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"強化蘇生"  作者: ハヤサマ
強化蘇生【リバイバル】
27/30

閑話 酩酊空間のポートレート

異常地の怖さを伝えようと作ってみましたが、如何せん難しい。あ、どうもハヤサマです。


 絶海に、黒点がぽつり。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 「ーーッおい!こっちに来てみろ!」


 「なんだァ?お宝でもあったってのか?......こ、れはッ」


 小舟上の二人の男が、何やら慌ただしい様子で話している舞台は、人間界の末端の末端に位置する大海原。言うなれば、「最も【異常地(イレギュラー)】に近い場所」である。


 未だに騒いでいる二人だが、その喧騒を引き起こした原因である彼の物体を前に、それを見つけた男も、遅れてやってきた男も、目だけは離せないでいる。


 二人の乗っている木造のヨットに漂着してきたのは、やたらと厳重な梱包の為された一荷の酒樽。


 一体何の目的で、誰がこんなモノを置いていったのだろうか。


 イタズラ目的、あるいは罠の可能性も多分に孕んでいたが、「人の立ち入らない海に、たまたま自分たちに向かって流れてきた、いかにも“中に何か大事な物が入っていそう”な梱包がされた漂流物」という、出来過ぎた据え膳のような状況に、脳裏をチラつく不安を、それを大きく上回る期待感が押し潰した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いくぞっ!せぇーのぉっ!! グッ......か、堅ェ......」


 不規則に揺れる波の音をBGMに、木片を酒樽の蓋の隙間にねじ込み、樽に足を乗っけて、“てこ”の原理でこじ開けようとするが、それはギシギシと軋むだけで一向にその中身を見せようとしない。


 二人の乗っているボロのヨットがその勢いでグラグラと揺れて男が蹌踉けるが、それでも微動だにしないまま鎮座し続ける酒樽を見て、何とも言えない倦怠感、脱力感が意識の中に舞い込んでくる。

 

「......ったく、ウゼぇな。この錠前は何なんだよ」


「コイツのせいで全く埒が明かねェや、折角、一攫千金目指して、遥々こんなクソ危ねぇ場所まで来たってのによォ」


 男達は散々、目の前の酒樽に愚痴垂れた後、お互いに似たような項垂れ方で、船の(へり)に凭れる。


 ーーそう、先ほど片方の男が言ったように、二人は「未知のお宝」を求めて、この辺鄙まで来ているのだ。


 『死界』。あるいは『地獄門』などといった物騒な言葉で、世界はこの海を言い表すが、強ち間違いではない。


 何せ、この海を伝って“向こう”の世界に行った者は、()()()()()()()を除いては誰も、その帰還を果たしたことがないのだから。


 『実は、向こう側の世界での暮らしが幸福すぎて、誰も戻りたがらないんじゃないか』なんて根も葉もない噂が飛び交い、甘い香りに釣られた数多の人間がそれを求めて【異常地(イレギュラー)】に侵入するが、誰も、帰ってこないのだ。

 

 ーーなどと説明を入れている内に、男の内の一人が、手に持った木槌を酒樽の胴腹に振り下ろし、その暴行に対し徐々にではあるが、木造の樽の、合わせ板の継ぎ目の部分がひび割れていき、いよいよ以て破壊され、その中身を露呈させようとする。


 男達は今までその中身を頑なに守っていた、忌々しい樽の破壊が成し遂げられたことに、欲望のそれを多分に含んだ歓喜の表情を浮かべつつ、無残に粉砕された酒樽の中身を競うように漁り出し数拍後、木槌を振るわなかった方の男が何かを見つけ、両手に持って上方に掲げた。


 太陽の光に透かされて男の手のひらの血管と一緒に仄かな橙色に染まったのは、一冊の古ぼけた手帳だった。


 ーー後に世界を震撼させる手帳が、悠久の時を経て、再び世界に解き放たれた瞬間であった。



███████████████████████


 不思議な感慨を抱きながら、この文章を書いている。


 その前に自己紹介をしなくてはいけない。私はアドルフ=シェイズ。世間では超越者などと言われているものだ。大層な呼び名であるが、魔王討伐を成し遂げたものは等しくそう呼ばれるらしい。


 私がよく聞かれることとして、「なんで魔王討伐を行おうとしたのか」であるが、正確な答えは出さないでいた。ので、この手記が最期になるかもしれないから、今、記しておこうと思う。


