最弱から最強へ~スライムちゃんのおかげで最強になった件~
「待ってくれ! 呪いさえ解ければ、俺はまだ戦えるんだ!」
声の限りに叫びながら、ショウは仲間の足にしがみつく。
そこは、大勢の冒険者で行き交う冒険者ギルドの中だった。
何事かと集まってくる野次馬たちの視線が、痛いほど刺さる。
「……見苦しいぞ、ショウ」
パーティーのリーダーである大男は、冷たい一瞥を向けると、ショウを容赦なく蹴り飛ばした。
「じゃあな。もし万が一にも呪いが解けたら、また入れてやるよ」
「まぁ、お荷物はいらないので仕方ないですね。さようなら、今までお疲れ様でした」
「危険度5のダンジョン街まで連れてきてあげただけでも、感謝してほしいくらいです」
大男に続き、神官の少女と魔法使いの男が冷ややかに言い放ち、ギルドを去っていく。
身内の揉め事など日常茶飯事のギルドだ。
嵐が過ぎ去れば、残された惨めな男に興味を示す者など誰一人いなかった。
ショウは床に突っ伏したまま、ぼんやりと天井を見つめる。
「……どうやったら解けるって言うんだよ」
知っている手段、聞いたことのある噂はすべて試した。
剣以外の装備はすべて売り払い、貯金も一銭残らず使い果たした。
だが、何をどう試しても呪いは解けなかったのだ。
仲間から捨てられ、金も装備も失ったショウは、暗い絶望の中で涙を流した。
これからどう生きていけばいいのか、何もわからない。
「ステータス……」
ショウが呟くと、目の前の空間に青い光のウィンドウが現れた。
レベルは20。しかし、すべての能力値は最低ランクの『G』。
これでは村の幼子にすら勝てないだろう。
原因は、状態異常の欄に刻まれた【呪い】の二文字。
(これさえ……これさえなければ……!)
そう思いながら、すがるように指でその文字をなぞる。
そんなことで消えるはずもないのに、そうせずにはいられなかった。
ショウがかかったのは、誰も聞いたことがない未知の呪いだった。
【反転:レベルが上がる度に、すべての能力値が低下する】
本来のショウは、ごく普通の冒険者だった。
仲間と共にダンジョンへ挑み、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた。
だが——この呪いにかかってから、彼の人生は一変した。
冒険に出るたびに、レベルが上がり、弱くなっていくショウ。
そんな彼を置いて、どんどん強くなっていく仲間たち。
最初は呪いを解くのに協力してくれた仲間も、次第にショウを足手まとい扱いし、蔑むようになっていった。
そして今日、ついにこの街で捨てられたのだ。
重い体を起こし、フラフラとギルドを出る。
希望を完全に失ったショウの頭には、もう『死』のことしか浮かん語らなかった。
黒い短髪をがしがしとかき揚げながら、死に方を考える。
いざ死ぬとなると、こんな惨めな状態でも欲望が出てしまうらしい。
(どうせ死ぬなら……できるだけ痛くない方法がいいな)
そう考えたショウが向かったのは、街の外れにあるダンジョンだった。
ダンジョンとは、モンスターが出現する古代の遺跡だ。
倒せばアイテムを落とし、それが生活に役立つため、自然とダンジョンの周囲には街が作られる。
当然、ダンジョンには難易度に応じた『推奨レベル』が存在する。
基本的には、4人パーティーの平均レベルと同等の難易度に挑むのが鉄則だ。
ショウは一人、薄暗いダンジョンの内部へと足を踏み入れた。
目的のモンスターは、すぐに見つかった。
赤色をした、ゼリー状のモンスターがこちらへ向かって這ってくる。
『ドレインスライム』。
このダンジョンにのみ生息する、珍しいモンスターだ。
その特性は——レベルドレイン。
直接的な攻撃力は皆無だが、冒険者の経験値を吸い取る能力を持っている。
吸われている間も痛みが全くないため、気づかないうちに経験値を奪われ続け、経験値が0になると死に至る。
駆け出し冒険者にとっては非常に危険な相手だ。
「本当に……痛くないんだろうな……」
不安で声が震える。だが、迷っている暇はない。
こちらへ跳びかかってきたスライムを、ショウはギュッと抱きかかえた。
「ステータス……」
確認すると、順調に経験値が吸い取られていた。
確かに痛みはない。ショウは腹を括り、このまま死を迎えることに決めた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ついに、レベルが『1』まで下がった。
「やっとか……。これで、このクソみたいな世界ともお別れだな」
ステータス表示を閉じ、最後の瞬間を待って静かに目を閉じる。
……だが。
いつまで待っても、その時は訪れなかった。
(まさか……気づかないうちに死んでて、ここがあの世なのか?)
