最弱から最強へ~スライムちゃんのおかげで最強になった件~
「待ってくれ!呪いさえ解ければまだ戦える!」
彼は仲間の足にしがみつき叫ぶ。
ここは冒険者ギルドの中だ。周りの冒険者たちが何事かと集まってきた。
「じゃあな。呪いが解ければ、またパーティに入れてやるよ」
大男は彼を蹴り飛ばすとギルドを出ていく。
「まぁ弱い人はいらないので仕方ないですね。さようなら、今までお疲れ様でした」
「危険度5のダンジョンの町まで連れてきただけでも感謝してほしいものですね」
少年に声をかけ、大男に続き神官の少女と魔法使いの男がギルドを出ていく。
身内の喧嘩など日常茶飯事のギルドはもう彼のことなど誰も見ていない。
残された彼は仰向けに倒れたまま天井を見つめる。
「どうやったら解けるって言うんだよ・・・」
知っているもの、聞いたものは全て試した。
そのために剣以外の装備は売り払い、所持金はすべて使った。
だが、何をしても呪いは解けなかった。
たった今仲間から捨てられた彼の名前はショウ。
全てを失った彼は絶望し涙を流す。これからどうしろというのか。
「ステータス」
ショウは魔法を唱える。目の前の空間に彼の能力が表示された。
レベルは20だが全ての能力が最低ランクのGだ。
これでは村の子供のほうが強いだろう。
原因は状態の欄に浮かぶ呪いの文字
これさえなければ、そう思い彼はその文字を指でなぞる。
そんなことで消えるわけがないのだが、やらずにいられなかった。
ショウがかけられた呪いは、誰も聞いたことがない珍しいものだった。
反転:レベルが上がる度に全ての能力が下がる
ショウはこの呪いにかかるまではごく普通の冒険者だった。
ダンジョンに挑戦し、いくつもの冒険をこなしていたのだ。
だが呪いにかかってから彼の生活は一変した。
冒険に出る度に弱くなる自分、そんなショウを残し強くなる仲間。
最初のうちは呪いを解くのに協力してくれた仲間も、次第にショウを蔑むようになった。
とうとう彼はこの町で捨てられてしまったのだ。
立ち上がりギルドから出ていく。もはや希望を失ったショウは死ぬことしか考えていなかった。
黒い短髪をかきあげ、どうやって死のうか考える。
いざ死ぬとなると、こんな状態でも欲が出てしまうものらしい。
なるべく痛くない方法で死にたい、そう考えた彼はダンジョンへと向かった。
ダンジョンとはモンスターが出現する古代の遺跡だ。
モンスターは倒すと灰のように消えてしまうのだが、その際にアイテムを落とすことがある。
そのアイテムは生活に役立つものも多いため、自然とダンジョンの周りには町が出来上がるのだ。
ダンジョンはその難易度によってレベルがつけられている。
4人のパーティーメンバーのレベルの平均値がダンジョンのレベルと一緒のところに挑戦するのが一般的だ。
ダンジョンに入ると目当てのモンスターはすぐに見つかった。
赤色のゼリーのようなモンスターがこちらへ向かってくる。
ドレインスライム、この町のダンジョンのみに生息する珍しいモンスターだ。
その特性はレベルドレイン。
攻撃はしてこないが冒険者の経験値を吸い取る力がある。
吸われていても痛みがないため、気づかない場合吸い続けられてしまう厄介なモンスターだ。
経験値が0になると一瞬で死んでしまうため、駆け出し冒険者にとっては危険な相手だった。
「本当に痛くないんだろうな・・・」
不安はあったが、やってみなければわからない。
こちらへ飛んできたスライムを抱きかかえる。
「ステータス」
能力を見ると順調に経験値を吸われている。
痛みもないのでこのまま吸われ続けて死ぬことに決めた。
どれぐらい経っただろうか、ようやくレベル1まで下がった。
「やっとか、これでこの世界ともお別れだな」
魔法を解除し、最後の瞬間を待って目を閉じる。
だがいつまで待ってもその時は訪れなかった。もしや気づかないうちに死ねたのだろうか。
目を開けるとスライムの姿が見えた。どうやらショウの望みは叶わなかったようだ。
「おかしいな、なんで死ねないんだ?」
能力を確認するため魔法を唱える。すぐに違和感に気づく。
「レベルがマイナス1?それになんで能力が上がってるんだ?」
レベルや経験値の前にマイナスの文字がついている。
こうしている間もスライムは経験値を吸い取っているようだ。
訳が分からず能力を見ているとレベルがマイナス2になった瞬間、能力が上がった。
それを見たショウの頭に一つの仮説が浮かんだ。
・・・まさか、いやありえないだろう。そんなことがあるわけがない。
考え混んでいるとレベルがマイナス3になり、また能力が上がった。
「まさか、呪いのおかげでレベルが下がるほど強くなっているのか?」
レベルがマイナス4になり、また能力が上がった。ショウは確信する。
ふと、いいことを思いついた。
このまま下げ続けていれば以前の自分の能力を超すこともできるのではないだろうか。
「どこまで下げれるか、やってみるか!」
レベルが下がる度に能力が上がるこの状況に、ショウは楽しくなってきた。
もともと死ぬつもりだったのだ。やれるところまでやってみよう。
そうなると一匹だけでは時間がかかってしまうので、他のスライムを探すことにした。
スライムを抱きかかえたままダンジョンを歩き回る。
何人か冒険者とすれ違ったが、みなショウを避けていった。
周りから見たら気が狂っているとしか思えないのだろう。
「こんなもんでいいかな」
ダンジョンを歩き回り、10匹ほどスライムを見つけることができた。
途中から抱えきれなくなったので、顔以外は全てスライムで覆ってしまっていた。
「しばらくしたら、能力を見てみるか・・・」
まるで赤色の鎧を着ているような格好のまま、ダンジョンの壁に背中を預け座り込んだ。
疲れていたのか、ショウはいつの間にか寝てしまったようだ。
目が覚めた時スライムたちはいなくなっていた。
他の冒険者が俺が襲われていると思って倒したのだろうか。
「しまった。失敗しちゃったかな・・・」
ステータスを確認するため魔法を唱える。
それを見てショウは自分の計画が大成功したことを知った。
レベルはマイナス999
そして全ての能力が最高ランクであるSSを示していた。