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"強化蘇生"  作者: ハヤサマ
強化蘇生【リバイバル】
28/30

26 . 臨界律動のジークフリート


 ――目覚めると、()()()()()()()場所にいた。


 不思議な場所だった。神話(ミソロジー)級34種、伝説(レジェンダリー)級672種、最高(ハイエンド)級135種類を見てきたタツトですら全く覚えのない物質で構築された、祠のような建物の内部らしかった。


 何かを奉る祭壇へと続く道の上に寝転がっていたようで、両側には壁画のような彫刻がなされた壁が広がっている。


 「............え」


 タツトは半放心的な面持ちで、反射的に構えてしまう。クロも面食らった表情で、警戒を露わにしている。それほど衝撃的な出来事だった。約一年間、花畑と岩場の光景しか目にしていなかった二人にとって、『起きたら知らない場所にいる』は、あまりにも唐突で、あまりにも不可解だった。


 「なんだ? ここは」


 「っ我にも分からぬ。 やはり自殺したのが関係しているようじゃが......」


 二人は驚きのせいで未だに出しにくい声を荒げながら、周囲を睥睨する。その眼光に宿っていたのは、不安や恐怖の色というよりも、敵意、或いは警戒と表現した方が的確だ。タツトは【空虚と否定の短剣(イミディナイダガー)】を逆手に構え、アイテムポーチを光らせて、空いている手に新たな道具を取り出す。


 ――伝説(レジェンダリー)級:【不文戒律(アンリトゥン)】。 頭上に放り投げるだけで独りでに空中で静止し、四方に不可視の結界を展開する、サイコロ型の魔道具である。作り出される結界は、メナシの攻撃ですら一撃までなら耐えうる破格の性能を誇り、何度か助けられた経験がある。


 タツトはそれを四、五個いっぺんに投げると同時に、【空虚と否定の短剣(イミディナイダガー)】を身体ごと、何度も回転させながら宙を辻斬りにし、リング状の剣閃を幾重にも作り出す。


 ――刹那の間に行われたこれらの一連の動作は、タツトが咄嗟のときのために編み出した防衛技である。


 【不文戒律(アンリトゥン)】から不可視の防壁が降り注ぎ、クロとタツトを包み込んでいく。


 タツトはいつでも斬撃を飛ばせるように身構えつつ、索敵を開始する。クロも【福音と肯定の短剣(ゴスパンズダガー)】をタツトに手渡しながら、彼がアイテムポーチから出した【帝王の錫杖(カリギュラ)】を受け取り、天焔魔法と天夜魔法の同時詠唱を開始する。


 ――神話(ミソロジー)級武具:【帝王の錫杖(カリギュラ)】。


 紫、紺、黒色のみで形成され、細長い胴部の先端に禍々しい帝王の眼を象った究極の杖。装備状態で発動した魔法に圧倒的な上方修正を与えるだけでなく、詠唱時間の最短化、MP効率の最適化を行う。


 さらに、太古に存在した闇の帝王が得意としていたと云われる天焔魔法、天夜魔法とは非常に相性が良く、今のところクロのメイン武器となっている。


 クロが完成させた魔法は、神話級天焔魔法“竜灯”と、神話級天夜魔法“闇鬼”。どちらも王宮直轄魔導師達が裸足で逃げ出す最上位魔法である。


 光と勘違いするほど青白く燦めく炎と、万物を呑み込むような混沌とした暗闇が、クロを中心として左右対象に浮かび上がる。それぞれが気色の異なる波動を所構わずぶち撒け合い、丁度その二つの波動がぶつかる、クロの縦直線上には暴風が巻き起こっていた。


 水に濡れたような、艶やかな黒髪が為すがままにぱたぱた吹き上がる。


 不思議ながらも神秘的な祠の中で、片方はひどく鋭敏に揺らめく剣閃を身体に纏い、もう片方は両サイドに幻想的な球体を浮かべた、()()()()。傍目には一枚の傑作絵画のように映る光景だが、その殺傷能力は絶大だ。