おそるおそる目を開けると、視界に入ったのは相変わらず真っ赤なスライムの体だった。
どうやら、死ねていないらしい。
「おかしいな……なんで死ねないんだ?」
確認のため、再びステータスを唱える。
そしてショウは、画面に浮かび上がる異常な数値に固まった。
「……は? レベルが『-1』……!? それに、なんでステータスが上がってるんだ!?」
そこにあったのは、本来あり得ない『マイナス』の文字。
そして、こうしている間にもスライムは経験値を吸い続けている。
混乱しながらステータスを見つめていると、レベルが『-2』になった瞬間——ふっと能力値の数字が跳ね上がった。
(……待てよ?)
ショウの頭に、一つの信じられない仮説が浮かび上がる。
(……まさか、いやあり得ないだろ。そんな都合のいい話が……)
考え込んでいる間にもレベルは『-3』に下がり、またしても能力値が上昇した。
「……『レベルが上がる度に能力が下がる』ってことは……レベルが『下がる』ほど、逆に強くなってるのか!?」
レベルが『-4』になり、確信に変わる。
ショウの心の中に、暗い絶望とは真逆の火が点いた。
(このまま下げ続けたら……以前の俺どころか、めちゃくちゃ強くなれるんじゃないか……!?)
「よし……どこまで下げられるか、限界までやってやる!」
死ぬつもりだった男の心に、フツフツと楽しさが込み上げてくる。
失うものなど何もない。やれるところまでやってやろうじゃないか。
一匹だけでは効率が悪いと判断したショウは、スライムを抱えたままダンジョンの奥へと突き進んだ。
途中、何人かの冒険者とすれ違ったが、全員が引きつった顔でショウを避けていく。
スライムを愛おしそうに抱えて徘徊する男など、狂人にしか見えないのだろう。
「よし、これくらい集まれば十分だな!」
ダンジョンを駆け回り、追加で10匹ほどのドレインスライムを捕獲した。
もはや抱えきれず、顔以外の全身をスライムで覆い尽くしている状態だ。
「……ふぅ、しばらく経ったらまたステータスを見てみるか」
まるで全身に『赤いゼリーの鎧』を纏ったような奇妙な姿のまま、ショウはダンジョンの壁に背中を預けてドサリと座り込んだ。
極度の緊張と疲労からか、ショウはそのまま深い眠りに落ちてしまった。
◇
「……ん……っ」
目が覚めた時、あれほどまとわりついていたスライムたちの姿は消えていた。
通りかかった親切な冒険者が、襲われていると勘違いして倒してしまったのかもしれない。
「しまった……せっかく集めたのに失敗したか?」
ショウは苦笑しながら、念のため自分の状態を確認しようと唱えた。
「ステータス」
目の前に広がった光のウィンドウを見た瞬間、ショウは息を飲んだ。
自分の立てた計画が——想像を絶する大成功を収めたことを知る。
【名前】ショウ
【レベル】 -999
【筋力】 SS
【体力】 SS
【敏捷】 SS
【魔力】 SS
【器用】 SS
【状態】呪い(反転)
画面の向こうで輝くのは、異次元の領域に達した『SS』の文字だった。




