表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/52

時は有限。気持ちは無限。

ヤンデレ全開!

(まずいわ、どうしましょう…)


 今さらながら、マリエルは大慌てに慌てていた。

 決められない…確信が持てない…。

このままでは、なし崩しに結婚してしまう…。


(5ヶ月なんて、あっという間じゃない!)


 時間はある、と思った途端、飛ぶように時が過ぎていく不思議。

 気づけば残り半月ほどになっていた。


 正直にいえば、トールはとてもいい人で優しい。

いろいろと企画外なことは相変わらずだけれど、問題はほぼなくなった。

 それは、彼の半年近くにわたる努力の賜物だった。


 トール・ヨルゲンは見事に生まれ変わった。


 元々、恵まれた体型だったものを自ら見えなくしていただけだったので、姿勢が直っただけで見違えるように整った。


 身だしなみも、姿勢に伴って変わった体型に合わせて、着心地の良さと浮かび上がる線の美しさを重視して作り替えた。


 新しい服を揃えるのに付き合ったことも、お互いを知るいい機会になった。

 トールの好きな色や形、模様の好みなどが分かると、彼の性格がより伝わってきた。


 さらに元々仕事のできる知性派の彼は、自分に自信がついてさえしまえば言葉が詰まることもなくなった。

 ほんの少し女性への言い回しを気をつけただけで、理想の男性へと変貌した。


 今では夜会に行けば誰もが振り返る、立派な紳士になってしまった。


 誰もが、これだけ婚約破棄しないあれだけの紳士なのだから、マリエル嬢も今度ばかりは決めたのだろう、と噂した。

 当のマリエルだけが、決めらずにいたのだが…。


 そう、トールは条件が整い過ぎていた。

頭は良く、見た目も良くなり、父兄の望む働き者、しかも領地が隣同士。

おかしなことだが、今度はどこにも問題が()()()()()


 父や兄ですら、最近ではこのままいくと思っているようだった。

 母だけが『大丈夫?焦らなくてもいいのよ?』と珍しく声をかけてきた。

母の慧眼(けいがん)恐るべし!



 ☆☆☆☆☆



 心が定まらず、不安な気持ちを抱えたまま、マリエルは魔道省の下に立っていた。

 いつもの施術を受けにキーランのもとを訪れたのだ。


 実はこの半年、長いこと十日に一回だった施術が、一週間に一回になっていた。


 トールとの将来に向けて、素顔を晒す勇気がなかなか持てず、事ある毎にキーランのもとに逃げ込みたくなるものの、そんなことではいけない、と気を引き締めていた。


 トールと話をするたびに、自分はもっと勇気を出すべきだ、とも思わされる。

 そうして悩んでいたマリエルとしては、内心では十日に一回のままでいたかった。


 しかしある日、キーランから『このところ傷がひどいようですけど何かありましたか?』と言われた。

 施術を解除した素顔を見ると、確かに肉芽が増え、赤みも増していた。

 ショックを受けたマリエルは、これは大変、と諦めて足繁く通っていたのだ。


「はい、終わりましたよ。お疲れ様でした」


 いつもの施術が一通り終わり、スッキリすると、珍しくキーランが時間はあるか、と訪ねてきた。


「今日はもう忙しくないので、せっかくですからマリエルが持ってきたお菓子と一緒に、お茶はいかがですか?」


「そうね…たまには、一緒にお茶をいただこうかしら」


 このところは毎週顔を会わせることもあり、施術が終わり次第、慌ただしく帰っていた。


「本当に、マリエルとお茶をいただくのは久しぶりですね…やはり、忙しいですか?」


「あら、それはキーランの方では?お兄様がキーランが忙しすぎて会えない!と文句を言ってらしたわよ?わたくしが毎週会うせいで貴方の時間を奪ってる!とまで、言われましたもの」


「マリウス…はぁ…。あいつは…自分が忙しいことは棚に上げてしまうんですよ。たまたまお互いの空いた時間が合わなかっただけで、マリエルのせいではありませんよ?」


 いつものことながら、キーランは穏やかに笑いかける。

 外ではお嬢様然としたマリエルも、キーランのことだけは名前で呼ぶ。

それだけ長い付き合いであり、側にいることは安心でもあった。


「お兄様はね、相変わらず今の部署がお嫌いなの。だから、何とか逃げ出す理由を貴方からもらおうとしたのよ」


「…分かりました。何か考えておきましょう」


「うふふっ、ごめんなさいね。兄妹してご面倒をかけて」


「大事な友人のためですからね、頑張りますよ。……ところでマリエル、もうすぐ期限ですが、いつ破棄するんですか?」


「あっ…そう、なのよね…実はそのことで少し悩んでしまって…」


「…お相手が納得してくれなさそうなんですか?」


「いいえ、何故?…多分、大丈夫だと思うわ。今の彼ならお別れしても引く手あまただと思いますもの」


「でも、マリエルを想っていれば手離さないのではないですか?」


「まぁ!キーラン、貴方意外にロマンチストなのね!ふふふ…驚きましたわ。…嫌われてはいないと思いますけど…トール様がわたくしを想ってくださっているかも、分かりませんの。…悩んでいるのは、わたくし自身のことですわ。どうしたいかが、分からなくなってきてしまいましたの」


