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ルッカは女性騎士団員としては一人、魔法師団の人間の中に混じって研究をしていた。片手ではできる事も限られる為、ジュードが専属でついてくれている。彼は案外器用で、ルッカの要望を難なくこなしている。
そしてもう一人、ルッカのサポート役として魔法師団から貸してもらった手がある。
「ああ、自称親切なジーク」
「ちょっと。それを呼び名にしないでほしいなぁ」
丁寧な雰囲気におっとりとした話し方だが、そのまま受け止めるとひどい目に遭う。それはキャンベルの談だ。その気持ちは分からなくもない。御前試合の時に、キャンベルごと対戦相手を焼こうとした男である。
キャンベルがジークを親切だと称しただけで、別にジークが自らを「親切な男だ」と言ったわけではなかったのだが、それ以来「自称親切なジーク」というのが愛称になってしまっていた。
原因は彼に全くないとは言えないが、どちらかと言えば風評被害に近い。
「そこにあるパーツを取ってほしいの」
「ああ、これ?」
「そう」
ジークはぶらりといくつかの部品が繋がったものを掲げた。それは間接を模した小さなもので、きっとジークには不思議なものに見えるのだろう。
「これってさ、稼働チェック用の模型?」
「そうよ。よく分かったわね」
ルッカの研究に首をつっこんできた事を意外に思いながら答える。
雑用しかしていなかったジークが、ルッカの義手作成に対して特に関わる気がないのだろうなと考えていたのだ。
手伝えと言われているから、という理由でルッカの身の回りの事だけをしているのだと、そう思っていた。しかし、それはどうやらルッカの思い違いだったようだ。
「多分だけど、それ、うまくいかないと思う」
「どうして?」
「ここの歯車が、ルッカの持っているパーツのそれと、微妙にサイズが違うから」
指摘された部分を見てみると、なるほど確かに歯車の歯形の間隔がジークの持っているパーツの歯車と違う。もう一つ噛み合う歯車があるのならば話は別だが、このままではうまく引っかからずに空回りしてしまうだろう。
目端が利くのね。ルッカは感心する。
「あと、このギミックだけど……」
「え?」
ジークがパーツをぶらんと揺らしながら話し始める。
「稼働域を調整する部分、これだと手首の部分が引っかかるんじゃないかな。曲げると、前腕の長さを超えるから、手のパーツにぶつかるよ」
「本当だわ」
肘を綺麗に曲げる事にばかり気を取られていて、手首の方まで気がいっていなかった。ルッカは視野が狭くなっていた事を反省すると同時に、細やかな指摘をしてきたジークに対する疑問が浮かんでくる。
一方、それを指摘してきた側である彼は、自信なさげに手の中にあるパーツを指でいじりながら確認している。
「ねえ、あなた機械に詳しいの?」
「詳しいという程じゃ。ただ、見れば何となく分かるだけで。専門的には勉強していないから、本当に素人の素朴な質問だと思ってくれると嬉しいかな」
どこが素人の質問なのだろうか。ルッカは顔がひきつるのを感じていた。専門用語はないものの、ぱっと見ただけで不具合を探し出してみせた。
その能力を発揮するのに、どれだけの知識や経験が必要になるのか、彼は全く認識していない。
ルッカとしてはとてもありがたい事だが、ジークには是非とも彼自身の価値を自覚してほしいものだ。
「ジーク、あなた。それが貴重な能力だって分かっていて?」
「うん?」
とぼけた男だ。ルッカは思わず睨まずにはいられない。そんな彼女の隣でジュードが苦笑していた。きっと、ルッカの気持ちが分かっているからだろう。
「ジーク、お前なぁ……ちょっと勉強したくらいじゃ、そういう指摘はできないものなんだよ」
ジュード、もっと言ってやりなさい。ルッカは心の中で彼を応援した。
「そうか? みんなこういう感じだと思っていたんだけど」
「……お前のそういうところが、親切の由来か」
「自称親切なジークは、確かに親切って事ね」
「ちょっと、なんだかひどくないかい?」
ジュードとルッカが頷きながらジークに言えば、彼は不服そうに唸った。
「もしかしてあなた、他の同僚に“目端が利く”ってよく言われない?」
「言われるよ。だからルッカのフォローに抜擢されたんだ」
周囲は、彼の強みを理解しているらしい。それはそうだろう。魔法師団は、研究者の集団でもある。
そんな彼らならば、ルッカやジュードが気づく事など、すぐに気がつくだろう。
「ただ、門外漢が何かを言うのってさ、いやがる人も多いから、あんまり口出しするのもあれかなって。
専門外のはずなのに何か気づくから、時々こっちに寄るなって言われるんだ」
気づく範囲が広すぎて、文句を言われた事があるらしい。それは逆にかわいそうだなという感想を抱く。できる事が多いという事は、能力を示すという行為はそれなりにリスクを伴う事なのかもしれない。
「私は、指摘してもらえると嬉しい人間だから、何か気がついたら容赦なく教えてくれる?」
「良いのかい?」
「もちろんよ。むしろ助かるわ」
ルッカがそう言えば、彼は自信のなさそうな表情からうって変わり、頬を上気させて大きく頷くのだった。
2024.10.5 一部加筆修正




