32. 魔鏡
3年半ぶりの更新です……。
「〝シャール―カ・ミーラ・シュピルゲム!〟」
呪文が唱えられると、シャルカの足元から〝何か〟が浮き上がってきた。
邪悪なオーラを放つ無機質な〝それ〟は、シャルカの繰り出していた結界をすり抜け、俺たちの前に姿を現した。
どうやら、セイクリッド・シルディアは外側からの攻撃は防ぎつつ、内部からの攻撃は通すらしい。
「これって……鏡?」
ミノリがそう呟いた。
ミノリの言う通り、それは円形の手鏡だった。
だが、ただの手鏡というには、それは異様すぎた。
まず、セレナが出した白竜と同じくらい、サイズが馬鹿デカい。
それに加えて、全体からドス黒く、凶悪な魔力が噴き出してやがる。
その姿は、まさに〝魔鏡〟と呼ぶにふさわしかった。
「気を付けろ、セレナ! あの鏡はタダモノじゃねーぞ!」
「わかってます、ルナさん! でも、私の最強の魔法だって、タダモノじゃあないんですよ!」
セレナはそう言うと、自らが召喚した白竜に命じた。
「さぁ、光の神龍セレナード! まずはあの鏡から破壊してください!」
「ラァアアアアアアアアア!」
セレナの出した光の神龍は、雄叫びを上げながら、鏡に向かって突撃した。
俺たちは、そのままセレナードが不気味な鏡を打ち砕くのを想像していた。
だが……!
ニュルン。
とても鏡と龍が激突したとは思えない柔らかな音を立てて、セレナードの姿が消えた。
その巨体を丸ごと、鏡の中に飲み込まれたのだ。
「な…………!?」
セレナは動揺を隠しきれていなかった。
俺だって信じられない。
あの強力な力を持った白竜が、こんなにあっさりと消滅するなんて!
これがあの不気味な鏡の魔法の効果なのか!?
「ルナ先輩、あれを見てください!」
来果が鏡の中を指差した。
何年も放置した井戸の水の様に、緑色に濁った鏡面がうねり、やがてそこから、一体の竜が現れた。
「ラァアアアアアアアアア!」
「そ、そんな!」
セレナが絶望の声をあげた。
鏡から出現したのは、セレナの出した光の神龍だった。
いや、〝光の〟という言葉はもはや間違いかもしれない。
なぜなら、元々は白かったセレナードの身体は、どす黒く染まっており、その神々しかったオーラも、一転して邪悪で禍々しいものに変化していたからだ。
「セレナード! どうしたんですか! 早くあの鏡と結界を打ち破ってください!」
セレナがそう命じたが、セレナードはその邪悪に染まりきった目で自らの術者を睨みつけた。
そして、口を開くと、そこから光線のような巨大な息吹をセレナめがけて浴びせかける!
「危ない!」
間一髪、澪がセレナを突き飛ばすのが間に合った。
元々セレナが立っていた地面はえぐれて、クレーターができていた。
「み、澪さん、ありがとうございます……」
礼を言いながら、セレナは茫然とセレナードを見上げた。
「ど、どうしたの!? なんであの龍はセレナっちに攻撃を!?」
ミノリが混乱したように言った。
「おそらく、あの鏡の力だ! あの鏡の力で、セレナの白竜は操られているんだ!」
俺は自分の考えを叫んだ!
「セレナ、早く魔法を解除して、あの龍を消せ! 早くしないと、俺たち全員、セレナードに食い殺されるぞ!」
「そ、それが、ルナさん! ダメなんです! ステッキから手が離れなくて! ステッキに魔力を吸収されているみたいで……私の意思では解除できません!」
「なんだと!?」
まさか、セレナは白竜を存続させるための魔力の養分になっているとでも言うのか!?
これがシャルカが出したあの鏡の力!
敵の出した召喚獣を操り、その術者を拘束する力!
マズい! セレナードを召喚している間、セレナは他の魔法を使うことができない!
ならば、俺の魔法で一度セレナードを倒し、あとで魔力を貯めてからゆっくりと結界の方の処理を……!
「っ! ルナ、あれを見て!」
澪が結界の向うを指差した。
そこにはシャルカが額に汗を浮かべ、膝を地面につけていた。
ステッキを老人の杖の様に地面につき、全体重を預けている。
まるで、ステッキから全ての力を吸い取られているようで……!
「ひょっとすると、シャルカさんも、私と同じなのかもしれません!」
セレナが言った。
「あの子も私と同じように、魔力をあの鏡に吸い取られて……。きっとシャルカさん自体、あの魔法の制御ができていないんです!」
大変申し訳ございません……。
鵺明けのゲーム化や最新作執筆、ルナの漫画や私生活の事情等でなかなかこちらの方に時間が割けないことをお許しください。
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