈黙した。
「……了解。元プロの九鬼が、そこまで私に執着しているわけね。表の舞台から私を引きずり落とした奴らと、同じような匂いがするわ」
声は淡々としており、動揺の欠片も感じられない。その冷徹さに、受話器の向こうの男が小さく息を呑む気配がした。
『……相変わらず肝が据わっているな。九鬼はお前の実力と、そのプライドをへし折る快感を欲しがっている。勝負の場は市内にある『キングピン・アリーナ』。閉店後の23時30分から、完全貸し切りだ。観客は主催の幹部数名のみ。文字通りの密室劇だ』
「わかった。シフトが終わって準備が調い次第、移動する」
事務的で、冷え切った返事。自分の身体が欲望の対象にされても、彼女の声音は微塵も揺らぐことはなかった。
『前金の一千万は、すでにスイスの秘匿口座に振り込んでおく。もし失敗したら——お前は二度と日の当たる場所へは……』
「失敗は想定していない」
静かに通話を切った響は、暗転したスマホの画面に映る自分を冷たく見つめた。
【第3章:準備】
響は深く息を吐き、表情を整えて休憩室のドアを開けた。
フロント方面へ戻ろうとしたその時、ちょうど近くを歩いていた中学生の一人が彼女を見つけて明るい声を上げた。
「玉城ちゃーん! まだいたの? 投げてくれよー!」
響は一瞬で表情を切り替えた。代打ちの顔から、いつもの少しおっちょこちょいなスタッフの顔へ。
「もう! あんたたち本当にしつこいんだから……。今日はもう私のシフト終わる時間なの、わかってるでしょ? 暗くなる前に家に帰らないと、お母さんに怒られるでしょ?」
響は笑顔で少年の頭を軽く押しながら、フロントの方へ促した。少年たちは不満を言いながらも笑い声を上げて出口に向かっていく。
18時ちょうど。少年たちを笑顔で追い出した後、響はタイムカードを押すと、エプロンをつけてプロショップへ向かった。
ガラス張りの売り場に高級ボールや用品が綺麗に並べられている作業スペースに、響は自分の6つのボールを取り出し、作業台にずらりと並べた。
「…………」
無言のまま、彼女は作業を開始した。コンパウンドを手に取り、1球目から丁寧に表面を磨いていく。ボールが徐々に美しい光沢を取り戻す。
2球目はパッドで表面を適度に曇らせ、摩擦係数を調整。3球目は指穴をじっくりと確認しながら、親指のホール内に貼ってあるテープを丁寧に剥がした。
正確な位置に貼り直していく。
指の動きは正確で、無駄が一切ない。
朝から夕方までおっちょこちょいなスタッフとして振る舞っていた響とは、明らかに違う集中力とプロフェッショナルさだった。
その時、プロショップの入り口から帰り際の中学生が顔を覗かせた。
「玉城ちゃーん、何やってるの?」
響は手を止め、いつもの柔らかい笑顔を浮かべた。
「あら、まだ帰ってなかったの? これはボールのお手入れ。ボールってね、材質や中玉によって全然動きが違うのよ。たとえば今磨いているこの子はね、『ウレタン』っていう一昔前の材質でできているの」
響はボールの表面を愛おしそうに撫でながら続けた。
「今の主流のボールに比べると摩擦が弱くて、レーンの奥での反応もすごく鈍いんだけど……。逆に言えば、お利口さんで暴れないってこと」
「こういう一見、地味で曲がらないボールがバチッと合う特殊なレーンもあるんだから! ボウリングはボール選びと調整の組み合わせが無限大ってこと。それをレーンのコンディションに合わせて調整できるとすごく有利になる、そういうゲームなのだよ!! えっへん♪」
最後に小さく胸を張って得意げにしてみせると、中学生たちは顔を見合わせて笑った。
「へー、すごいね……って、でも結局玉城ちゃん、ガターじゃん! そんなに調整しても関係ないよね!」
「うるさーーーい!! ガターは……今日はただ調子が悪かっただけで、本気出してないだけなんだから! もう帰りなさい! このバカガキども!」
響はエプロンの端を握りしめながら少年たちを追いかけるふりをし、彼らが大笑いしながら店を出て行った後、再び無表情に戻って作業台のボールに視線を落とした。