 私はもともと、人間界の、とある辺境の一般家庭に産まれたしがない一般人だった。


 幼い頃から父と母は本当によくしてくれた。


 兄も出来た人間で、私にはもったいないほど恵まれた暮らしの中で育ったと思う。


 幼少の記憶は朧気(おぼろげ)だが、両親の話によるとどうやら、なかなかの問題児だったらしい。


 そんなときだった。


 わたしが八つになった誕生日の夜。


 魔族の進軍が、平和な日々を一夜にして陵辱していった。


 故郷は丸ごと焼き払われ、家族は酷たらしく殺され、私自身も背中に大きな火傷と裂傷を負った。


 運良く生き延びたのは私だけで、郷土の人間は家族も含めて全滅だった。


 それからは、ただひたすら、「魔族を根絶やしにする」ことに執心し、屈辱と憎悪の中で、筆舌に尽くしがたい努力を敢行した。


 高慢かも知れないが、人類の中で最高峰の努力を行った人間だという自負があった。


 生死を彷徨うような経験なんて掃いて捨てるほどしたし、世界の高レベル迷宮だってほとんど踏破してきたのだ。


 そして、迷宮を巡って修練を積む内にいつしか出来た、仲間と呼べるような存在と共に魔界へと踏入り、私の歳が三十を回る頃にはついに、魔王討伐を成し遂げた。


 達成感は無かった。


 時というのは何もかもを忘れさせるもので、私は戦い続ける内にいつの間にか、燃えさかっていた憎悪も、燻っていた屈辱も、とうに覚えていなかった。


 何故戦い続けたのかと聞かれても、もはや私には、誰かを納得させられるだけの回答を持ち合わせていなかった。


 言うなれば、惰性だ。


 惰性で、魔王を殺した。


 それしかできることが無かったし、それしかすることが無かった。


 魔王討伐を成せば、何かが変わる。幸福になれる。そう信じ込んで世間の期待を受けながら、魔物の殺戮に勤しむこと以外に、私には他の選択が残されていなかった。


 しかし、魔王が死んだ後、わたしの心にあったのは、人生の目標を見失った虚無感だけだった。


 それからはずっと茫然自失としたまま、十余年生きてきた。


 レベルは100に到達し、ステータスも人類史上最高の、オール999だった。


 だが、生来戦闘しかしてこなかった私は、魔王討伐の後何をしたかと言うと、過剰とも言える多額の報奨金は全て仲間に渡し、魔王城で魔物狩りを行ったのだ。


 別に残存勢力を摘むためだとか、そんな正義の信念ではない。ただ単に、そこにいる魔物が一番経験値能率が良かっただけなのだ。


 ーー私は、まだ強くなりたかったのだ。


 レベルが限界に到達していても。老いのせいで、日に日にステータスが下がっていこうとも。




 そんな私だったが、あるとき、いつものように魔物の狩りに向かう途中だった。


 突然、ふと、思いついた。脳内に電撃が走ったみたいだった。それが昨日だ。


 「そうだ、【異常地(イレギュラー)】に行ってしまおう。」


 あそこなら、何か変わると思ったのだ。あると思ったのだ。退屈な日々を打ち壊す、「変化」が。


 思いついてからは、早い。生まれ持った行動力の所為か、もう行動に移してある。長年駆使ってきた妙剣も磨いたし、翌日にでも出発できそうだ。


 拙い文章だが、これからは私が見たモノ、聞いたモノの一部始終を書いていこうと思う。


 “地獄門”などと呼ばれているらしいが、どんなとこなのだろう。




 眠れない。この気持ちはなんだろう。楽しみか、不安か。





 震えが止まらない。まるで身体がそこに行くことを嫌がって居るみたいだ。睡眠薬で無理やり寝ることにしようと思う。どうか彷徨える私に神のご加護を。



 





 すっかり寝てしまっていたようだ。無理に寝入ったせいか、身体はいつもより少し重く感じる。幸い時間はある。妻のプリネに挨拶をしてから外へ出よう。(彼女は魔王討伐の仲間の一人で、現職僧侶だ。)


 「行ってくる」とは言ったが、旅の目的は秘密にしている。恐らく引き留められるからだ。妻よ許してくれ。







 港に着いた。漁師に船を出してくれるよう頼んだが、反応は良くない。曰く、「彼処に行きたいだなんて、爺さん、嫌なことがあったなら忘れちまいな。人生生きててなんぼだろう。」と。


 別に自殺願望があるわけではないのに。自分が魔王殺しの勇者だと言っていれば、また反応も違ったのだろうか。いや、やめておこう。こんな年老いた状態ではとてもではないが狂人扱いされるだろう。






 結局自分の船で出ることにした。幸い時化はない。風も気持ちいい。順風満帆とはこんな感じであろうか。

 





 目的地に着いた。旅程は順調すぎて怖いくらいだった。海の魔物どころか、生物一匹にも遭いはしなかった。これは、自分の経験からすると明らかに異常だ。

やはり何かある。そう思い、再度気を引き締めながら【死界】に上陸することにした。



 




 




 かなり歩いた。時間にして30分ほど。老いを隠し得ないとはいえ、私の歩くスピードは常人を遥かに凌駕する。その速度で、休まず30分。地図ではこんなに大きな島だっただろうか。この半分もない気がするのだが。辺りは密林が鬱蒼と茂るだけ。不思議と暑さは感じない。喉も渇かない。



 


