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有能な侍女は努力を怠らない

ぎゃあっ!

ま…間違った方が先に上がってる!Σ(×_×;)!


ご、ごめんなさい!今日中に直します!


あぁ…まだ慣れないのか…自分(>_<")

 自分より三つ年下だという主と初めて顔を会わせたのは、七つの冬のことだった―――


 ☆☆☆☆☆


 この年は折からの悪天候で農作物は不作。

畜産への餌にも事欠く状態に、領主ひ払う税も滞る家が多数だった。


 私の家はただでさえ子沢山の貧乏農家だったので、支払いだけでなく日々の生活もままならず、子供のうち誰かを口減らしするしかない、と両親が話していることに私は怯えていた。


 と言うのも、口減らしされるのは働き手の男子であるはずがなく、家の仕事ができるようになった歳上の姉でもなく、幼い妹達でもないとなれば丁度よく外に出されるのは自分だとしか思えなかったからだ。


 秋の収穫が終わり、例年の三分の1もなかった事態に案の定私は奉公に出されることになった。

 せめて、まともな所に出されますように…と言う私の切実な願いも空しく、領主の抱えている妾の所で小間使いとして仕えることになった。


 領主の妾ならば悪い生活にはならないだろう、と両親なりに考えてくれたのだろうが、妾の立場でたまった鬱憤を晴らすためだけの小間使いなど、体のいい苛めても文句の言えない生きた玩具みたいなものだった。

 食べ物や着るものはまともに与えられず、妾の気分次第で小物を投げつけられたり、お茶をかけられることなど日常茶飯事だった。


 私はまだ七歳。

こんな日々はいつまでも続くのだろうか…何十年も?と思うと、今すぐ死んだ方が楽なような気すらしていた。


 ある時、台所仕事を任されている自分より年嵩の女中から、領地の外れに住む老女の家へ届け物を頼まれた。

なんでも、その老女は昔領主様に仕えていた女中頭で、領主にとっては母のように慕っていた人なのだそうだ。

 そこに月に二回食料や細々した日用品を届けるのは、妾に唯一任された仕事らしい。


 その日は、日用品を届ける日だった。

食品の日は荷馬車に乗せていくので、届ける人間も乗せてもらえるが、日用品は小物ばかりで見た目にも少ないことを理由に、意地の悪い妾は使用人が荷馬車すら使うことを許さなかった。

そのため届ける人間は荷物を持って、老女の家まで歩いていかなければならなかったのだ。


 だから、その日も本来なら台所仕事をしている女中が任されたが、行きたくないから自分に押し付けたのであろうことは容易に想像できた。


 確かに荷物は重いし面倒ではあったが、妾に苛められるよりは…と半分喜んで私は老女の家へと向かった。


 私が石鹸や布地などが詰まった大きな籠を持って、ヨタヨタと老女の家にたどり着くと老女は、こんな子どもに持たせて…といたく可哀想に感じたらしく、甘いお菓子とお茶をご馳走してくれた。


(そうか…世の中にはこんなに美味しいお菓子があるんだ)


食べて驚いた顔していたらしい私に老女は、たくさん御上がり、とお皿にたくさん乗せてくれた。


 私は、お腹一杯になるまで食べてやる!とがっついて食べたものの、普段から粗食だった上にこの数ヵ月はさらに食事を少なくされていた私の小さな体は、少ししか受け付けることができずすぐにお腹一杯になってしまった。