 タツトとクロの持ちうる力を最大限に活用した、最終布陣。攻撃と防御をこれ以上ないほどに備え、これといった死角すら持たない。


 ―――まあ、何度となく破られてきた訳なのだが。


 脳裏に焼き付くほど、【花畑】と【岩場】の情景のみを見てきた二人にとっては余りにも性急な事態に、辺りへの警戒、緊張、そして戦意は、最高潮まで登り詰めていた。


 “その存在”に気付くのは、

 


 「「―――ッ何か、来るッ―――!」」



 ――同時。



『―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』



 気付くと、その声は真後ろから。


「っっなッ!?」


 ――なんだと、タツトがそう言い終わる前に、更なる衝撃が訪れる。


「―――“千鬼夜行”」


 タツトが驚き戦いているほんの刹那、クロは先に判断を下したのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()だ、と。


 ―――“千鬼夜行”。


 神話級高位魔法の“竜灯”、“闇鬼”を重ね合わせ、文字通り塵一つ残さない漆黒の劫火を作り出す、クロのオリジナル魔法だ。


 恐らくこの魔法にランクを付けるとしたら、下位のものにはなるが、夢幻(ファントム)級。

 

 神話級魔法の異種系統同時行使でさえ、人類がどう頑張ろうと、千年修行しようと到底不可能な行為なのに、更にそれらを掛け合わせ、紡ぎ、新たな一つの魔法にする。


 そんな神業を可能にさせたのがこの、クロが装備している【帝王の錫杖(カリギュラ)】だ。


 詠唱時間“短縮”ではなく、“最短化”。MP“効率化”ではなく“最適化”。この言葉の意味の違いは、扱う魔法が高尚になればなるほど違ってくる。


 ましてや神話級魔法の行使となれば、普通なら十数分は掛かる詠唱時間をほとんど0にし、一発ですっからかんになるはずのMPを更に十余発の詠唱を可能にするこの武具は、クロに持たせることで最大限の効果を発揮できるのだ。

 

 ただ、夢幻級魔法なんてものは、もはや魔法の域に収まらず、ただの超常現象と化している。そのため消費魔力も他の魔法とは一線を画し、【帝王の錫杖(カリギュラ)】装備のクロでも二発が限度。そんな大技を初撃に選ぶとは、平常時なら浅慮、或いは早計といった言葉が脳裏に浮かぶが、クロのその行動は、言外にそれほど状況が差し迫っていることを顕していた。


 みるみる内に膨れ上がった、紅蓮と漆黒の斑状の魔力の塊が、“その存在”へと恐るべきスピードで肉迫する。


 タツトもそれに呼応するかのように魔力を身体能力に換え、増幅させ、“千鬼夜行”の余波が収まり次第、追撃を放てるように構える。更に、万が一の反撃にも対策済みだ。何せ、ただでさえ不可視のバリア―――【不文戒律(アンリトゥン)】が発動されているのだ。それも複数。メナシの馬鹿力でさえ食い止める防壁が、そう簡単に破られるはずがない。



 そしてついにクロの、お伽話にも出てこないような“現象魔法”が“その存在”と邂逅する。


 邂逅、する。


 邂逅、


 「――――――え?」


 ――しない。 ぴたりとまる。 寸前で。


 声が出せない。まさか、そんなわけがない。だって―――


 ―――“ソイツ”は魔力を、一度も発していないじゃないか。 



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 一呼吸おいて、クロの放った“千鬼夜行”が、シャボン玉が割れるかのように、音もなく崩れ去った。


 神の御業と云うほか無かった。魔力の核を見もせずに一撃で、それも二つの神話級魔法が絡んだ魔法なんて、不規則に、そして縦横無尽に内部を動き回るために認識しようもないのに、貫いた。


 (―――これは、多分ムリだろ......)


