71 ノエル一家の帰還
準備が終わると、全員でいただきますをする。
「……うまい……うまい」
「お、ノエルは気に入ったか?」
「……きにいった。たまごがふわふわで……けちゃっぷのごはんもうまい」
俺も食べてみた。確かにうまい。
コカトリスの卵は、鶏卵より味が深くて濃かった。
魔トマトから作ったケッチャップもうまいし、米との相性も最高だ。
「おお、うまいな。リラの料理はなんでもうまいな」
「ふふ、ありがと」
「りら……ありがと。こんなにうまいオムライスをたべられるとは……」
「どうしたしまして」
「こかとりすも、ありがとな? たまごおいしい」
『よかった』『どんどんたべて』
「ぴよよ!」
ひよこもうまいうまいと言って食べている。
にわとりも自分で産んだ卵を食べたりするし、抵抗はないのだろう。
「おいしいねー」「うん、すごくおいしい」
「咖喱オムライスにしてもおいしそう」
「そだね。それもおいしそう」
子供たちもオムライスが気に入ったようだ。
中でもノエルは特にオムライスが気に入ったらしく、感動しているようだった。
カトリーヌはそんなノエルをみて、オムライスのレシピをリラに詳しく聞いていた。
夕食を食べた後、カトリーヌとリラが女の子たち、コボルトの半数を連れてお風呂に向かった。
石鹸もしっかり渡しておく。
カトリーヌとリラは石鹸の使い方を知っているので、しっかりと教えてくれるだろう。
その間、俺とノエル、フィロと男の子たちとコボルトの半数で後片付けをする。
俺は皿を洗いながら、手伝ってくれるコボルトに尋ねた。
「コボルトたちに性別ってあるの?」
『ないわんねー』『せいれいだからわんね?』
どうやら精霊には性別はないらしい。
確かに生殖でふえるわけではないので、性別があるはずもないとも思える。
「なるほどなー。でも少女の姿の精霊とかいるよね?」
人と恋に落ちる精霊の伝承などもある。
『ふしぎだわんねー』『そうだわんねー』
コボルトたちもよくわかっていないようだった。
後片付けが終わって、しばらくがたって、リラたちが風呂から出てきた。
「どうだった?」
『どうだったわん?』『きにいったわんか?』
俺とコボルトたちが尋ねると、
「ええ、とてもいいお風呂だったわ。ありがとう」
『やったわんやったわん!』
リラはコボルトたちを撫でまくる。
『てぃる、せっけんであらったわんね?』
先に入ったコボルトたちがやってきて、体を押しつけてくる。
「おお、良い匂いになったね」
『やったわん!』『もふもふになったわん!』
綺麗になったコボルトたちを撫でまくった。
それから俺たちも風呂に向かう。
一緒に入るのはノエル、フィロ、ペロとガルガル、ペリオス、ペリーナ、男の子たちだ。
コボルトも半数は俺たちと一緒に入る。
「モラクスとモニファス、コカトリスたちは?」
『どろあびでいい』
『砂浴びが』『いい』「ぴよよ」
モニファスとコカトリス親子は風呂はあまり好きじゃないようだ。
「モラクスは?」
「も~……『はいる』」
少し迷った後、モラクスは一緒に入るという。
「無理はしなくていいからね。子猫たちは?」
「な?」「みゃ?」「にゃ?」
子猫たちは、入るわけないだろと少し怒り気味に言う。
「そっか、猫だものな」
水に入るのは嫌いなのだろう。
「じゃあ、子猫たちは留守番していてくれ」
そう言って俺たちが風呂場に向かったのだが、なぜか子猫たちは付いてきた。
「む? 一緒に入る?」
「な?」「みゃ?」「にゃ?」
また、入るわけないだろと怒り気味に言う。
「そっか」
もしかしたら、ノエルとガルガルのそばに居たいだけかも知れない。
脱衣所に入ると、俺は子供たちに言う。
「まずはみんな服を脱ぎます」
「おおー」
「脱いだ服はかごにいれましょう」
「わかった!」
風呂に入ったことのない子供たちに説明しながら準備を進める。
全員が服を脱いだことを確認してから浴場へと入った。
「まずは体を洗ってからはいるんだよー」
「わかった!」
「石鹸をつかって……」
俺とフィロが中心となって、子供たちに体の洗い方を教えていく。
「せっけんは、ぬらしてからこするといいな?」
「ノエルくわしいね?」
「ちいさいころに……はいったことがあるからな?」
ノエルも子供たちに教えてあげていた。
俺とフィロで手分けして、子供たちを洗ってあげて、湯船に送り出す。
年長の子供たちは俺達が洗う姿を見て、自分で体を洗っていく。
『きれいにするわんねー』
『かゆいところはありませんかわんねー』
コボルトたちはペロとガルガル、モラクスを洗ってあげている。
「わふわふわふ」「ぁぅぁぅ」「も~~」
ペロたちはとても気持ちが良さそうだ。
ペロたちが綺麗になった後、コボルトたちは俺とフィロの背中を流してくれる。
コボルトたちの手つきや優しくて、とても気持ちがいい。
『あたまもあらってあげるわんね!』
「おお、ありがとうコボルトたちのこともあらってあげよう」
『やったわんねー』『きもちがいいわん!』
互いに洗った後、コボルトたちと一緒に湯船に入った。
お湯の中に入ると、久しぶりの温かい刺激に全身が包まれる。
「……ほわぁ……気持ちが良い」