【第4章:レストラン「Lumen Pins」】
午後7時を少し回った頃、響はようやく作業を終えた。
6つのボールを丁寧にケースに収めると、プロショップの奥にあるスタッフ通路を通って、併設されたレストラン「Lumen Pins」へ向かった。
店内は柔らかな間接照明と木目調のインテリアでまとめられ、落ち着いた雰囲気が漂っている。
響はカウンター席に座ると、いつもの笑顔で店員さんに声をかけた。
「こんばんはー。海老とブロッコリーのクリームパスタと、アイスティーお願いします」
夕食時とあって、店内では常連客が数組、ビールや食事を賑やかに楽しんでいた。すると、すぐ近くのテーブル席から親しげな声が飛んできた。
「おー、玉城ちゃん! 今日もシフト終わったのか?」
声の主は、常連のサラリーマン二人組と、近所のおばさんグループだった。響は振り返り、パッと華やかな笑顔を浮かべる。
「はい、ようやく終わりました。今日はなんだか足が棒みたいです……」
「中学生にガター見せたんだって? さっき4番レーンのお客さんが話してて、俺らも笑ってたんだよ」
「あー! もう言わないでください! 今日は本当に、たまたま調子が悪かっただけなんですから!」
響がわざとらしく頬を膨らませてみせると、テーブルからドッと笑いが起きた。おばさんの一人がにこにこしながら目を細める。
「でも玉城ちゃん、スタイルが良いのにそういう可愛い反応するから、みんな見に来ちゃうのよ。今日も若い子たちに囲まれて大変だったでしょ?」
「もう、からかわないでください。私だって本気出せば、ちゃんとストライク取れるんですからね?」
「ははっ、じゃあ今度、俺と真剣勝負しちゃう?」
「えー、高橋さんには絶対勝てませんよ。お手柔らかにお願いしますね?」
響は照れ笑いしながら手を振り返した。
おばさんの一人が心配そうに声を掛けてきた。
「玉城ちゃん、なんか今日疲れてる?顔色が少し悪いわよ」
響は即座に笑顔を深めた。
「え?そうですか?おなかがペコペコなだけですよ~」
運ばれてきたクリームパスタを前に「いただきます」と小さく手を合わせる。
フォークにパスタを巻きつけようとしたその時、すぐ隣の席から、地を這うような重いため息が漏れてきた。
カウンターの隅で突っ伏して頭を抱えているのは、サラリーマンの佐藤さんだった。
周りの常連たちの賑やかな笑い声に加わることもなく、手元の冷めきったビールグラスをじっと見つめたまま、すっかりお通夜のような顔をしている。
「はぁ……顔色が悪いのは俺の方だよ。玉城ちゃん、ちょっと聞いてくれよ。俺が勤めてる町工場のメインの取引先が、急に不渡りを出して倒産しちまってな」
「連鎖倒産を避けるために、社長が今、都内の大手投資ファンドに必死に緊急の融資をお願いしに行ってるんだ。でも、そこはかなり強引な買収で有名なファンドでさ……。もし融資を断られたら、うちの工場は今月で終わりだよ」
「あら……それは大変ですね……」
響は同情するように眉を下げた。
「社長が最後の望みを賭けて、そのファンドの最高幹部と今夜直談判するらしいんだ。俺たち従業員は、もう祈るくらいしかできなくてさ」
「きっと大丈夫ですよ。佐藤さんの工場、技術が凄いですから。神様がちゃんと見てますって」
「ハハ、玉城ちゃんにそう言われると、本当に大丈夫な気がしてきたよ。ありがとな」
響は柔らかく頭を下げながら、内心で冷静に時計を確認した。
(あと4時間半……)
彼女はパスタを一口食べ、静かに目を伏せた。
前編をお読みいただきありがとうございました!
漆黒の戦闘服に身を包んだ響の、3億2千万を賭けた闇の勝負が始まります。
敵の元プロ・九鬼が仕掛ける卑劣な罠を、響はどう切り抜けるのか!?
決着を描く【後編】は、明日の夜[18:00】に更新予定です!
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