「マリエル自身の気持ち?」


 マリエルがこくん、と頷いた。


「わたくし、婚約は今回で最後とお兄様に言われて、トール様とは最初から添い遂げるつもりでお付き合いしていましたの」


「っ!…最初から?」


「ええ。でも、今となるとその覚悟は、本当に正しく思えていたものか怪しい限りですけれど…ただ今は、これで決めていいのか、とも悩んでしまって…」


「そんなの、いつものように終わらせればいいだけじゃないですか。マリウスは怒りませんよ。もし、問題があるなら、私も力になります」


「キーラン、ありがとう。…でも、わたくしトール様が嫌なわけではありませんの。むしろ好ましく思っています。だからこそ、トール様にとっても良い選択をしたいのですわ。それに…わたくし…いえ、まぁ、そんな感じに残りの期限まで少し考えようと思っていますの」


「そ、そう…。マリエルが悩むなんて初めてだったから驚きましたよ」


「本当言うと、わたくしも驚いていますわ。わたくしは今までお相手を傷つけたくない、とは考えておりましたけど、わたくしの選択でお相手がどうなるか、なんてことまで考えたことがありませんでしたもの」


「…トール殿を大事に思っているんですね…」


「大事?…そう?…そうね、そうかもしれませんわ。…ねぇキーラン、知ってまして?社交会では『ついに公爵令嬢陥落!』とか言われているらしいですわよ?」


「きっと婚約破棄の兆候が見られないからでしょうね。確かに、君らしくないな…と思ってはいましたよ?今までなら、少しずつ関係を遠ざけ始めている頃をとっくに過ぎていますよね?」


「ええ…今回はしてないわ。ヨルゲン子爵家は、お隣の領地をお持ちでしょう?これからも良好な関係は続けなければならないから、慎重になりなさい、とお父様達から言われてもいるの。今までの人とは、そこも違うのかもしれないわ」


「あの領地…」


キーランが苦々しげに呟く。


「あぁ、あの領地はキーランも狙っていたのよね?…どう?領地の件を話しておいたのだけど…あの後、お兄様からいい所を紹介していただいた?」


「あ?あぁ、ええ…いいんですよ。あれは、ものの試しに領地を持ってみようかと思っただけですから。結局、仕事が忙しくて経営などできなかった、と思い知らされましたしね」


「そうよねぇ…忙しいものね…。カルロ叔父様が、早くキーランに第一魔道士まで上ってきてもらって、ひいては自分の後を継いで欲しいって、この間お父様にこぼしてらっしゃったわよ?」


「…全く、あの方は…そこまでの力はないですよ。まだまだ無理ですね」


「異例の出世をしている人に、言われたくないでしょうね…」


 クスクスと笑うマリエルを眺めながら、キーランは思い付いたように話した。


「でも、やっと分かりましたよ…その悩みのあれこれが素顔の方に表れていたんでしょうね…。マリエル、確かに君には覚悟が必要のようだ。もし、本当に普通の夫婦を目指すというなら、君はトール殿にあの素顔を出せるか、考えなければいけませんよ?」


「え?…ええ…」


「夫婦になる以上、必要なことでしょう?もしくは、最後まで隠し通すことができるか…週に一度、魔道省に抜け出す妻を彼に納得してもらえるようにできますか?…君にそれができますか?」


 マリエルはより悩み深く落ちた気がした。


(キーランの言う通りだわ)


 トールに決める確信が持てない…なんて思うのは当然だ。

 結局、本当のところでは、自分が傷つきたくなくて、自分の覚悟が決まっていないだけ、と気づかされる。


 ()()()()を、私は見せられるのかしら…。


 ☆☆☆☆☆


「トール様との結婚を真剣に考えます」


 マリエルがそう家族の前で言ったのは、キーランと話をした5日後のことだった。


 あの後、マリエルは本気で考えた。頭が痛くなるほど考えた。

 その結果がこれだった。


 話した夕食の席での、一家大混乱を制するように、冷静な声でマリエルは言った。


「でも、まだ何もしないでいただきたいの…三日後にトール様とお会いするので、そこで今後を話して見るつもりですの。お互い条件だけなら、いい結婚だと分かっていますわ。わたくしみたいな者と結婚されることの問題を、トール様には分かっていただかなければならないでしょう?だから本当にわたくしでいいのか、最後に考えていただきたいの」


「マリエル、お前には何の問題もない、といつも言っているだろう!」

「そうよ、あなたに何の問題があると言うの」

「お前はまだ、そんなことを言ってるのか?」


 家族が一斉にマリエルを擁護する。


(私、ちゃんと愛されてるなぁ)


 この話になると、いつも一斉にマリエルを守ろうとする家族に、胸一杯の気持ちになる。

 でも、この愛情に甘えたままでいては駄目なんだ、とキーランの言葉で気づかされた。


 素顔を見せられるか、見せられないか、ではなく、トールを信頼して話すか、話さないか、が先だとマリエルは思ったのだ。


 まず、伝える。

その上で、見てもらえるか決めようと思った。

 ある意味、相手に委ねてしまったズルい手かもしれないのだが、今のマリエルには伝えることが精一杯の段階とも言えた。


「ですから…結論をあと数日待ってもらってもよろしいかしら…?あ、分かってますのよ?これが最後っていうことは…でも、やっぱりお相手のあることだから、わたくしの都合だけでは決めたくないの。お父様、わたくしのわがままを聞いてくださる?」


「…分かった。かまわん」


「ありがとうございます!」


 これも家族への甘えかしら?と思わないでもないが、ともかく決戦は、三日後に決まった―――。



前話の後半と次話の前部を足したので、ちょっと長めでした。


キーラン、だんだん自分の首絞めてる気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