 無意識に、目の前の存在に屈服してしまっている自分がいた。生物としての格が違った。初見のゲズィヒトよりも大きな、()()


 『()()()()()()()()|。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――』


 続けて。


 『――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――()()()()()()()()()()()()



 “その存在”は心底失望したような顔で、一息で二人にそう言い切った。


 タツトもクロも、目の前の存在が言っている言葉を呑み込めない。何度か噛み砕き、反芻してみるも、理解し得ない。一体何が足りないというのか。力か?いやそれはないだろう。だってここまでくるのにどれだけ頑張ったと思ってるんだ。じゃあ、何だ?()()()()()()()()まったく度し難い。


 “存在”は、当惑したような二人の顔をのぞき込み、関心は失せたとばかりに面倒くさそうにしながら、どこか言い聞かせるように言った。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()|、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「―――ちょ、ちょっと待ってくれ。情報が多すぎて頭が着いていかない。少し整理させてくれないか?」


 眼前の存在から発される、謎めいた圧力にタツトは苦しそうにしながらも、そんな疑問を絞り出した。抵抗はしない。恐らく、いや絶対に勝てないから。


 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「っあぁ、助かる。――まず、お前は何なんだ?どういう存在で、何でここにいるんだ? あとこの場所についても教えてくれ」


 ―――“どういう存在”、そうタツトが問いかけた理由は、これまで“その存在”をそのまま、“その存在”と形容していたこととも繋がる。


 答えは至極単純、ソレを形容できる言葉、若しくは明確に表現しうる言葉を持っていないからだ。


 見えているのに、見えていない感じがする。近くにいるのに、ここではないずっと遠くにいる気がする。ヒト型である気もするし、案外動物のような、四足歩行かもしれない。


 もしかしたら決まった形を持たない生物なのかもしれない。 だがもしそうであるなら、常に“変化”しているはずだ。


 透明になったり、顕れたり、ヒト型になったり、獣になったり、と姿形を変えたりしているはずで、つまりその瞬間瞬間を切り取ってみれば、一つの形に特定できる筈なのだ。


 ―――だが、目の前の“存在”は、今この瞬間も、人であり、獣であり、可視であり、不可視であり、そこにいて、そこにいないのだ。 決して相容れない、同時には存在できないはずの別次元の概念が重複し、共存しているのだ。


 まったく、理解しがたい。“生き物は決まった形を持つ”とか、“ここはここで、そこはそこ”とか、そういう至極当たり前の概念がすっぽりと抜け落ち、どこにも本質がないような、得体の知れない感覚。


 “その存在”は「それも当然か」とでもいいたげな所作を行い、(正確には分からないが、そんな感じがした。)


 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 「....うむ、その通りじゃ......」


 苦しそうな顔をしながら、クロが答える。この圧迫感は、クロにとっても堪えるものがあるのだろう。



 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「っま、待ってくれ、そこが理解できないんだ、――その言い方だとまるで【異常地(イレギュラー)】のゲズィヒトやメナシが、ここに来るための試練として存在しているように聞こえるんだが......」


 「......我も理解に苦しむな。マゴス様すら敵わなかった化け物を、尖兵のように扱える生物など、想像もつかぬ」


 『――()()()()()()()()()()()()


 「......っ」


 「できる......かもしれない......」


 その言葉、存在、威圧感には、信じてしまうだけの説得力がある。俄には信じがたいことだが。


 『()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 (ーーー「一任」?いま一任と言わなかったか?)



 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() () ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「え、いや待ってくれ、まだまだ他にも知りたいことが『()()()()()


 “その存在”はタツトの更なる質問を、有無を言わせない態度で遮った。


 「......タツトよ、ここは退くのじゃ」

 

 「......すまない。尚早だった」


 「―――のう、“存在”さんよ。 すまんかったのじゃ。我らの知ることなら何でも訊いておくれ」


 クロの言葉に“存在”は、ひどく嬉しげな態度をつくり、こう問いかけた。


 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()――――――()()()()()()()() ()()()()()()()()()辿()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()() ()()()()()()()()()――――()()()()()



 





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