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妖精と王子様のへんてこマーチ(へんてこワルツ3)  作者: 魚野れん
それぞれの道からゴールを目指す

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 珍しくルッカから呼び出されたエルフリートとロスヴィータは、そわそわとしながら魔法師団の詰め所と研究室をひとまとめにしている西の塔へ向かった。

 塔、というだけあり、西の塔は本物の塔である。


 おとぎ話に出てくるような塔にそっくりなそれは、実際、おとぎ話もびっくりという建物だった。魔法の失敗が外に漏れないよう、厳重な結界が張られているのはもちろん、塔が破壊されないように塔自体に防御の魔法が練り込まれている。

 塔を作る際、塔を含めて魔法を発動させたらしいのだから、その時の希有なる魔法師はよほどの切れ者だったのだろう。


 エルフリートは、同じ時代に生まれたならば、きっとその人物に教えを請いたいと駆けだしていたかもしれないなと思う。エルフリートですらそうなのだから、マロリーなどは飛びつくかもしれない。

 マロリーが他者に飛びつく光景が思い浮かばず、エルフリートは笑みをこぼす。


「フリーデ、何か面白い事でも?」

「この西塔を生み出した魔法師に私たちが会う事ができたら、すごい事になりそうだなって。マロリーとか研究大好きじゃない? あの冷静な子が、冷静じゃなくなる瞬間が見れるんじゃないかと思ったら、楽しくなっちゃった」


 ロスヴィータもその光景を想像したらしく、彼女も小さく笑う。


「確かに、それは見てみたいな。きっと、年相応の姿が見れるだろうな」


 まろやかなアルトの声がエルフリートの耳をくすぐった。


「二人とも、時間を割いてくれてありがとうございます」


 談笑していると塔から見慣れた少女が現れた。左腕が途中からないのが、ひらひらと踊る袖で分かる。一瞬そちらに視線を奪われるが、エルフリートは極力それを意識しないようにした。

 相変わらず、ジュードが彼女がいつバランスを崩しても助けられるように控えている。さすがにそこまでの介助はもう必要ないのではないかと思うが、それは本人たち次第の話である。エルフリートが口を出すものではない。


「私もお二人に少しは女性騎士団員として協力したいと思ったんです」

「唐突だな、ルッカ」

「私、何も協力できずにいるのが嫌なので、特別ゲストを用意しました」

「……どうも、お久しぶりです」


 ルッカとジュードの陰からひょっこりと顔を出したのは、ジークだった。


「あっ! 自称親切なジークだぁー!」

「普通にジークで良いですって……。えっと、俺、門外漢ですが、目端が利くらしいので、騎士学校運営の穴を見つけるお手伝いができると思います」


 エルフリートとロスヴィータは顔を見合わせた。




 エルフリートとロスヴィータが思っていた以上に、ジークは活躍した。ジーク自身が言っていた通り、あちこちに改善すべき点があったのである。


「本当に、穴を見つけちゃったね」

「ああ……ここまでとは、驚いたな」


 ジークは運営の穴、という事で騎士学校の規則に関する問題から、カリキュラム、果てはアルフレッドの屋敷にあった隠し戸まで、ありとあらゆるものを見つけてみせた。


 余談だが壁にあいている穴を見つけ、隠し部屋も見つけている。アルフレッドはちゃっかり隠し財産を作っていたらしく、持ち運べない絵画などの大きなものがその部屋に納まっていた。

 もちろんこれらは国の所有物として回収されていった。


「国まで潤しちゃうなんて、ジークはすごいねぇ……」

「本当にな。我々はどのようにして礼をすれば良いのか分からんな」

「あっ、それには及びません!」

「ジーク」


 ひょっこりと現れた彼は、人差し指を立ててにこやかに言う。


「陛下に、騎士団には所属できなくとも、魔法師団にふさわしい人物は試験を経て引き抜いても良いと許可をいただきました!」

「うん?」


 ロスヴィータが首を傾げる。エルフリートの方はジークの言葉でピンと来たが、右に倣えという事で、彼女と同じ反応を彼に返した。


「つまり、騎士学校を卒業する時に、魔法師団か騎士団のどちらに所属したいのか、選べるようになったんです」

「なんと」

「だって、結局騎士学校で魔法も勉強するじゃないですか。だったら、魔法師団所属に足る実力を持ちつつ、騎士としての脚力に足らない人材もいるはずだなと」


 ジークは本当に視野が広い。エルフリートは尊敬の念を抱いた。ロスヴィータは彼に感心しっきりだったが、それだけでは終わらなかった。


「この話を知っている人間は?」

「えっと、陛下とうちのトップかな」

「騎士団で知っている人間はいないのか?」

「そう……かも、しれません」


 ロスヴィータの質問の意図が分かった彼は、途端に顔色を変えた。


「すみません、騎士団が中心なのに、報告などを失念してしまいました!」

「そうだな。情報共有は、どんな事でも必要だ。特にこういった大きな事業では、連携がとれないと致命的だ。

 この件は私の方から騎士団に繋いでおこう。次はないから、気をつけてくれ」


 ジークにも穴ができる事はあるんだなぁ。エルフリートは二人のやりとりを見守りながら、そんな事をのんびりと考えるのだった。

2024.10.5 一部加筆修正

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