 よほど私が悲しそうな顔をしていたのか、老女は微笑んでお皿の上のお菓子を全部包むと、後でゆっくり御上がりなさい、と持たせてくれた。


 叩かれずにすんで美味しいお菓子みたくさんもらえた…なんて今日はいい日だろう、と思いながら老女に丁寧にお礼を言って、本当は帰りたくもない邸に戻るために暇を告げる。

今度来たときには、違うお菓子をあげましょうね、と老女に優しく言われたので私は大きく頷いて、次もまた来ます!と言った。


 邸に戻る途中、近道になると女中に聞かされていた森を通り抜けようと、半ばまで来たところで座りこんでしまった。

ここしばらく無かった満腹感に私の体が悲鳴をあげたのだ。

どうやら、お腹は一杯過ぎても苦しくて動きにくいものらしい。


 近道をするのだから少し休んでも大丈夫だろう、と座っていると後ろから声をかけられた。


「何でぇ、こんな所に座りこんで、お嬢ちゃん、どうしてぇ?…疲れたのか?」


 声をかけてきたのは、少しばかり身なりを良く整えた、田舎訛りの若い男だった。


「…口利けねぇのか?おい…まぁ、これでも飲みな。疲れが取れる。甘くて美味いぞ」


 そう言って男は、水筒から果物を搾ったらしい黄色い飲み物をカップに注ぐと、それを差し出してきた。


「ほら、子どもは遠慮すんな。飲んでみぃな」


 無理矢理押し付けられたカップからは、甘酸っぱい匂いがした。

私が恐る恐る口にすると、ひんやりとした果汁が喉を通り抜け、爽やかな味と香りが口に広がった。

私の顔を覗き込んだ男はさらに勧めてきた。


「な?うめぇだろ?この甘ぇのとすっぺぇのが疲れを取ってくれんだよ。ほら、もう一口飲め」


さらに促されると、一度口にしてしまったからか私の警戒心はスルスルすると薄くなり、カップの中身を飲み干してしまった。


「…ありがとう…」


 私が小さい声でお礼を言ってカップを返すと、男は嬉しそうに目を輝かせた。


「おっ!なんだ、おめぇしゃべれんじゃねぇか!…そっかそっか、良かった良かった…こりゃめっけもんだぁなぁ…」


 水筒を片付けていた男が、そう言いながら持っていた大きめの鞄の中から黒い布地やら箱やら出し始めた。


「おぅっ!ちぃっと荷物を整理するからよ、悪ぃが横使わせてもらぅな?」


 男が袋の中身をガサガサさせているのを見ていたら、次第に体が重くなってきたように感じた。

やはり疲れていてのかな…とぼんやりしていると

男の声が上から聞こえてきた。


「おぅ…効いてきたみてぇだなぁ…こいつぁ高く売れそうな嬢ちゃんだぁ。今日の俺ぁ、運がいいぜぇ」


(売る?…しまった…さっきの飲み物に何か入れられてたんだ…逃げなきゃ…)


 頭ではそう思うものの、体が動かない。

体の重さはどんどん増してきて、男が私の体を軽々と持ち上げたのが分かった。

足に布地が触れた感触がした。

さっき鞄から出していた布地か…と今さら気づいても遅い。

気持ちばかりが焦って、不安と恐怖が膨れ上がってくる。


 私の頭までが、布地に覆われようとしたその時だった。


「そこの男!何をしてる!」


大きく張りのある厳しい声が響き渡った。


「な、何もしてねぇ、こりゃあ、家出したうちの子だぁ!具合が悪ぃって寝ちまったんで、こうして担いで帰ぇるだけでさぁ!」


「ほぉ?具合が悪い、とな?ならば、私の薬を分けてやろう。どれ、見せてみなさい」


「いっ!いやいや、旦那様にそんな面倒ぁかけられねぇです。連れて帰りゃあ、すぐ治りますんで、大丈夫でさぁ…」


「まぁ、そう言うな…気にしなくていい。うちにも小さな子どもがいるからな、心配する親の気持ちは良くわかる。…ランドル、手を貸して差し上げなさい」


「はい、閣下」


 布地の中で声だけしか聞こえず声も出せない中でも私は、助けて!と心で叫び続けていた。


「あ!てめぇ、何しやがんでぃ!」


「具合をみてやると言うておるだけよ、安心せい、必要なら私が助けてやるぞ」


 私の助けを求めた声が届いたわけではないだろうが、体が下からフワッと持ち上げられ顔から布地が取り除かれた。


「閣下、女児にございます!……甘い香りもいたします!」


「そうか、ランドルそのままその子を離すなよ。そこの男、お前この付近で頻発している人さらいの一味だろう?…どうする?おとなしく捕まるか?それともここで命を落とすか?…選ばせてやろう」


 ちっ…と舌打ちが聞こえると、バタバタとした足音に続いてキィンッ、という金属音が何度か響き、うわぁぁぁっ、と言う男の叫び声に続いてザシュッと言う音とともに辺りは静かになった。


「ランドル、どうだ?その子は」


「大丈夫だと思います。薬を飲まされたか何かしたのでしょう…可哀想に…」


私がほんの微かに首を縦に動かすと


「お、首が縦に…頷いたぞ!意識が少しはあるみたいだな。娘、家は近いのか?帰る所は?」


(家…近くない…それに、もう帰れない…)


そう家族を思い出すと悲しくなって、微かに横に振る。


「帰る所はないのかもしれませんね…どうしましょう閣下…」


「このままにはしておけまい。家に連れ帰る。体が戻ってから詳しい話は聞けばよかろう」


「あの男の始末はどうなさいますか?あのままでは…」


「よい、捨て置け。そもそもここはうちの領地ではないからな。あの馬鹿男爵なら、感謝よりも余計な干渉だと言いかねん。うちの領地に害がなければそれでいい。それよりもその子を早く医者に見せてやろう。今ならカルロがいるかもしれん。アイツに魔術でみてもらうこともできるかもしれないからな。急ぐぞ!」


「はい」


 私は再び体を抱き抱えられた感触を最後に、意識が完全になくなった。



 次に目が覚めた時に私が居たのは柔らかな寝台の上で、横には銀髪の小さな女の子が眠っていた。


「えっ…ここは…」


 










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