 何かを見つけた。これは何だろう。人の死体に見える。しかも、見覚えがある。共に魔王討伐を成したときのメンバーの、戦士に酷く顔が似ている。


 とりあえず進むことにした。


 何だろう。


 あれは何だろう。








 何だろう。










 初めて生き物を見つけた。驚くべきことに、長く旅をしてきた私でも初見の昆虫だった。多足類とでも言うべきか、足がうじゃうじゃ生えている。が、二本が一つの対になっているというよりは、その全てが独立しているようで、不思議な歩き方をしていた。十中八九魔物の類いであろうが、温厚な気性なのか、攻撃してくる事はなかった。



 


 虫の足にある棘が、戦士の身体を無数に貫いていた穴の直径とおなじぐらい いや、よそう。


 




 わわたしはなにももみていななかった。





 神よ。










 水場を見つけた。余り喉が渇いていなかったが、とりあえず飲んでみることにした。毒性のものである可能性も大いにあったが、何故だろう。飲まずにはいられなかった。


 





 おいしい。何で出来ているんだろうか。飲めば飲むほど力が湧いてくる。不思議だ。頭もふわふわしてくる。持ち帰ってみんなに飲ませてあげよう。これはみんなで、のむべきだ、いやだ。俺のだ、おまえらかってにのむんじゃ、ない。のむな。とるな、やめてくれ、かえしてくれ、おれのみずだ。はやくかえせおれのみ









 みず








 かえしてくれ。






......ここから先の文章はぐちゃぐちゃになっていて読めそうにない。














 妻のプリネが私を起こしてくれた。妻には全てお見通しらしい。私の言動を不審に思った妻は私を尾行し、自前の船で【異常地(イレギュラー)】に向かったのに気付くと慌てて追いかけたらしい。「生きるのも死ぬのも、私たちはどこまででも一緒ですよ」だそうだ。「なんだそれは」と返すと真っ赤になって怒った。「昔約束したじゃないですか!」らしい。昔魔王の部屋に入る決戦前に、そんなことを言ったのかもしれない。多分。


 




 宥めるのに十分かかった。聞くと、私はついさっきまで、酷い自傷行為を続けていたようだ。理由は妻も分からないらしい。傷は全て治してくれた。腐っても「稀代の名僧侶」の二つ名は伊達ではないらしい。



 池にあれだけあった水が全部空っぽになっていた。

周りに他の生き物が居ないのを見ると、私が全部飲み干したのだろう。俄には信じがたいが。中毒にでもなったというのか。強い依存性があるようなので、もう飲まないようにしよう。




 



 プリネが来てくれたのは大きい。私は回復魔法はろくに使えもしないので、頼れる仲間というわけだ。帰ったら久しぶりに愛の言葉でも伝えてみようか。らしくもないが。








 昆虫同士が争っている現場に遭遇した。恐ろしい。カブトムシ型の昆虫が、数十匹のアリ型の昆虫に群がられている。ソレらの動きが尋常ではないのだ。私でも目で追えないときがあるほどに。


 妻は何が何だか分からないといった様子だ。何せ彼女にとっては、密林の木々が独りでに削れ、折れ、倒れていくようにしか見えないからだろう。勇者の私でもやっとだと言うのに彼女に見える訳もない。恐らくあの飛び交っている虫たちの一匹を相手にしても、勝てるかどうか五分五分といったところだ。恐ろしい。こんな世界があったとは。


 もしかすると先ほど出会った虫もこれほどの戦力を有していたのかもしれない。いや、恐らくあれはもっと上。私なんて造作もなく一瞬で殺されてしまうだろう。ただ、相手にされていなかっただけなのだ。人間が頭上の蠅に躍起にならないように、私はアレにとって、ただの「無害な動物」だったのだろう。まるで計り知れない。









 どうにか昆虫の戦闘の場から抜け出した。流れ玉から私のことを庇ったプリネも元気だ。元気なんだ。傷一つない。 可哀想に。







 


 一際大きな昆虫を見つけた。何だあれは。色々な昆虫をごちゃ混ぜにしたような、子供が考えそうな見た目だ。強さは無論、推し量ることすら適いそうにない。


 






 












 めがあったしゅんかん、うらがえされた。なすすべがなかった。あしのひふがうちがわになって、ほねときんにくがそとがわになっている。とてもきもちわるい。いたい。からだのなかからなにかきょうだいなちからがはたらいて、むりやりめくられた。どうかこのしゅきが、にんげんかいにとどきますように。あそこにいってはいけない。あれは、かかわってはいけないそんざいだ。かみすらしがにもかけない、そんなそんざい。しあわせになれるなんてうそだ。ぜったいに、ちかよるんじゃない。


 さいごにせめてものていこうで、でかいこんちゅうのめにわたしのつるぎをつきさしてやった。むこうからはこっちがしんだようにみえただろうから、うまくふいをつけた。くるしがっているなきごえがつうかいだ。ざまあみろ。


 ああ、ペンをにぎっていないほうのてもうらがえされた。こんなところ、くるんじゃなかった。


 もうす██▅▄▊█▁たかっ█▌▋▄▄▌▉  プリ▄▁▄█▉▋▋▌わたしは█▁▉▉▄▁▉▌▊▕▊



 

    

 

 

     ーーー以上、“超越者”アドルフ=シェイズの手記より、全文。



████████████████████████

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