ノエル――決闘
貴族学院は、革命闘士たちのクーデターが行われてからは閉鎖されていた。
ところが、クーデターが失敗に終わったため、元通り、貴族の子弟が通うよう再開した。
革命闘士はのちの歴史から逆賊の汚名を着せられることになったが、クーデターが成功していれば、救国の英雄となっただろう。
ノエルもルドミラも出席していた。
学院では黒い化け物の話で、持ちきりだった。
なんでもあのセリオンさんが化け物を倒したらしいぜ。
すげー。やっぱあの人はクールだぜ。
私セリオン様にアプローチしようかしら!
などなど。
「ヤッホー、ノエル!」
ノエルの机のそばにルドミラがやってきた。
「おはよう、ルドミラちゃん」
「セリオン様の話題で持ちきりね」
「そうだね」
ノエルはうなずいた。
「あーあ、セリオン様が外国人じゃなかったら、私もセリオン様にアプローチしているところよ。ほんと、外国人ってことが玉に傷なのよねー」
「セリオンさんはそう言うふうには思ってないよ。それにツヴェーデンに恋人がいるらしいしね」
「そうなの?」
「うん。このあいだ、恋人から手紙が届いたみたいだよ」
「そーなんだー。やっぱり、あんなにかっこいい人に恋人がいないわけないものね。残念ね、ノエル?」
「? 何?」
「ノエルだってセリオン様のこと好きなんでしょ?」
「!?」
ノエルは狼狽した。
「え……?」
「あら、違うの?」
「確かにセリオンさんのことは私は好きだよ。でも恋愛感情じゃない。うーんと、お兄さんってところかな」
「へー……ほんとに?」
「ほんとだよ、ルドミラちゃん」
「そうなの……まあ、別にいいけどね。それじゃあ、ノエル、私も席に戻るからね」
「うん」
セリオンは教会で祈りをささげていた。
ノエルもまたひざまずいて祈っていた。
「ノエルもシベリウス教徒らしくなったな」
「セリオンさん……」
セリオンが隣からノエルに話しかけた。
「失礼しますよ?」
「ん?」
そこに取り巻きを連れた貴族の男、トビアス・ガルドーナが教会にやってきた。
「トビアス・ガルドーナ……」
セリオンとノエルは立った。
ノエルはセリオンの背後に隠れた。
それを見てトビアスは苦笑した。
「やあ、ノエル。久しぶりだね。元気だったかい?」
「…………」
そこでノエルはセリオンの服をぎゅっとつかんだ。
視線をノエルはあえてトビアスから外す。
「つれないなあ……このぼくが愛しい君にわざわざ会いに来たっていうのに。まあ、いいさ。今日は君のためにわざわざここまで来たんだ」
トビアスが饒舌を走らせる。
「いったい何をしに来た?」
セリオンは警戒してトビアスに対した。
「セリオン・シベルスク……ぼくは君に決闘を申し込む!」
「!? 決闘だと?」
「そんな、セリオンさん!」
「もちろん、受けてくれるよね? 青き狼さん?」
セリオンは押し黙った。
「おや?受けないのかい?」
トビアスが嘲笑する。
「わかった。決闘を受けよう。そのかわり」
「そのかわり?」
「俺が勝ったら、ノエルにはもう近づくな。いいな?」
「もちろん、そちらの条件を飲もうじゃないか。では、決闘は明日ムーザ(Musa)川もほとりで行うとしよう。そうそう、公正を期するため武装は片手剣にさせてもらうよ。それじゃあ、明日。ククッ! 怖かったら逃げてもいいけどね。ぼくが勝ったらぼくはノエルに結婚を申し込む! それじゃあ、ノエル、しばしさようなら」
そう言ってトビアスは去っていった。
ノエルは心配そうな顔をした。
「安心しろ、ノエル。俺は必ず勝つ。おまえの未来を守って見せる」
「うん……」
決闘の日がやってきた。
セリオンとトビアスは川のほとりに片手剣を持って対峙していた。
「おやおや、セリオン君。怖気ずいて逃げ出さなかったんだねえ?」
トビアスがセリオンをバカにした。
「……」
セリオンは何も答えない。
セリオンはトビアスの挑発には乗らなかった。
「わかっているな? 俺が勝ったら、ノエルにはもう近づくな」
「クックック! わかっているよ。そんな可能性はないと思うがね」
トビアスには客観的に相手の実力を測るという能力が欠落しているらしい。
セリオンに決闘を挑むなど、正常な理性を持つ人間には無謀すぎることだ。
トビアスはセリオンを侮るあまり、彼の実力を低く評価していた。
氷竜フォルネージュを倒せたことなどまぐれとしか思っていないのだ、トビアスは。
「それでは双方、剣を構えてください」
審判が命じた。
「やれやれ、では僕の真の力を見せてあげようじゃないか。それにしてもルールはわかっているのかな?」
「……武器を手から離したら負け、だったな?」
「そうそう、よく覚えていたねえ」
トビアスは歪んだ笑みをした。
「それでは、決闘、始め!」
「クックック! 死んでも恨むなよ? おらあ!」
トビアスは剣でセリオンに斬りかかった。
しかし、パリーンとトビアスの剣が宙を舞った。
トビアスの剣が離れた。
セリオンの剣はトビアスの首元にあった。
瞬殺、である。
この事態をトビアスは正常に認識できなかった。
「ひっ、ひい!?」
トビアスはわなわなと震えて、地面に座り込んだ。
「勝者、セリオン!」
審判が宣告した。
トビアスは震えていた。
「俺の勝ちだ。今後、おまえはノエルに近づくな。以上だ」
セリオンはそう言うと、その場を去っていこうとした。
「まっ、待て! おまえはなにか反則をしたんだ! ぼくは敗れていない!」
あまりに自分に都合のいい現実認識だった。
セリオンは審判のほうを見た。
「勝者はセリオンです。トビアス、負けを認めなさい」
「ウソだ! こんなバカな決着があるものか! もう一度だ! もう一度勝負しろ!」
トビアスは片手剣を拾うと、セリオンに斬りかかった。
セリオンは大剣を出して、トビアスの斬撃を受け止めた。
そして闘気を出して、トビアスを威圧した。
「ひいいいいいい!?」
トビアスはがくがくと震えていた。
トビアスの股にシミができる。
トビアスは失禁していた。
「もう二度と俺にかかわるな。いいな?」
セリオンは有無を言わさず、圧力を加え続けた。
トビアスはもう何も言えなかった。
そうしてセリオンは川から去っていった。




