表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/21

20 望まぬ婚姻



「ごめん……本当にごめんなさい……」


 そう繰り返しながら、私は床に崩れ落ちた。

 涙がこぼれ落ちる。ポロポロと、ポロポロと。取り留めもなく。流れていく。私はこんなに良い子に、なんてことをしようとしたんだろう。ついさっきまでの、自分はおかしかった。まるで、私じゃないみたいだった。

 ……そんなのは、言い訳だ。私は妹を殺そうとしたのだ。だった一人の双子の片割れを。

 その事実は、永遠に変わらない。その罪は永遠に刻まれる、刻印となるだろう。

 だからせめて、せめて、許されるために……いや、許されなくてもいい。今からは精一杯、リルに尽くそう。リルにこの命を捧げよう。

 しばらく私はその場にうずくまっていたが、リルが起きそうな気配を感じ、自室へと戻った。



****



 それから私は今まで以上にリルに尽くした。最もやることはあまり変わってはいなかったけれど、義務感からやっていたことは、心の底からの行いになっていった。

 ただスチュアートのことは、どうしても気持ちの整理がつかず、嫉妬する日々だった。

 彼がリルに優しくするたびに、自分の胸が、締め付けられ、彼がリルに甘い視線を向けるたびに、ああ、自分は彼の眼中にすらないんだと、狂おしいほどの深い悲しみに苛まされた。

 だが、それでも私は心の底から、リルに尽くそうと、努力した。



「リル、あーん」

「あーん!」



 リルに、おかゆを食べさせてあげる。本当は自分で食べれるくせに、リルはたまに、そうやって、甘えてくるのだ。

 ……まあそんなところも可愛いと、思えるようになった私も、大概だが。

 しかし、そんな日々とは裏腹に、依然として、病状は油断が許されない状況だった。夜に熱を出したり、ということが度々あり、回復とはまだまだほど遠いような、状況だった。

 私の人生において、大きな番狂わせが生じた、その日も、昼過ぎ頃、熱を出してしまったリルを看病し、つきっきりだった。私は疲れ果てて、リルの傍らでうたた寝していた。



「ただいま」



 玄関から母の声が聞こえた。どうやら、帰ってきたらしい。母はいつも私たちのために、働いていて、いつも深夜に働いている。そんな母の声はいつも疲れ切っているものの、今日はいつのより、心なしか、覇気がないように思えた。私は、少しまだ眠かったが、起き上がろうとする。

 しかし、立ち上がる前に、母が部屋へ入ってきた。



「リルは助けられないわ」

「え……?」

「だってうちには、お金がないもの」



 私は目の前が真っ白になった。頭を何かバンドのようなもので、叩かれたような、そんな感じがした。



「ど、どうにかして助けられる方法はないの?」



 絞り出すようにそう言うと、母は苦虫を噛み潰したような、顔になった。どうやら、『あるにはある』らしい。



「もしかしてあるのね? 私、リルのためならなんだってするわ。もし働けと言われたら喜んで働くし、死ねと言われたら、死ねる! だって、大切な片割れだもの」

「でもね、リリ……」

「あるなら早く言って! お願い!」



 母は言い淀む。しかし、私の真剣さに観念したように、ため息をついた。



「あなたが、ここの領主様と婚姻関係を結べば、リルに多額の援助をしてくれるそうよ」



 領主と結婚? そんなバカな……

 私たちの住む、ドミニク領の領主、ファヌ・ドミニクといえば、好色親父で有名で、男も女もいけると噂されている。そんな人と婚姻……



「何故、領主様が私と婚姻を?」

「なんでもあなたを一目見たときから気になっていたらしいわ……でも、良い噂は聞かないし、何よりあなたは私の大切な娘よ。あなただけ不幸にさせるなんて、できないわ」



 たしかに、以前の私だったら、リルのために犠牲になるなんて、なんて不幸だろう、と思ったかもしれない。でも、今の私は違う。リルのためならなんだってできる。

 ただ、そうは言っても、スチュアートのことが、私は気になってしょうがない。彼の気持ちが私に向いていないことは知っている。他でもないリルに向かっていることを。私はもうそのことに関して、リルを恨むことはしないと決めたし、リルには幸せになってほしい。だが、この気持ちのまま結婚するのも、それは相手に不義理な気がする。何より―――結婚というタイミングですべて、この醜い感情とは決着をつけてしまいたい。




「それでリルが助けられるなら……ただ、数日だけ時間がほしいと、先方には伝えてちょうだい」

「わかったわ……」



 母は悲しげな顔で頷いた。

続きが気になるって思ったら、評価ボタンとブックマークお願いします!

リアクションなども本当に励みになってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