「本当に。気持ちが良いなぁ。ノエルはどうだ?」
フィロは先に湯船に浸かっていたノエルに尋ねる。
「うん。きもちがいいな? ……とてもいい」
「ぁぅ~」「ゎぅ~」「もぅ~」
ペロとガルガルも気持ちが良さそうだ。
モラクスも俺にくっついて気持ちよさそうにしている。
「牛ってお風呂好きなの?」
『せいじゅうだからね?』
「そっか、聖獣だもんな」
モニファスはあまり好きじゃないっぽいし、個体差があるのだろう。
「なぁ?」「みゃあ?」「にゃあ?」
子猫たちは湯船の近くまで来て「正気か?」といっていた。
「ふえー。きもちいいねー」
「そだねー」「なんか疲れがとれる」
子供らしくない台詞も聞こえたが、子供たちもお風呂を楽しんでくれているようだ。
室内のお風呂を堪能した後、露天風呂にも入った。
「景色が良いなぁ」
日は沈み、星空が見えている。少し涼しい風が心地よい。
「きもちいいなー。しのやまがあっちでー、とうさまのいえはどっち?」
「あっちだよ」
ノエルはフィロに抱っこされて露天風呂を堪能している。
「ノエル。そろそろ、人族に慣れたかな?」
「なれたかも?」
「……そっか、一度、俺たちの家に来る?」
「そだな? じいさまとにいさまにもあいたいしなー」
「そっか、そろそろ一度戻ろうか」
「アオたちもいるから、ながいじかんはむりだけどな?」
「そうだね」
そんなことを親子でのんびり話していた。
みんなでお風呂に入った三日後のこと。
ノエル親子とガルガルが腐界の外に行くことになった。
「なぁ」「みゃ」「にゃ」
ノエルとガルガルが出発するというと気になっても子猫たちは落ち着いたものだ。
三匹それぞれ「げんきにな?」「きをつけてな?」「おみやげまってる」とか言っている。
「…………うん。いいんだけど、ぜんぜん、なかないのな?」
ノエルたちが拠点に来た日、シルヴァが巣に帰るときに子猫たちは泣きわめいていた。
「それだけ子猫たちも成長したということであろうなぁ」
「ほんとか? ジルカ、ほんとか?」
「たぶん」
ノエルは少しさみしそうな顔をして、子猫たちを撫でていく。
「あには、すぐにもどるからな。もしかしたらひとつきぐらいかもだが?」
「なぁなぁ」「みゃあ」「にゃ」
「ん、いいこにな?」
子猫たちを撫でた後、ノエルは俺の方を見る。
「てぃる、おねがいな? アオたちはあかちゃんだからな……」
「ああ、まかせろ」
それからノエルは村の皆に挨拶してまわる。
最後に、シルヴァに抱きついた。
「ママ、いってくるな?」
「ああ、ノエルは人族なのだ。人族の社会を知る必要はある」
「ん」
「もし辛ければ、こちらで暮らせば良い。ノエルは聖獣でもあるのだからな」
「うん。そしてママの子だよ」
「そのとおりだ」
シルヴァと別れの挨拶をするノエルは泣きそうだった。
「ティル、行ってくる。また近いうちに戻ってくるさ。とはいえ辺境伯家の拠点を作るのには少しかかるし、俺が戻ってくるのはその後になるだろうが……」
「わかってる。屋敷を建てるんだ。簡単にいかないだろうさ」
フィロは色々と忙しいのだ。
フィロが訪れなくても、ノエルはやってくるだろう。
「兄弟子。ありがとうございました」
「カトリーヌも気をつけて。師匠によろしくな」
「ええ、しっかりとお伝えします」
俺がフィロとカトリーヌと話をしていると、リラが言う。
「昨日、ノエルにも言ったのだけど、ノエルをいろんな神殿に連れて行ってあげて」
「神殿ですか? 星見の神以外の神殿にも?」
「もちろん。きっとノエルのためになるから」
星見の神の聖女であるリラがそう言うのなら、そうなのだろう。
少なくともフィロとカトリーヌは思ったに違いない。
「わかりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
フィロとカトリーヌは丁寧にお礼をいって頭を下げた。
それから、挨拶を終えたノエルとガルガル、フィロとカトリーヌを連れて俺は拠点の外に向かう。
安全な腐界の外まで護衛するためだ。
「わざわざ送ってくれてありがとう。ティル」
歩きながらフィロからお礼をいわれた。
「フィロとノエル、ガルガルがいるなら安全だろうが、念のためな」
「のえる、ひとりでも、だいじょうぶだな?」
「まあ、ノエルなら大丈夫だろうな」
末恐ろしい五歳児だ。
「兄弟子。師匠への推薦状もありがとうございます」
「気にしなくていいよ。まあ、ノエルは優秀だから、推薦状なしでも弟子入りが認められると思うけど」
「のえる、ゆうしゅうか?」
「ああ、優秀だよ。末恐ろしい」
「えへへへ」「がうがうう」
ノエルを褒めるとガルガルも嬉しそうに尻尾を振っていた。
その後、腐界の外に出るまで、魔物に遭遇することはなかった。
ノエル親子が去って行くのを俺は一人で見送る。
ノエル親子はなんども振り返って、手を振ってくれていた。
ノエルはすごく才能にあふれた子供だった。
きっと、近いうちに戻ってくるのだろう。
そのときには、もっと成長しているのかもしれない。
それが楽しみだ。
「さて、俺も拠点に戻るか」
俺はのんびりと拠点に向かって、腐界の中を歩いて行った。




